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第7節 

1 健康被害救済制度

(1) 制度の趣旨
 公害による被害は、その原因が人為的なものであるから、一般の民事紛争と同様に、被害者がその公害発生原因者に民法の不正行為の規定に基づく損害賠償を求める方途が開かれているわけであるが、公害被害の場合には、加害者を特定し、因果関係や故意過失の有無を立証することなどの点できわめて困難な問題が多い。しかも、その結論を得るまでには長期間を要するので、日々治療を要する健康被害者の救済には間に合わない場合がある。
 このような公害問題の特殊性から、緊急に救済を要する健康被害に対し、民事責任とは切り離した行政上の救済措置を講ずるため、昭和44年12月公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法が制定された。
(2) 制度の内容
 本制度は、相当範囲にわたる著しい大気汚染または水質の汚濁が生じたため、その影響による疾病が多発している場合に、その地域を救済の対象となる地域として指定し、また、救済の対象となる疾病を指定している。
 指定地域内で指定疾病にかかっている者の申請に基づき、地域を管轄する都道府県知事または市長は、公害被害者認定審査会の意見をきいて認定を行なうことになっている。認定患者には、公害医療手帳が交付され、この手帳を医療機関の窓口で提示して医療を受けた場合には指定疾病についての医療費を支給するほか、一定の要件を満たす患者には、入院や通院のための諸雑費を補てんするための医療手当と、その疾病にかかり身体上の障害をおこし他人の介護を必要とする者には介護費用を補てんするための介護手当を支給することとしている。なお、この場合に認定患者本人、配偶者、扶養義務者の所得が一定の額をこえる場合には支給されないことになっている。
 認定患者に給付される医療費、医療手当および介護手当の費用は、事業者側が全体の2分の1を負担し、残額を国、都道府県、市が負担している。
 この制度によって救済措置を受けている認定患者は、第5-7-1表のとおりである。
(3) 制度改善の経緯
ア 指定地域の追加拡大
 本制度は発足以来3年余を経過し、大気汚染による慢性気管支炎等の非特異的疾患にかかる指定地域は、その間、昭和45年12月に尼崎市東部南部地域が指定され、昭和47年2月には、横浜市鶴見臨海地域、富士市中央地域の追加および川崎市中央地域の拡大が行なわれ、発足時の3地域が6地域となったが、昭和48年2月、名古屋市南部地域、東海市北部中部地域、豊中市南部地域および北九州市洞海湾沿岸地域の4地域が追加指定され現在10地域となっている。
 また、水俣病等の特異的疾患にかかる指定地域については、宮崎県高千穂町の土呂久地区が新たに指定され、同地域の指定疾病として慢性砒素中毒症が指定された。
イ 手当額の引き上げと支給要件の緩和
 医療手当については、制度発足の昭和44年度に入院の場合月額2,000円、4,000円、通院の場合、月額2,000円であったが、昭和46年度の改善を経て、昭和47年度に入院の場合月額4,000円〜6,000円、通院の場合3,000、4,000円に引き上げられた。
 介護手当については、昭和44年度の発足時には1か月につき1日300円に介護を受けた日数を乗じて得た額であったが、昭和45年度には、その月において介護を受けた日数に応じ月額5,000円、7,500円、10,000円に改善されている。
 なお、医療手当および介護手当は、認定患者、配偶者、扶養義務者に一定以上の所得がある場合には支給されない。この支給制限は所得税を標準に行なわれており、制度発足の昭和44年度においては、所得税額(年額)17,200円であったが、昭和45年度29,200円、昭和47年度48,400円に引き上げられた。

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