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第2節 

3 環境規制強化の方向

 我が国の環境保全を達成維持していくため、今後とも環境規制は、適正に強化されていかなければならない。
 その第1は自然環境保全のための規制である。
 公害発生因子の除去は、自然環境の維持増進に寄与することとなろうが、これのみでは、日光、大気、水、土、生物等から構成されている微妙な自然の系を保全することは不可能であり、美しい国土と良好な環境を保持し我々の子孫に伝えることもできない。このような観点から自然環境保全法をはじめとする関係法令に基づいて、自然環境をその特性に応じて保全していくことが重要である。このため、その主要な方策として、自然環境保全法に定められている原生自然環境保全地域、自然環境保全地域等の地域指定を促進し、こうした地域における開発を地域住民の生活安定等に配慮しつつ厳正に規制し、その地域の自然環境の特性を十分保全されるようにしなければならない。
 第2は、化学物質の規制についてである。
 PCB等の蓄積性有害物質が国民生活に不安を与えてきたことは、先にみたとおりである。こうした事態に対して、従来は、化学物質が環境中に放出された後に、その排出規制や除去等の措置を講ずることにより対処してきた。しかし、難分解性等の性状を有する有害物質が環境中に放出された後徐々に我々の健康に影響を与え、またその除去が容易でないことを考えると、今後は更にこれら化学物質の製造又は輸入の段階において事前に化学物質の性状等を審査し、環境汚染のおそれがある場合はその製造、使用等を規制することが必要である。このため、昨年10月「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」が公布されたが、今後は、この法律を適正に運用することにより、化学物質に対する厳格な規制を通じて、その未然防止の徹底を図る必要がある。
 第3には、大気関係、水質関係の規制の強化である。
 大気関係の環境基準に関しては、昨年5月の二酸化窒素、光化学オキシダントの設定に続いてこれまで未設定の鉛、炭化水素、弗素及びその化合物等有害物質について環境基準の設定を急ぐ必要がある。
 その設定の計画については、WHOにおいて国際的な資料収集とクライテリアの検討が進められており、こうした動きも勘案しつつ基準設定の優先順位を十分検討すべきである。また、大気関係では、人の健康に係る基準のみ設定され、植物影響、視程の障害等生活環境に係るものは未設定であるが、既に弗素及びその化合物のように環境に悪影響を及ぼすとみられる物質も現れており、WHOの大気の質に関する指針等を考慮しつつ、生活環境に係る環境基準設定の検討を進めるべきである。
 水質関係では、有害物質としてPCB、総クロム等の環境基準の設定が急がれている。また、水質の富栄養化の原因となっているとみられる排水中に含まれる窒素等や発電に伴う温熱排水に対する規制も環境基準の設定等を通じて促進する必要がある。生活環境項目に係る環境基準についてもそのあてはめの促進を図らなければならない。
 次に、排出基準についてみると、大気関係については、総量規制方式の導入が現下の最大の課題となっている。
 昨年の二酸化いおうに係る環境基準の強化改定に伴ってその排出基準の強化を進める必要があり、現行制度におけるいおう酸化物の排出量を定めるK値の強化改定を行うこととしたところであるが、こうした排出基準による規制によっては、環境基準の確保が困難な地域がある。このような地域全体の排出量を一定の計画のもとに望ましいレベルに抑えるために現行の規制方式にあわせて個々の排出源の排出総量を適切なレベルに規定する必要がある。
 こうした要請にこたえて、総量規制方式の導入を図るため、第72回国会に大気汚染防止法の一部改正法案が上程されている。総量規制の対象物質としては、いおう酸化物、窒素酸化物等が考えられるが、当面、地域における排出総量の算定が技術的に可能となっているいおう酸化物について総量規制方式を適用することが妥当であり、その他の物質については、その適用のための技術的検討を急ぐ必要がある。
 水質関係の排出基準についても同様に、総量規制方式を導入する必要があるが、水質汚濁の場合は特に総量規制を前提としたその監視測定技術等について今後確立すべき問題を残しており、これらの問題を早急に解決して総量規制の導入を図るべきである。このような観点から、昨年成立した瀬戸内海環境保全臨時措置法に基づく沿岸11府県からの工場排水に係るCODの汚濁負荷量削減の割当て制度は、総量規制方式を指向するものとして注目される。これは、瀬戸内海の水質汚濁防止のため、産業排水について51年秋までに47年当時のCOD汚濁負荷量を半減させることを目標としたもので、水質汚濁の著しい地域における当面の改善策の一つの方向を示しているものといえよう。
 一方、自動車排出ガスについては、乗用車その他軽量車等に関し、50年度から実施される排出規制の強化が決定されたが、これは、自動車排出ガスによる大気汚染の改善に相当大きな効果をもたらすものと予想されるが、更に自動車排出ガス規制を推進する必要がある。

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