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第2節 

1 自然公園

(1) 自然公園における自然保護
 わが国の自然公園は、傑出した自然の風景地のうち、同一風景型式中わが国の風景を代表するとともに、世界的にも誇り得る傑出した自然の地域を国立公園に、国立公園の風景に準ずる傑出した自然の風景地域を国定公園に、また、都道府県の風景を代表する傑出した自然の風景地を都道府県立自然公園に指定している。
ア 自然保護のための行為規制
 自然公園のすぐれた自然の風景地を保護するため、自然公園の中に特別地域および特別保護地区を指定し(第6-2-1表)、当該地区内において風致または景観を損なうおそれのある一定の行為は、環境庁長官または都道府県知事の許可を受けなければならないこととされている。
 昭和47年度における国立公園特別地域、特別保護地区における行為の制限に係る環境庁長官の許可の状況(都道府県知事委任事項分は除く。)をみると、行為の種類別では、工作物の新築、増築、改築が約64%を占め、次いで土石の採取が約27%となっており、この2種類で行為許可のほとんどを占めている。
 公園別の許可状況は、富士箱根伊豆が第1位であり、ついで瀬戸内海、日光、中部山岳 の順となっている(第6-2-2表)。
 以下、工作物の新、改、増築及び土石の採取など自然公園の風致景観に与える影響の大きいものについて概要をみてみることとする。
? 道路建設
 自然公園内における道路新設による自然状態の改変は、道路開さく工事に伴う直接的な地形、植生の破壊にとどまらず、自動車利用の増大、気象条件の変化等により二次的な自然景観の破壊をもたらす場合がある。
 したがって道路の新設の取扱いについては、事前調査を十分行ない、路線および工法の決定等にあたって、自然破壊をもたらさないよう十分実地に指導のうえ、新設の諾否を決定することとし、次のような地域については建設を避けさせるようにしてきた。
() 特別保護地区の全部およびこれに準じた広範囲にわたって原始的な自然環境を持している地域
() 亜高山性植生または高山性植生を有する地域であって、車道建設によって植生が破壊された場合、緑化復元が困難である地域
() ()以外であっても極盛相またはこれに近い天然林(ただし、第3種特別地域を除く。)
() 特異な地形、地質および自然現象を呈する地域
() 海中公園に近接した海岸
() 全国的に貴重な植物群落地および、湿原等の人為に弱い植生の地域
() 野生動物の生息地域のうち、全国的にみて貴重な種類の生息地域、高密度生息地域および国際的にみて重要な渡り鳥の渡来地
? 別荘分譲地の造成
 特別保護地区等極めて風致景観のすぐれた地域内においては、別荘分譲地そのものを許容しないこととしているが、その他の地域で許容する場合であっても、当該地域の植生を一斉に剥ぐようなヒナ壇式造成ではなく、現在の地形、植生の改変を極力少なくするような方法で、道路、給排水施設、配電線施設等生活するうえで必要不可欠のものの施設を設ける場合に許容することとしている。
 また、分譲地造成後において、個々の建築物の新築等が改めて申請されることとなるがその際、敷地の造成は建築に必要な最小限にとどめるとともに、建築物自体についても建ぺい率20%以下、高さは2階建以下におさえ、また、必要に応じて、建物周辺に樹木の植栽を指導するなど、風致景観に与える影響を極力軽減させるような方策をとることとしている。
? 土石の採取
 道路、港湾、大規模なダム等の建設に伴って土石の採取、特に採石行為が自然公園内にあっても増大している。土石の採取行為は、自然公園の重要な構成要素である植生や地形を同時に大幅に改変させ、その復元はきわめて困難であり、自然公園の風致景観の保護上大きな支障を及ぼしている。
 とくに、河川砂利の減少により山砂利への転換から、大規模な採石行為が自然公園の区域内にまで進出してきているが、行為が長期にわたり、また、採石跡地の修景のための植栽、緑化の困難なことと相まって、風致上、保護上大きな問題となっている。
 したがって、採石行為については、風致上の支障をできるだけ軽減させるよう採取の期間、採石の方法、跡地の整理などについて指導し条件を付することとしている。
イ 管理体制の充実等
 国立公園内における風致景観を維持管理するとともに、公園事業者に対する指導、公園利用者に対する自然解説等広範な業務を行なうため阿寒、十和田八幡平、日光など主要な8公園には国立公園管理事務所を設置するとともに、その他の地区については単独で駐在する国立公園管理員を配置している。これらの国立公園管理事務所および国立公園管理員は、26国立公園、約200万haに及ぶ広大な地域を管理の対象としており、かつ、今後における産業開発や観光開発の進展、利用者の増加することを予想した場合、国立公園現地管理体制の整備が望まれる。
 また、国定公園等の現地管理体制についても都道府県の実情によるが、適正な管理を行なうためには現行のままでは十分とはいいがたく今後、関係都道府県を指導し、管理体制の早急な整備を図る必要がある。
