4 自動車排出ガス対策の推進
(1) 概観
我が国におけるモータリゼーションの進展は著しく、自動車保有台数は47年度末現在2,387万台で、前年度に比べ12%の伸びを示しており、米国に次ぐ世界第2位の台数である。特に、乗用車は過去10年間年平均30%の割合で増加しており、47年度末の保有台数は1,296万台に達し、自動車の保有台数全体に占める割合は、46年度末の51%から47年度末54%と高くなっている。
また、47年度における自動車輸送が国内の旅客及び貨物総輸送量に占める割合は、輸送人キロにおいて51%、輸送トンキロにおいて45%に達している。
このように自動車輸送活動は高い水準を維持しているが、自動車排出ガスのうち一酸化炭素による大気汚染はかなり改善の傾向を示している。(第2-2-1図参照)。
自動車排出ガス対策には、1台当たりの自動車から大気中に排出される排出ガスの量そのものを減少させる発生源対策と道路整備・交通規制等によって自動車の流れの円滑化、自動車の交通量の削減を図って一定地域における自動車排出ガスの排出総量を減少させる自動車環境対策の二つがある。環境庁としては、全国的な自動車の急速な普及及び道路交通の著しい発展にかんがみ、発生源対策に重点をおいて施策を進めてきたところであり、49年1月主として一酸化炭素及び炭化水素の排出量の大幅な低減を図るための画期的な50年度からの規制を実施するため、新しく自動車排出ガスの量の許容限度を制定した。
(2) 発生源対策
発生源対策については、大気汚染防止法において環境庁長官が自動車排出ガスの量の許容限度を定め、運輸大臣は道路運送車両法に基づく命令で自動車排出ガスの排出に係る規制に関し必要な事項を定める場合には、許容限度が確保されるよう考慮することが規定されている。現行のガス規制は、いわゆる48年度規制を骨子とするもので47年12月7日付け環境庁告示第115号により、ガソリン又は液化石油ガスを燃料とする普通自動車・小型自動車(二輪自動車を除く。)及び軽自動車(二輪自動車を除く。)を対象とし、従来の規制に加え、一酸化炭素(CO)の許容限度の強化並びに従来未規制であった排気管から排出される炭化水素(HC)及び窒素酸化物(NOx)について新たな許容限度の設定が行われるとともに乗車定員10人以下又は車両総重量2,500キログラム以下の軽量車に関する排出ガスの量の測定方法として都市内における自動車の走行実態を考慮した10モードによる測定が採用された。(第2-2-6表)。
48年度規制は、47年12月12日付け運輸省令第62号に基づき、新しい型式により生産される新車いわゆる新型車については48年4月から、従来の型式により生産される新車いわゆる継続生産車については同年12月からそれぞれ実施が開始された。
使用過程車の自動車排出ガス対策としては、ガソリン又は液化石油ガスを燃料とする規制対象自動車(48年10月から軽自動車が追加された。)について、一律にアイドリング時の測定により一酸化炭素濃度を4.5%以下とする規制が実施されている。また、炭化水素及び窒素酸化物の排出を低減させるため、48年5月から点火時期制御方式、触媒反応方式又は運輸大臣の指定する方式の排出ガス減少措置の装着の実施がエンジン総排気量の大きい自動車から、また大都市及びその周辺から段階的に行われており、50年3月までに終る予定である。
(3) 自動車環境対策
大気汚染防止法は、都道府県知事が自動車排出ガスによる大気の汚染の著しい道路の部分及びその周辺区域についてその環境濃度の測定を行い、濃度が一定の限度を超えた場合に都道府県公安委員会に対し交通規制の要請を行うとともに必要に応じ道路管理者や関係行政機関に対し道路構造の改造その他自動車排出ガスの濃度の減少に資する事項について意見を述べる制度を規定している。しかし、この制度には限界があり、自動車交通量の増大に伴い自動車排出ガスによる大気汚染の著しい都市又は地域については、長期的な観点にたって自動車交通量を抑制し、又は減少させるとともに自動車をとりまく環境を整備するための対策の強化が必要となっている。交通規制の面においては、駐車禁止規制、路線バス専用レーンの設置、通学道路、買物道路等における車両の通行禁止等の対策が強化されているとともに交通総量の削減、道路利用の合理的配分及び交通流のパターンの改善を目的とする都市総合交通規制が実施されつつある。また、道路整備等の面においても適切な路線の選定、土地利用との調整、副都心の整備、流通施設の都心周辺への分散等の施策について検討が進められている。
(4)50年度規制
