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第4節 大気汚染による健康被害

(1) 現況
 経済の著しい進展に伴うエネルギー消費量の急激な増大、都市化等により大気汚染もいおう酸化物をはじめ窒素酸化物、オキシダントあるいは種々の重金属類を含む浮遊ふんじんとその汚染の形態も多様化し、いわゆる複合大気汚染といわれるようになった。これらの大気汚染により多発すると考えられている疾患には慢性気管支炎等閉塞性呼吸器疾患と総称されているものがあり、公害に係る健康被害救済法で指定疾病とされている。また、急性または慢性の結膜炎、鼻咽頭炎などの上気道炎等の疾病も大気汚染との関連について問題にされており、このほか浮遊ふんじん中の砒素、クロム等の重金属、あるいはベンツピレン、アスベスト等により肺がん等の疾病が惹起される可能性も指摘されているが、これらは今後の重要な研究課題となっている。
 健康被害救済法による大気汚染系疾病の認定患者は年々継続的に増えつづけ、47年1月末5,531名であったのが、48年3月末までは8,737名となっている。この急激な増加は患者が順次認定の申請を行なってきていることや、新たに指定地域が加わったため、その地域の認定患者が加わったことによるものである。地域別の増加の傾向をみると第5-4-1図のように大阪、尼崎では患者が急激に増加し、大阪では地域人口の2.4%を越えている。しかし、他の地域では患者は徐々に増加し、大阪等とは違った傾向をとっている。
 認定患者は若年層と老人に多く、年齢階級別分布は第5-4-1表のように9歳以下の児童がほぼ半数を占め60歳以上を合わせると全体の70%はこれらの年齢階級で占めている。
 疾病別の割合(47年3月末現在)では慢性気管支炎22.9%、気管支ぜん息34.8%、ぜん息性気管支炎41.0%、肺気しゅ1.3%となっている。
 大気汚染系患者の死亡者は制度開始から48年3月末までに207名となっている。また、治ゆして公害医療手帳を返還した者は69人である。認定患者の受診状態を認定患者(健康保険加入の本人を除く)のレセプトによる調査の結果からみると、46年3月から47年10月までの各月の認定患者数に対するレセプト数の比率の平均では横浜、四日市、富士で70〜75%、川崎で約63%、大阪、尼崎で53〜58%となっている。


(2) 救済
 このような大気汚染に係る慢性気管支炎等の閉塞性呼吸器疾患の患者を救済するため、44年12月に施行された「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法」に基づいて、45年2月から医療費、医療手当、介護手当の給付が開始された。
 これらの疾病は大気汚染の影響であることを個別に診断することが極めて困難であるため、非特異的疾患といわれており、そのため救済法では地域(指定地域、川崎市大師・田島・中央地域ほか9地域)、居住要件(指定地域に3年以上居住すること等)、疾病(慢性気管支炎、気管支ぜん息、ぜん息性気管支炎、肺気しゅならびにこれらの続発性)を定め、これらの要件に合致した者に対して医療費等の支給を行なっている。
(3) 指定地域の拡大
 健康被害救済法では、事業活動その他の人の活動に伴って相当範囲にわたる著しい大気の汚染または水質の汚濁が生じたため、その影響による疾病が多発している地域を政令で定めることになっている。45年度には川崎市大師・田島地域ほか3地域を指定し、46年度には、富士市ほか2地域を指定した(指定地域名は第5-7-1表参照)。
 47年度も精密な環境大気調査、呼吸器疾患調査を行ない、48年2月に名古屋市南部地域、東海市北部中部地域、豊中市南部地域、北九州市洞海湾沿岸地域の追加指定を行なった。


(4) 四日市の紛争
 中部電力等6社に対して磯津地区患者12人が大気汚染による健康被害に係る損害賠償を求めた四日市公害訴訟については、47年7月24日津地方裁判所四日市支部は「原告患者の閉塞性肺疾患の主要因子は被告6社から排出される硫黄酸化物を主にした大気汚染である」という判決を下した。
 この判決を契機として環境庁は大気汚染防止法および公害被害者救済に関して、?環境基準は人の健康に影響の生じないレベルに設定強化すること、?既汚染地域についてはこの環境基準達成のための総合対策を年次計画による段階的に実施すること、?環境汚染に起因する健康被害については新たな救済措置制度を創設して、これを救済すること、?未汚染地域については、開発のいかなる段階においても環境基準を上回らないことを条件とし、科学的なチェックを行なうこととすること等の基本構想を発表した。
 なお、磯津地区の認定患者140人と中部電力等6社との間で、公害に係る損害賠償の自主交渉が行なわれ、47年11月企業側提示の補償額総額約5億7千万円で妥結した。

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