 このほか、自然公園内の重要な景観要素である森林を病害虫から保護するため、総理府所管の国立公園集団施設地区のうち病害虫の発生地区においては、薬剤散布や被害木の伐倒処理等も行なっている。また、環境浄化対策としての美化清掃を国立公園管理員を中心として実施しているが、46年度からはごみ焼却設備等必要な清掃設備の整備について補助し、一層の効果を挙げることとなった。
ウ 国立公園内の湖沼、湿原の指定
 国立公園および国定公園の湖沼等の水質汚濁を防止し、風致保護を図るため、国立公園もしくは国定公園内の特別地域、特別保護地区内にあって環境庁長官が指定する湖沼、湿原または、これらの周辺1km以内の流水が、これら湖沼、湿原へ流入する水域へ排水設備を設けて排水することおよび海中公園地区において汚水または排水設備を設けて排出することが規制されるようになった。これは湖沼等の風致保護対策としてとられたものである。この法律改正に基づき、46年11月国立公園の特別保護地区内の35の湖沼、湿原を指定した(第6-2-3表)。さらに残された湖沼、湿原については、46年度から所要の調査を実施しており、この調査結果を検討し、逐次指定を進めることとしている。
 なお、その調査結果を湖沼別に要約すると次のとおりである。
? 中禅寺湖(日光国立公園)
 汚濁はまだ軽度であるが、過去のデータと比較して透明度は明らかに低下しつつある。本湖の主要な汚濁源は湯ノ湖流出水であることが明らかになったので、湯ノ湖の浄化は早急に達成する必要がある。
? 湯ノ湖(日光国立公園)
 今回調査した10湖沼中汚濁が最も進行している。本湖の主要汚濁源としては湯元地区の未処理下水であり、さらに窒素、リン等栄養塩については、下水処理水も重要である。
? 尾瀬沼(日光国立公園)
 過去のデータと比較し、透明度はとくに減少していない。ただし、大腸菌群は湖水全体にわたってかなり検出されているので、今後の水質変化に注意する必要がある。COD、T-Pが透明度の近似する他の湖沼よりかなり高いという特徴がみられたが、これは本湖が尾瀬の高冷地にあり、周囲が湿原化しているため、天然の腐植栄養湖としての性格をかなり有していることに原因があると推定される。
? 芦ノ湖(富士箱根伊豆国立公園)
 本湖は、近年観光客数の増加に伴い、次第に汚濁化が進行してきている。透明度は4m以下に減少し、夏季には下層が嫌気化して、高濃度のNH4-Nが溶出するなど、汚濁はすでに放置出来ないレベルまで進んでいるので早急に汚濁防止対策を講ずる必要がある。
? 本栖湖(富士箱根伊豆国立公園)
 今回調査した10湖中、汚濁は最も少ない。汚濁化の徴候としては大腸菌群が年間平均値で100cc中6個検出されたのみであった。本湖水質の最も大きな特徴として、T-Nはすでに富栄養湖の基準近く含まれているが、T-Pが非常に少ない点があげられる。また透明度が高いにもかかわらず、夏季の下層にかなりのNH4-Nが蓄積されているという結果が得られた。本湖については、当面、こうした水質特性について継続調査を行なうことが必要である。
? 西湖(富士箱根伊豆国立公園)
 本湖の透明度は本栖湖に次ぎ、汚濁化は本栖湖より若干進行していることが明らかとなった。水質特性は、本栖湖にほぼ同じであり、T-Nはすでに富栄養湖の基準に達しているが、T-Pが非常に少ないため、富栄養化を免かれているものと推定される。本湖の汚濁防止策としては、当面大腸菌群数を本栖湖レベルに低下させるべく適切な措置をとることと、本栖湖と同様、夏季、下層に高濃度のNO3-Nが蓄積されているという結果が得られたので、継続調査により、その原因究明が必要である。
? 山中湖、川口湖(富士箱根伊豆国立公園)
 この両湖の汚濁は、西湖よりかなり進行してきており、夏季の下層が嫌気化してNH4-Nが高濃度溶出するなど、すでに汚濁は放置出来ないレベルに達している。両湖の定住人口、観光客数はともに富士五湖の中では最も多く、これから排出される下水が、主要な汚濁源となっているのは明らかなので、早急にこれら汚濁源対策を進める必要がある。なお、両湖とも窒素に比較しリンが過小なため、過度の富栄養化を免れていると思われる。このように富士五湖は共通して、リンが少ないという特徴がみられ、その原因として五湖を形成する富士溶岩との関係が考えられる。富士五湖の汚濁防止対策を確立するためには、これらの水質特徴を示す背景原因を早急に解明する必要がある。
? 田貫湖(富士箱根伊豆国立公園)
 本湖は湯ノ湖についで透明度が低く、窒素、リンは富栄養湖の基準を越えている。本湖の汚濁源として大きいものはなく、本湖が昭和初期に湿地に造成された人工湖であることにより、造成当初よりすでに富栄養湖的な性格を有していたものと思われる。本湖は比較的浅いため、風の撹乱を受けやすく、夏季の水温成層は発達せず、したがって下層にDOはかなり含まれ、NH4-Nもほとんど蓄積されていない。
? 八丁池(富士箱根伊豆国立公園)
 本池は天然の腐植酸性池であることが明らかとなった。窒素とリンは富栄養湖の基準近く含まれ、酸性に抵抗性を有するプランクトンがかなり出現している。水深が非常に浅いため水温成層は形成されず、DOは下層まで十分含まれている。汚濁源は山荘が1棟あるだけなので、今後これからの汚水流入が増加しないよう注意する必要がある。