47年10月、中央公害対策審議会から「自動車排出ガス許容限度長期設定方策について」中間答申がなされ、このなかで、我が国の特に都市における大気汚染の深刻な状況にかんがみ、米国の1970年大気清浄法改正法(マスキー法)の予定する1975年及び76年の自動車排出ガス規制と同程度の規制を我が国においても行うべきであるとの結論が示された。その内容は、50年4月以降に生産される自動車の許容限度の設定目標値を乗用車を基準として平均排出量において、1キロメートル走行当たり、一酸化炭素2.1グラム以下、炭化水素0.25グラム以下、窒素酸化物1.2グラム以下とし、また、51年4月以降に生産される自動車の窒素酸化物の平均排出量を1キロメートル当たり0.25グラム以下とするものである。この答申を受けて環境庁は、47年10月5日付け環境庁告示第29号により自動車排出ガスの量の許容限度の設定方針を定めた。
この設定方針に沿って、50年度からの自動車排出ガスの規制強化を実現するため、関係省に対し排出ガス防止技術の開発及びその実用化の促進について関係業界への指導を強く要請してきた。この間、二つの自動車製造会社が50年度の規制目標値を満足する低公害乗用車の量産化に成功した。東洋工業は48年6月から、本田技研は同年12月からそれぞれ低公害乗用自動車に適用される物品税及び自動車所得税の軽減措置の適用を受けて発売を開始した。
50年4月から実施される自動車排出ガス規制の基準となる自動車排出ガスの量の許容限度は、49年1月21日付け環境庁告示第1号で制定されるとともに告示された許容限度が確保されるよう規制を実施するため、道路運送車両法の保安基準及び道路運送車両法施行規則の改正が行われた。その概要は次のとおりである。
ア 50年4月以降に生産されるガソリン又は液化石油ガスを燃料とする普通自動車・小型自動車及び軽自動車のうち乗車定員10人以下の乗用車、乗車定員11人以上車両総重量2,500キログラム以下の軽量バス及び車両総重量2,500キログラム以下の軽量トラックを対象として、一酸化炭素、炭化水素及び窒素酸化物に関する排出規制を強化する。
イ 上記対象自動車の排出ガスの量を測定する方法としては、従来の10モードによる測定に加え、コールドスタート時の排出ガスの実態を適切に評価しうる11モードによる測定を併用する。
ウ 乗用車に関する許容限度については、これに関する自動車排出ガス防止技術の実用化の進捗状況にかんがみ、中央公害対策審議会中間答申及び環境庁告示第29号に示された一酸化炭素、炭化水素及び窒素酸化物それぞれの平均値に適切な管理幅を加える等の方法により値を設定した。また、軽量バス及び軽量トラックに関する許容限度については、一般的に実用化しうる排出ガス防止技術で低減できる限りの値を設定した(第2-2-7表参照)。
この結果、乗用車については、平均排出量で現行規制に比べ一酸化炭素89%、炭化水素91%、窒素酸化物45%の低減率となり、軽量バス及び軽量トラックについては現行規制に比べ一酸化炭素29%、炭化水素28%、窒素酸化物17%の低減率となる(第2-2-8表参照)。
エ 50年度規制は、具体的には、50年4月以降に型式指定を受け又は一酸化炭素等発散防止装置の型式認定を受けた自動車の新車については同年4月から、同年3月以前に型式指定を受けた自動車の新車については、継続生産車として同年12月から(2サイクルの原動機を有する乗用車及び輸入車については、51年4月から)それぞれ実施される。
50年度規制の実施は自動車排出ガスによる大気汚染の改善に相当大きな効果をもたらすものと予想されるが、大気汚染から国民の健康を保護し、生活環境を保全するためには更に自動車排出ガス対策を推進する必要がある。
なお、いわゆるマスキー法により世界に先立って画期的な自動車排出ガス規制を予定したアメリカにおいては、1973年4月自動車メーカーの1年間の実施延期申請が認められ、暫定基準が制定されたが、最近更にこの暫定基準の適用期間の延長等が問題となっている。また、欧州諸国においては、国連欧州経済委員会の設定した測定法である15モードにより一酸化炭素及び炭化水素の排出規制を行う国が増えているが、窒素酸化物の排出規制はまだ実施されていない状況である。
(5) ガソリンの低鉛化対策
自動車燃料であるガソリンの中にはオクタン価を高めるために4-アルキル鉛が添加されているが、これが人体及び触媒式排出ガス減少装置に悪影響を及ぼすため、加鉛量の低減化についての対策が推進され、その結果、48年4月〜6月間の平均加鉛量はハイオクタン・ガソリンでは、1リットルにつき0.182立方センチメートル、レギュラー・ガソリンでは、1リットルにつき0.085立方センチメートルに下り、45年度の加鉛量に比べ、ハイオクタン・ガソリンで41%の低減率、レギュラー・ガソリンで45%の低減率となっている。この加鉛量の水準は国際的にみても低いものである。また、加鉛量の低減に伴い、ガソリン中の芳香族炭化水素等が増加することを極力抑制するよう行政指導が行われている。