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第2節 

2 水質汚濁

 水質汚濁による環境汚染を防止するには、発生源において汚濁負荷量をできるかぎり減少させることが基本であるが、工場等の汚染源から排出される汚濁水の態様、性状は個々の工場等の業態に応じてきわめて多種多様であるため各分野において発生源の実情に最も適した処理技術を開発すべく種々の研究がなされている。
 国の試験研究機関においてもこれらの実情をふまえて、パルプ工場から排出される有機性物質を多量に含んだ排水、鉱山、重金属使用工場等から排出される重金属含有排水および工場、船舶等から排出される含油排水等について各種の処理技術が研究されている。これらの研究は酸化還元、凝集沈殿、吸着捕集といった物理化学的現象を利用した処理方法と活性汚泥等の微生物を利用した生物化学的処理方法に大別される。
 排水の処理方法は汚濁物質を効率よく除外するものでなくてはならないのは当然であるが、資源の有効利用、処理コストの低減といった観点から処理水の再利用、有用物質の回収といった点もあわせて考慮する必要がある。そのための研究として、処理水の再利用に関するものとしてはパルプ排水処理技術、微生物による廃水処理技術などがあり、有用物質の回収利用に関するものとしては、重金属含有排水処理技術などがある。
 また一方では、排水処理とその管理を電子計算機により常に最適な状態において行なうシステム化のための研究も同時に進められており、これは、汚染変動を一定範囲内に保持する汚染管理、処理効率を一定に保持する処理管理および排出基準内で放流する放流管理の3つのサブシステムからなっている。
 水質汚濁による環境汚染を抜本的に防止するためには、汚濁物質を環境に出さないか、あるいは汚濁物質を発生させないいわゆるクローズドシステムが最も望ましい方法である。このための研究としては染色工程の非水化を目的として染色排水汚濁防止技術に関する研究が実施されている。しかし、全ての排水をクローズドシステム化することは現在の技術水準においても、経済コストの面からも不可能に近いことであり、また、クローズドシステム化研究の多くはようやくその緒についたばかりであることを考え合せると、環境汚染を防止するには汚染源において汚濁負荷量を極力減少させなければならないことに加えて、さらに自然のもつ浄化能力を解明し、汚濁物質の排出量がこの能力を超えないようにする方策をとらなければならない。
 そのため、自然環境における汚濁物質の溶解、拡散、沈降などの物理化学的および生物による分解や濃縮などの生物化学的挙動、また、汚濁物質が与える環境変化、生物影響などを究明するため各種の研究や調査が実施されているが、この代表的なものとして瀬戸内海環境保全に関する研究があげられる。
 この研究は瀬戸内海の大型水理模型を建設し、電子計算機制御により模型上に人工の海洋環境をできるだけ実際に近いかたちで再現しようとするもので、46、47両年度で1,348百万円をかけ建設に着工したモデルが近々完成の予定である。この大型水理模型では当面現地と模型とを相似させるための実験を実施する必要があるが、これをふまえて河川、臨海工場等から流入する汚濁水の拡散現象の解明や汚濁水の流入による水質への影響について研究するほか、埋立てや海中工作物の構築が潮流におよぼす影響等を解明する。これらの研究成果は、排水の放流計画や埋立計画等の適否を合理的に判断するうえできわめて重要である。なお、この研究と密接な関係がある調査として瀬戸内海水質汚濁総合調査があり、これは瀬戸内海全域について6km間隔に測定点を設け水質の一斉点検を行なっている。調査項目は水質についての一般的な項目のほか、とくに、最近富栄養化の進行により赤潮が頻繁に発生したいる現状にかんがみ、栄養塩類の分布状況やプランクトン調査があり、また、海水交換率調査、底質調査等を実施している。

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