(2) 自然公園の指定・区域拡張
 わが国の自然公園体系は、昭和6年の国立公園法制定以来、32年の自然公園法制定を経て47年度末現在26の国立公園(国土面積の5.35%)、46の国定公園(国土面積の2.90%)、286の都道府県立自然公園(国土面積の5.43%)の設定へと発展し、その総面積は国土の総面積の13.41%を占め、国土の自然保護と野外レクリエーションの場として重要な役割を果している。(第6-2-1図)
 しかし、最近における自然破壊や環境汚染の現状に対処しまた積極的に自然を利用しようとする機運が高まりつつあるところから、わが国の自然公園の拡大と内容充実を図る必要があるが、46年11月、自然公園審議会は「国立公園の体系整備」について、答申し、同年12月「国定公園候補地の選定について」答申した。
 この答申に基づき、国立公園では、小笠原、足摺宇和海、西表の3国立公園の指定を行なった(参考資料13-?参照)。
 国定公園については、47年5月、本土復帰した沖縄において、復帰前、琉球政府立公園法により琉球政府立公園として指定されていた「沖縄海岸政府立公園および沖縄戦跡政府立公園」の2公園について、復帰の時点においてそれぞれ「沖縄海岸国定公園」・「沖縄戦跡国定公園」として指定した。
 また、32年に自然公園審議会により候補地として答申のあった「北九州」の国定公園については調整に長期間を要したが、47年10月北九州国定公園として指定した(参考資料13-?参照)。
 なお、自然公園審議会の答申のあった候補地のうち、指定の完了していない候補地については、指定のための諸手続を進めることとしている。


