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第1節 

2 自然保護に対する国民の意識

 最近、“自然破壊をゆるすな”とか“自然に帰れ”とか“自然を取り戻せ”といった意識が国民一般に共有されつつあり、特に大都市の住民にとってそれは切実な要求となってきている。このことは例えば1971年11月に総理府で行なった「公害及び環境問題に関する世論調査」などの結果に顕著にあらわれてきている。
 この調査によると、まず、「5、6年前に比較して自然環境はどう変化したか」という問いに対して「良くなっている」7%、「悪くなっている」46%という回答率になっているが、これに対して生活の便利さという点では、「良くなっている」49%、「悪くなっている」8%という結果になっていて、生活の便利さとひきかえに自然環境が悪化していると感じている者が多数を占めていることがわかる。
 「どういうことから身近な自然の破壊を感じるか」という問いに対しては、回答率の高いものから「河川、湖沼、海域などの水の汚れ」(27%)、「緑の減少」(20%)、「空気の汚れ」(18%)、「昆虫等の減少」(12%)の順になっている。また、「自然が大切だと思う理由」としてあげられたものは、「人間の心にうるおいを与える」56%、「人類生存のための生態系の維持が必要」22%で、この二つで8割を占めており、「災害の防止」7%、「レクリエーションの場の確保」1%など、その他は極めて少なくなっている。これこれの機能を有するから自然を保全しなければならないといったことではなく、自然そのものあるいは緑の存在そのものが、人間生活にとり欠くことのできないものであるという認識が一般化してきていることは注目に値する。
 「特に国立公園などのすぐれた天然の風景地において、自動車道路や観光施設を作り、容易に到達できるようにすること」に対して「一概によしあしはいえない」43%とケースバイケースで判断すべきであるとする考え方が多いが、「よいことである」15%という積極的意見に対して、「よくないことである」31%と消極的意見が大幅に上まわっており、今日の観光開発のあり方にかなり批判的であることがわかる。
 以上が世論調査の結果の抽出であるが、このような国民の意識をもたらした背景としては各種の事情からの都市への人口の集中により、居住環境は過密化、高層化し、身近な自然も減少しており、これに加え、近年は宅地造成やゴルフ場造成等の進行により、ただでさえ緑の少ない都市の周辺部において、まとまった森林などの緑地が次々と姿を消していること、さらに、このような都市を脱け出して訪れた自然公園等の風景地においても、都会並みの混雑が続く等、生活の利便さに比べ、生活環境ないしは自然環境の状況はむしろ悪化しているといっても過言でない状況があることが考えられよう。

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