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第2節 

2 野生鳥獣の保護

 わが国の野性鳥獣は、近年の国土開発の進展に伴う生息環境の悪化、狩猟の影響等により、その生息数の減少が生じており、また、トキ、コウノトリ、カワウソなどは絶滅の危険にさらされるに至つている。また、国際的に渡り鳥や稀少動植物の保護の問題が大きくとりあげられ、国際的規制の動きが活発化してきた。こうしたなかで、今冬わが国各地に渡来したコウノトリが大きな話題となるなど鳥獣保護に対する国民世論も急速に高まつてきており、これに即応して鳥獣保護行政の充実強化が要請されているものである。
(1) 鳥獣保護および狩猟の適正化
 現行の「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」は、改正後すでに10年を経過しているが、とくに近年国民の鳥獣保護に対する関心が高まり、また国際的にも協力してその保護を強化しようとする気運の高まりに対応してこれを再検討する必要が生じている。このため、今後新しい鳥獣保護行政のあり方について意見を聞くため、47年10月、中央鳥獣審議会に「鳥獣保護および狩猟の適正化について」諮問がなされ、同審議会において検討が進められた。
(2) 特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律の制定
 わが国における絶滅のおそれのある鳥類(以下「特殊鳥類」という。)については、すでに「鳥獣保護及狩獣ニ関スル法律」により保護措置が講じられているが、日米渡り鳥等保護条約の調印を契機に、その保護を一層強化するため新たに「特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律」が制定された。法律の骨子は次のとおりである。
? 特殊鳥類又はその卵は、環境庁長官が認める例外を除き譲渡譲受等を禁止すること。
? 特殊鳥類又はその卵は、国際協力として学術研究、養殖を行なう場合、その他輸出することが特にやむを得ない場合であって政令で定める要件に該当する場合を除き、輸出してはならないこと。
 なお、要件として本邦における種の保存に支障がないことを含めて、環境庁長官の認定が必要とされた。
? 特殊鳥類又はその卵は、輸出国の輸出許可書又は適法捕獲証明書を添付したものでなければ原則として輸入してはならないこと。
 また、特殊鳥類としては、中央鳥獣審議会の意見をききコウノトリ、トキ等28種が総理府令で指定された。その内容は第6-2-6表のとおりである。
 なお、これに関連して「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律施行規則」の一部を改正し、違法捕獲鳥獣の加工品の範囲を拡大して規制を強化する等の措置を講じた。


(3) 鳥獣保護区の設置等
 鳥獣保護区は、鳥獣の保護繁殖を図るため、環境庁長官または都道府県知事が設定するもので、その区域内での鳥獣の捕獲が禁止されるほか、営巣施設等の保護措置が講じられている。47年度は国設、都道府県設あわせて242カ所265,316ha設定したが、愛知、三重の両県にわたる木曽三川鳥獣保護区、熊本県の有明鳥獣保護区など昨年に引きつづき水鳥の保護を図るための鳥獣保護区の設定に力が注がれた。
 また、鳥獣保護区内で特に鳥獣の保護繁殖上重要な区域については特別保護地区の指定をし、鳥獣の生育環境の保全を図っており、47年度は51カ所12,089ha指定した。
 48年3月末現在鳥獣保護区等の設定状況は第6-2-7表のとおりとなっている。


(4) 鳥類観測ステーションの整備
 わが国における渡り鳥の標識調査は、戦前から小規模ながら行なわれてきたが、日米渡り鳥等保護条約の締結を契機に渡り鳥の生態を知るうえで最も効果的な手段としてその規模の拡大を図ることとし、渡り鳥の生態を知るうえで最も効果的な手段としてその規模の拡大を図ることとし、渡り鳥の特に多く集まる渡来地、繁殖地、越冬地等のうち重要な地点を一級鳥類観測ステーションとして3か所、渡り鳥の通過地点を二級鳥類観測ステーションとして15か所指定して標識調査、生態観察を実施した(第6-2-8表)。このうち一級ステーション2か所、二級ステーション3か所に観測所等の施設を整備した。


(5) 保護対策調査の実施
ア 干潟鳥類調査
 渡り鳥の渡来地である干潟は、シギ、チドリ類等の水鳥にとって採餌場所として欠かせないものであり、その保護を図るため47年度において有明湾の一部等10か所について、干潟の現況、鳥類の生息状況、生息環境、保護対策等についての調査を実施した。
イ 特定鳥類等調査
 絶滅のおそれのある鳥類およびこれに近い状態にある鳥類、ならびに特有の生態系を有する島しよに生息する鳥類の保護対策を確立するため、47年度に北海道ユルリ、モユルリ島のほか8島しよについて、その生息状況、生息環境等実態調査を実施した。
(6) 野鳥の森の整備
 自然に親しみながら野鳥の生態観察を通じて国民の鳥獣保護思想の普及啓蒙を図るため、野鳥の保護繁殖施設、野鳥観察路、観察舎、休憩所等を整備した「野鳥の森」を47年度は北海道白金等4か所に設置した(第6-2-9表)。


(7) 国際協力の強化
ア 日ソ渡り鳥等保護条約に関する専門家会議の開催
 日米渡り鳥等保護条約の調印に引きつづき国際間の保護協力体制をさらに強力に推進するため、わが国に渡来する渡り鳥の種の約80%を占めるソ連との間で、48年2月モスクワにおいて条約に盛り込むべき内容を検討するための専門家会議を開催した。
イ 絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引に関する条約
 48年2月12日から3月2日までワシントンにおいて絶滅のおそれのある世界の野生動植物を国際間の協力によつて、主として商取引の面から規制を強化して保護の徹底をはかろうとする国際会議が76カ国の参加のもとに開催され、この会議において「絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引に関する条約」が採択され、わが国もこの最終議定書に署名を行なった。
 この条約は、動植物を絶滅のおそれがあり商取引の全面禁止を含めて特に厳重な取引規制を必要とするもの、現在絶滅のおそれはないが厳重な取引規制をしなければ絶滅のおそれのあるもの、各当事国が国内規制を効果的にするため取引を規制する必要があるものの三つに区分し、輸出、輸入等を規制しようとするものである。これだけ多数の国が集まって動植物の保護を図ろうとする国際条約が採択されたことは、自然保護に関する国際世論の高まりを示したものであり、その意義はきわめて大きい。

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