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第2節 

2 環境影響評価の手法

 このように、環境影響評価の運用については、逐次調査検討が進められているが、環境影響評価を実施に移すに当たっては、今後解決しなければならない問題も多い。
 環境影響評価実施上の諸問題としては、?環境影響評価を行う対象(環境に影響を与える行為)をどのように選定するか。?環境影響評価をどの段階で実施するか。?環境影響評価を誰が実施するか。?環境影響評価を行う項目、範囲をどこまでとするか。?環境影響の予測手法をどうするか。?予測結果に対する評価基準をどうするか。?環境影響評価の審査機関及び審査手続(環境情報の公開、住民との関係を含む。)をどうするか。?環境影響評価に基づく政策決定に対する不服申立てと救済の方法をどうするか等が挙げられる。
 ここでは、まず、環境影響評価の対象、手法等について述べることとしよう。
(1) 環境影響評価の対象
 人間を取り巻く自然的な環境はすべての人間活動によって何らかの影響を受け、その結果、人間活動に逆に作用するものであるから、環境影響評価は、原則としてすべての人間活動を対象として実施されるべきものである。もちろん、諸活動の内容によって環境に与える影響は異なり、環境影響評価の内容も環境要素の一部について配慮する程度で済むものから、詳細な環境調査と環境変化の予測、評価を行い、その結果によって代替案の検討、活動の中止が必要になるものまである。現在、環境影響評価は公共事業、工業開発等の環境影響の大きいものを主たる対象として実施されている。
 公共事業は、地域開発の根幹を成すもので、地域開発を誘導し、地域の環境に対して大きな影響を及ぼすものである。
 また、事業がおおむね大規模な土木工事等を伴うため、直接的な環境影響も著しい。
 工業開発も環境に対して大きな影響を及ぼすが、そのうちでも大規模なものは公共事業を含む複合開発であり、特に環境影響が危惧されるほか、大規模なエネルギー開発、火力発電所の設優等も環境に重大な影響がある。
 なお、公共事業や工業開発等を実施するに当たっては、土地利用の適正なあり方に十分配慮する必要がある。
(2) 環境影響評価の実施段階
 環境影響は、開発行為の実施とともに急速に現れる影響と徐々に現れる影響があり、その集積が環境を決定的に変化させてしまう場合も予測される。
 急速に現れる影響としては、土木工事等による地形の改変及び植生の破壊が良い例であり、時間の経過とともに現れる影響としては、例えば、森林の伐採による表土の流失や工場等からの排水による重金属類の底質における蓄積などがある。また、これらの影響の集積による決定的な環境破壊としては生息環境を破壊された動物が徐々に頭数を減じ、一定数以下になると一気に潰滅し、種として存続しなくなるといったことが挙げられる。
 このような問題に加えて、具体的な工場立地等が確定していない段階では、発生源の条件を完全にはは握し得ないといった問題もあるので、環境影響評価は開発行為の種類、規模等を勘案し、計画策定の段階、その計画の実施段階や完成した時点、あるいは完成後操業若しくは活動が行われている段階等において熟度に応じ実施する必要があろう。
(3) 環境影響評価の手順
 環境影響評価の一般的な手順としては、例えば、第2-2図に示すようなものが考えられる。まず初めに、環境に影響を与える行為の内容とその影響を受ける環境の要素を抽出し、各要素の現況をは握する。次いで、開発行為による大気汚染物質の発生量など環境に対する負荷量を算定するとともに、それが環境にどのような負荷を与え、大気汚染濃度の変化など環境質にどのような変化を与えるかを拡散計算式等によって予測する。更に、この予測結果を人の健康の保持、自然保護、生活環境保全の見地から必要とされる環境保全水準に照合することによって影響を評価し、影響が著しく保全水準を満たし得ない場合には、計画の変更、保全対策の変更等の措置が検討されることとなる。
 調査項目の抽出及び決定を行うには、重要な項目を漏らさず項目の抽出を行うために、例えば、調査項目検索表を作成することが考えられよう。第2-3図は、調査項目検索表の一例であるが、この例によれば、横に開発行為の要素(森林伐採、交通、排煙等)をとり、縦に影響を受ける環境要素(地形、水象、植物相等)をとり、どのような行為がどのような環境要素に影響があるかを見ることとなる。
 このようにして問題があると思われる項目を抽出し、更に、それら開発行為及び環境要素の項目を細区分し、同様の方法で2次検索表を作成すれば、調査を必要とする項目を詳細には握することができる。また、必要項目のチェックと同時に、各項目の重要度を表示すれば行うべき調査の程度をも表示することができよう。
(4) 環境変化の予測
 環境変化の予測は、環境影響評価の中心となるものの1つであるが、大気汚染濃度等の環境変化の予測を行う場合には、その前提として植生、大気質、水質のほか、気象、水象等の現況の資料を十分整備することが必要である。
 環境変化の予測は、開発行為による植生破壊面積や想定される工業開発に伴う汚染物質量、大気汚染濃度等を求めることによって行う。
 これらの変化予測は、大気や水の汚染の場合は風洞実験や水理模型実験及び拡散計算式によって濃度を求めることが多い。
 濃度予測の場合重要なことは、予測値の信頼性を確保するため、実測した汚染濃度値等と採用した予測方式との斉合性を検討した上で予測を行うことである。
 自然環境や生活環境等の変化の予測については、植生はく脱のような変化量は確実に予測し得るが、定量的なは握が困難な場合には、極力予測結果の信頼性の確保を図るために、類似する地域の環境変化実態等との比較検討、専門科学者の判断等を参考とし得るであろう。
 環境影響評価は、開発行為による地域の環境が、全体としてどのような影響を受けるかを判断するものであり、個別の汚染物質の排出規制のような場合とは異なり、全体的な影響のは握が必要とされる。そのためには、専門家による全体的な予測が極めて有効である。
(5) 予測結果の評価
 このようにして予測された環境質の変化は、個別の環境質について、人の健康、生活環境の保全等のために達成されるべき環境保全水準に照らして評価されなければならない。その際、大気、水質、植生等個別要素ごとの評価にとどまらず、全体的な環境の評価が行われなければならない。全体的な影響評価の手法ほいまだ十分に開発されているとは言い難いので、今後早急に検討されるべきである。この場合、1つの手懸かりとして、各環境要素に地域における重要度を加重した、加重評価方式も考えられている。更に、評価に当たっては、隣接地域の影響にも留意しなければならない。
 第2-4図は、Aの既存地域に隣接してB地域の開発を計画した場合の模式図である。図の曲線は、大気汚染物質量の等分布線であるが、斜線を引いた部分は、A、Bの両地域が地理的に隔離されているにもかかわらず、相当高濃度の大気汚染地域となる。したがって、これに対する対策としては、両地域を更に遠く離すような土地利用上の配慮か、あるいは新規開発であるB地域の開発規模を縮少する等の措置を講ずる必要がある。
 環境影響評価の結果の表示は、濃度予測等に複雑な計算が用いられることも多いが、結論は論理的、体系的に説明されていることが重要である。また、予測の結果が不確定である場合には、その内容を明らかにし、環境影響の幅を示し、これに対する対策を明らかにすべきである。
 なお、開発行為には国民の福祉向上に密接に関与するものもあり、環境影響評価の結果を十分踏まえて判断がなされなければならない。

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