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第3節 イタイイタイ病とカドミウム汚染

(1) 経緯
 イタイイタイ病の本態はカドミウムの慢性中毒により、まず腎臓を障害し、次いで骨軟化症をきたし、これに妊娠、授乳、内分泌の変調、老化および栄養としてのカルシウム等の不足などが誘因となって特異な疾患を形成したものである。
 神通川本流水系を汚染したカドミウムを含む重金属類は、過去において長年月にわたり同水系の用水を介して、本症発生地域の水田土壌を汚染し、かつおそらく地下水を介して井戸水を汚染していたものとみられる。
 このように過去において長年月にわたって本症発生地域の汚染したカドミウムは、住民に食物や水を介して摂取され、吸収されて、腎臓や骨等の体内にその一部が蓄積され、主として更年期を過ぎた妊娠回数の多い居住歴ほぼ30年程度以上の婦人を徐々に発病に至らしめ、十数年にわたる慢性の経過をたどってイタイイタイ病を形成したものと判断される。
 なお、流域の被害者は、三井鉱業(株)神岡鉱業所から排出される廃水等に含まれるカドミウムがイタイイタイ病の原因であるとして、43年3月同社を相手として、損害賠償請求訴訟(第1次訴訟)を提起し、46年6月に第1審判決、47年8月に控訴審判決があり、いずれも原告被害者の勝訴となった。
 イタイイタイ病の経緯
 昭和30年 萩野昇、河野稔両氏によって第17回日本臨床外科医会に原因不明の奇病の事実が報告された。
 34年10月 河川水、井戸水にカドミウム、銅、亜鉛等が顕著に含まれていることを発見した(岡山大小林教授)。
 35年8月 神通川水系河川水、神岡鉱業所の廃滓、稲、魚、患者の臓器、骨等にカドミウム、鉛、亜鉛が著しく含まれていることを発見、カドミウム原因説が注目されだした。
 36年12月 富山県地方特殊病対策委員会の設置。
 38年6月 厚生省医療研究助成金によるイタイイタイ病研究委員会発足。文部省科学研究費によるイタイイタイ病研究班発足。
 41年2月 厚生省公害調査研究費による医療研究イタイイタイ病研究委員会発足。
 43年1月 富山県イタイイタイ病および疑似患者等に関する特別措置要綱による対策の実施。
 3月 富山県イタイイタイ病患者審査委員会は、集団検診結果に基づいて患者73名、要観察者150名を認定した。
 5月 厚生省は富山県におけるイタイイタイ病に関する見解を発表。
 44年12月 健康被害救済法施行(実施は45年2月1日)、96名認定。
 46年6月 イタイイタイ病裁判第1次提起分判決(原告一部勝訴)、原告被告双方控訴。
 47年4月 イタイイタイ病控訴審結審。
 8月 イタイイタイ病控訴審判決(原告一部勝訴)。8月24日 確定
(2) 現況
 神通川流域におけるイタイイタイ病要観察者が142人確認されているが、この要観察者については国からの助成を受けて富山県において年2回の管理検診を行なって経過を観察している。
 富山県神通川流域以外の地域においてはイタイイタイ病患者の発生はみられていないが、宮城県鉛川、二迫川流域など7地域をカドミウム汚染による要観察地域として定め、毎年住民の健康調査を実施し、健康被害発生の未然防止の見地から経過観察を続けている(第5-3-1表)。
 また、45年秋に行なったカドミウム汚染の一斉点検の結果、高濃度汚染が疑われた兵庫県生野鉱山周辺地域については兵庫県においてカドミウム汚染に係る健康調査が行なわれ、生野鉱山周辺地域においてはイタイイタイ病およびこれにつながる腎臓障害もないという発表がなされたが、さらにその後も国の「イタイイタイ病およびカドミウム中毒症の鑑別に関する研究班」において、県が行なった検診のデータを検討している。


(3) 紛争
 イタイイタイ病裁判
? 第1次提起分 第1審
 提訴日 昭和43年3月9日
 裁判所 富山地方裁判所
 原告 31人
 被告 三井金属鉱業株式会社(神岡鉱業所)
 請求内容 損害賠償(慰謝料のみ請求)総額約6,200万円
 判決 昭和46年6月30日 原告勝訴
 認容額 総額約5,700万円
? 第1次提起分控訴審
 控訴日 昭和46年6月30日 被告控訴
 昭和46年9月6日 原告中請求金額を削られた者につき附帯控訴
 昭和46年9月14人 原告(全員)請求金額を倍額して附帯控訴
 裁判所 名古屋高等裁判所金沢市部
 原告 33名
 被告 三井金属鉱業株式会社
 請求内容 損害賠償(慰謝料、弁護士費用のみ請求)
 総額約1億5,120万円
 判決 昭和47年8月9日 原告勝訴
 認容額 損害賠償(慰謝料、弁護士費用)
 総額約1億4,800万円
 第2次以降第7次提起分、原告側と被告側との間で和解が成立し、訴訟がとりさげられた。
(4) 救済
 イタイイタイ病患者に対しては、43年から国の補助を得て、富山県において医療救済の措置が講じられていたが、44年12月に制定された公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法に基づいて、45年2月以降医療費、医療手当、介護手当を支給するようにした。
 42年以来イタイイタイ病患者と認められたものは、48年2月現在123名でうち死亡者は42名である(第5-3-2表)。

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