(3) 海中公園の指定
 海中公園制度は、海中の景観を維持するため、環境庁長官が国立公園および国定公園の海面内に海中公園地区を指定し、必要な規制を行なうとともに、その適正な利用を図るものである。45年7月吉野熊野国立公園串本海中公園地区等10カ所、46年1月陸中海岸国立公園気仙沼海中公園地区等12か所が指定された。
 47年度には、5月15日、復帰と同時に国定公園となった沖縄海岸国定公園の中の沖縄海岸海中公園地区が指定され、また10月小笠原国立公園小笠原地区、大山隠岐国立公園島根半島地区、西海国立公園福江地区および若松地区、ニセコ積丹小樽海岸国定公園積丹半島地区および小樽海岸地区、室戸阿南海岸国定公園阿波竹が島地区の計7か所の海中公園地区、さらに11月足摺宇和海国立公園樫西地区および沖ノ島地区の2か所の海中公園地区が指定された。
 47年度に指定された海中公園地区は10か所で、これにより47年度末までに指定された海中公園地区は32か所となつた(第6-2-2図参考資料14参照)。


(4) 自然公園の施設、東海自然歩道の整備
 国立公園および国定公園の利用者数は、46年度においては約5.4億人の多くを数え、41年度の利用者数約3.3億人と比較したとき5年間で約1.6倍となり、利用者数は年々上昇の一途をたどっている(第6-2-4表)。
 このような利用者数の著しい増加に対応し、公園の公共的利用施設等も年々整備されてきたが、なお不十分なため、利用の快適性が阻害されたり、利用者の自然に対する理解の欠如が原因で起る自然破壊、また、ゴミの散乱等環境保全上好ましくない状況もみられる。
 これらの状況に対処し、47年度においては主として国や地方公共団体の直轄事業あるいは国庫補助事業として
? 過剰利用の緩和のため駐車場、園地の整備
? 人と自然とのコミユニケーションを促進するための博物展示、自然研究路等の自然解説施設の整備
? 良質な公園利用を促進するための歩道、野営場の整備
? 植生の保護復元に役立つような園地、歩道(木道)
? 海中公園地区の保全と適正な利用を図るための園地等、公園利用施設の基盤となる公共施設の整備に重点をおいて実施された。
 特に東海自然歩道については、国立、国定公園区域外についても国の予算措置が講ぜられ、東京、大阪間の計画延長1,376.4kmについて、全通の見込みとなった(第6-2-5表)。
 また、利用施設のうち、ホテル、旅館等の宿舎、スキー場、海水浴場等の運動施設は、、主として民間または地方公共団体の事業として整備が進められている。


(5) 国立公園内の民有地買上げ
 自然環境の著しい改変が進んでいる今日、その適正な保全のための施策の強化充実は、極めて重要かつ緊急な課題である。
 国立公園等のすぐれた自然環境を保全していくために、自然公園法等に基づく所要の規制措置がなされているが、特に国立公園等の自然公園等にあつては、土地の所有権にかかわりなく公園として指定し、公用制限を課すことにより私権との調整上トラブルが生じ、自然保護の徹底が期せられ難くなついる。
 かかる観点から47年度においては、国立公園内の特別保護地区または第1種特別地域内に所在する民有地のうち私権との調整上特に買上げて保護することが必要なものを対象として都道府県が発行する交付公債により土地の買上げを行なうこととし、その元利償還に要する費用を国が都道府県に補助することとし、阿蘇国立公園特別地域内の土地であってシラカシ、タブ、シイなどの暖帯性植物を主とした原生林のうち、阿蘇外輪山西部の立野火口瀬附近に位置する北向山の土地約17.4haおよび富士箱根伊豆国立公園のうち、三宅島の雄山南側の山腹に位置し、学術上価値の高い「タイロ藻」の繁殖している大路池周辺の土地約0.3haを買い上げた。

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