3 最近における公共用水域の水質汚濁の特徴と要因

　最近における公共用水域の水質汚濁の特徴の第1は、大都市圏内の河川及び沿岸海域において水質が悪化している箇所が多く、現在のところ、全般的に改善のきざしが見受けられないことである。特に、都市内の多くの中小河川の水質は極度に悪化しており、悪臭を発し都市環境を損ない、また、東京、大阪等の上水道源となっている河川は47年においては水質の改善がみられはしたが、なお、水道水源としては、適当な水質ではなく、多摩川、大和川等では、浄化操作にも困難をきたし、一部においては取水停止の事態を生じている(第3-1-3図)。
　大都市圏内の水需要の増大に対応して、河川水の利用はますます高度化しており、下流部の自己流量は一般に少なくなり汚濁を激化させる結果となっている。特に、都市内の中小河川では、そのため河床にヘドロが堆積するようになっている。
　特徴の第2は、内湾、内海、湖沼間の閉鎖的な水域の水質汚濁が依然として進行していることである。
　例えば、海域では東京湾、伊勢湾、大阪湾等が、湖沼では琵琶湖、霞ケ浦、諏訪湖等があげられる。
　このような水域においては、窒素、リン等の栄養塩類が流入することにより、富栄養化が促進される。また、閉鎖的水域においては水中の汚濁物質が沈降しやすく、海底や湖底に堆積し、底質を悪化させることとなるが、このことがまた水質を悪化させることとなる。
　この結果、東京湾、大阪湾、伊勢湾並びに霞ケ浦、諏訪湖では明らかに過栄養化するに至っている。
　このような水質汚濁の進行の要因としては、栄養塩類は降雨、自然の河川水によっても供給されるほか、工場排水や家庭排水中の窒素、リンの排水処理技術がまだ確立されていないためそのまま流入すること、し尿の土地還元がほとんど皆無になったこと及び合成洗剤の使用量が増えたこと等多岐にわたっている。
　第3の特徴としては、カドミウム等の有害物質による汚染が著しく改善されていることである。
　これは、排出水の監視体制が強化されるとともに有害物質による環境汚染の未然防止を図ることの重要性が認識され排水基準が遵守されるに至ったことによるものと考えられる。
　しかし、休廃止鉱山周辺においては、局地的ではあるが、カドミウム等の有害物質による汚染が明らかにされており、抗廃水の中和処理、鉱さい等の堆積物の河川への流出の防止等の汚染源対策を講じているところであるが、今後とも更に休廃止鉱山周辺の汚染の実態は握に努めるとともに監視体制の整備及び農作物の汚染の防止等の諸対策を推進していかなければならない。
　第4の特徴は、PCB(ポリ塩化ビフェニール)、ABS(合成洗剤の主要成分)等の化学製品による汚染が相当広範囲にわたっていることである。
　PCBについては、47年度の環境汚染実態調査の結果、全国各地で、高濃度に汚染された底質や魚介類が検出され、大きな社会不安を招いたが、既にこのような水域については、しゅんせつ、除去等の対策が進められ、また、継続的に監視調査等も実施されている。
　一方、都市河川で一様に問題となっているABSは、その泡立ち等により美観を損ない、また、合成洗剤中に配合されているリン酸塩は工場排水と家庭排水中の総リン量の40%近くを占めているとの調査結果もあり、湖沼や海域の富栄養化を促進する重要な要因と考えられており、合成洗剤中のリン酸塩の配合量の削減等の検討が進められている。
　特徴の第5は、従来火力発電所は臨海工業地帯に立地するケースが多かったが、最近では、原子力発電所はもちろん火力発電所も水質汚濁のほとんどない水域に立地するようになり、また、大規模化、集中立地化の傾向が強まっていることも原因となって、原子力発電所や火力発電所の温排水による海洋生物への影響が問題とされるようになり、発電所の新設をめぐり紛争問題の発生をみるに至ったことである。
　第6の特徴は、ダムの築造に伴い、濁水が長期化し、水産資源等に被害をもたらしたり、従来の清流が濁って、観光価値を低下させているような事例があることである。このような現象は、宮城県の一ツ瀬川、和歌山県の新宮川等で起こっている。この原因としては、ダム上流域に崩壊地が多く、かつ、土粒子が非常に微細な地質の地域において、洪水時に流入した濁水が長期間に徐々に放流されることがあげられる。このような濁水の長期化は、自然的要因による面もあり、その対策として、崩壊地の治山事業の促進等が考えられるほか、ダム建設に際して、選択取水施設を設置する等の対策を行っている。
　また、北上川水系赤川、最上川水系酸川、洞爺湖、田沢湖等の火山地帯の水域は、自然の湧水等が酸性が強いうえ、休廃止鉱山からの坑内水等が流入し酸性化を促している箇所もある。