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第1節 

2 石油削減のもたらす環境保全上の問題

 国民に多方面に利用されると同時に、環境悪化の大きな要因となってきた石油供給の基調に大きな衝撃を与えた「石油危機」のもとにあって、原油輸入の削減は、環境保全上どのような影響を及ぼすとみられたのであろうか。
 石油削減の環境影響を整理してみると第2-5図のとおりとなる。
 石油削減が環境保全上プラスに作用する面としては、エネルギー源及び原料としての石油の供給削減は、物資の生産、流通、消費の絶対量を減少させることになるため、通常、汚染因子発生量を減少させることになることがあげられよう。
 しかし、同時に、石油供給量の削減は低いおう重油等の良質燃料の供給削減等をもたらし、局部的に公害防止上好ましくない潜在的要因となることも考えられる。また、石油削減を契機を新エネルギー開発を一層推進していくこととなろうが、その際に環境保全に十分配慮していく必要がある。
 参考までに、石油削減の時期に当たる本年1月について、環境保全関係の幾つかの指標をみてみると、まず、大気汚染因子の濃度は、第2-6図に示すとおりである。また、東京都のごみの収集量は、前年同月の0.4%減となっている。自動車走行台数を東名高速道路東京インターチェンジ通過台数で見ると、258万台で前年同月の3.4%減となっている。東京から富士山の見える日数を調べてみると、第2-7図のように、昨年1月が8日であったのに対し、本年1月は18日となっている。これらの現象は、もちろん、気象条件、公害規制の浸透その他の要因が複雑に絡み合った結果生じたものであって、石油削減の環境保全面への影響を短期的なデータによってみることは困難なことであるが、これを契機として、国民全体がエネルギー・資源の節約を通じて環境保全に一層努力するよう今回の石油危機を一つの教訓として受けとめることが肝要である。
 ところで、アメリカにおいては、既に昨年4月に自動車排出ガスに関する1975年規制の1年間延期、7月には同1976年規制の1年間延期を決定していたが、11月初めには「石油危機」に対処して大気汚染防止基準の緩和等を含むエネルギー緊急措置法案が議会に提出された。
 更に、本年1月に発表された大統領エネルギー教書において、政府は、自動車排出ガスの1975年暫定基準を77年まで2年間延長することを議会に希望するとともに環境破壊の点で建設許可の遅れていたアラスカ・パイプライン建設を許可することを言明した。
 その後、エネルギー緊急措置法案は、議員修正による原油価格引下げ条項が追加されたため、大統領の拒否権発動により成立をみなかったが、こうした動きから、アメリカにおいては石油危機に対応して、これまでの環境保全政策の実施スケジュールを一部で遅延させる方針をとり、石油問題に当面し環境保全を再検討する姿勢がうかがわれる。
 我が国の場合は、狭い国土に高密度の人口と経済活動が存在するという厳しい条件の下で環境保全を達成していく必要があることを十分留意すべきであろう。

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