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第7節 

2 公害保健に関する調査、指導の推進

(1) 健康被害診断基準の設定
 有害物質等の環境汚染による健康被害は、複雑多岐で不明な点が多い。そこで迅速適確な防止施策の推進を図るため、各種環境汚染物質による人の健康被害に係る診断方法および診断基準の設定を進めている。47年度は、とくに蓄積性物質のうち鉛について、基準設定のために必要な基礎的調査を実施した。
 なお、調査結果に基づき診断方法および診断基準設定の検診を行なうこととしている。
(2) ばい煙等影響調査
 ばい煙等による環境汚染の人体影響を疫学的に調査し、汚染の態様と人体影響との関連性の把握、汚染の態様に即応した地域的健康管理体制の確立ならびに今後予測される汚染物質による影響の資料収集など公害防止行政を推進するための資料を得る目的で、昭和45年度を初年度とする5ヶ年計画による経時的な調査研究を進めている。
 比較的大気汚染が生じていると思われる地区および比較的大気汚染の生じていないと思われる地区を選び、職業上の影響を受けていない家庭の主婦などを中心に千葉県、大阪府および福岡県の6地区を選び、質問調査、呼吸機能検査、胸部線検査、尿検査などの医学的調査と汚染物質の測定、気象の測定、地球保健衛生の動向などの環境調査によって長期にわたって追跡観察することとしている。
(3) 水銀汚染の健康調査等
 水銀については、昭和43年8月広範な調査研究の成果に基づいて定められた「水銀による環境汚染暫定対策要領」に従って所要の一般魚介類調査を実施し、少しでも疑わしい地域が認められたときは早急かつ詳細な調査を進め、所要の対策を行なうなどの重点的な努力を続けている。
 魚介類の水銀による汚染調査はすでに約100水域で行なっているが、現在までの調査結果では水俣病発生の心配はないが、比較的水銀濃度が高く検出されたのは福井県日野川、徳山水域、阿賀野川の3水域があり、いずれもこれら水域での魚介類の連日大量の摂食習慣をやめるよう警告するとともに、なお引き続き調査を進めている。
 一方、現在水俣病の全貌を明らかにし水俣病対策の推進を図り、住民の不安を解消するため、熊本県、鹿児島県、新潟県等の関係行政機関、研究機関等の協力のもとに広範囲にわたる住民の一斉健康調査を実施している。
(4) カドミウム汚染の健康調査等
 カドミウム汚染については、昭和40年以来広範な調査研究を進め、これらの成果にもとづき、昭和44年9月に「カドミウム環境汚染暫定対策要領」を示し、この要領に沿った米、農作物、魚介類、土壌等の調査結果等に基づき、つぎの七つの要観察地域を定めて地域住民の健康調査、環境汚染調査等を行なっている。
 宮城県鉛川、二迫川流域
 群馬県碓氷川、柳瀬川流域
 長崎県佐須川、椎根川流域
 大分県奥岳川流域
 富山県黒部市三日市製錬所周辺地域
 福島県磐梯町会津製錬所周辺地域
 福岡県大牟田地域
(5) PCBによる環境汚染(生物汚染)調査
 全国各地において、PCBによる環境汚染が大きな社会問題となったため、水産庁と協力のもとに、全国110水域の魚介類のPCB実態調査を行なった。
 調査結果は、内海内湾の魚介類に残留するPCBの暫定的規制値3ppmをこえる値(最高値)の魚類を検出した水域は11水域であり、他の水域はいずれも暫定的規制値以下であった。
 魚類中に暫定的規制値をこえる値が測定された水域については、さらに精密調査を行ない、その結果、暫定的規制値をこえた魚介類が相当程度の割合で検出された場合には、関係都道府県とも協議し、当該魚介類の漁獲に関する自主的な規制についての指導等の措置を行なうこととしている。
 なお、PCBおよびPCB使用製品の生産中止ならびにPCB排出規制等、各種公害防止対策が既に講ぜられたが、用途等が多様化されていたこと、および既に行なわれた環境汚染調査の報告等から、PCBは既に環境に広く分布していると考えられるので、汚染源の排除に努めるとともに、今後とも環境におけるPCBの動静について監視を続ける必要がある。
(6) その他
 水銀、カドミウム、PCBによる汚染問題のほかに、宮崎県土呂久休止鉱山における砒素問題、新潟県直江津地区等の工場から排出される弗化物問題など近年各地で環境汚染物質による健康被害を訴える事件が多発している。このような事態に対処して、国は諸関係都道府県、市町村などと密接な連絡をとり、都道府県が実施する各種の調査に対して適切な指導と援助を行なうなど実態の早期把握と解明を図り、住民の不安解消に努めている。

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