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第3節 

3 光化学反応による大気汚染対策の推進

(1) 光化学反応による大気汚染の現状
 昭和47年度においては、46年度より約半月早い4月29日に東京都内でオキシダント濃度が大気汚染防止法の緊急時のレベルの0.15ppmを越え、オキシダントに係る大気汚染注意報が発令された。その後、東京湾、大阪湾、伊勢湾周辺の郡府県において、注意報がつぎつぎに発令され、新たに、茨城県、三重県、京都府、奈良県、和歌山県、岡山県、愛媛県において注意報が発令された。発令のあった都府県は全国で14都府県におよび光化学反応による大気汚染の発生地域は、さらに拡大した。注意報の発令回数は、東京都を除いて各府県とも増加した。(第2-3-8表参照)
 一方、光化学反応による大気汚染によるとされる被害届出状況についても、全国的に拡大する傾向が見られ新たに茨城県、三重県、京都府、奈良県、和歌山県、広島県において被害が報告され全国で延べ21,245人の被害届出があった。被害の届出総数は46年度に較べて減少した。被害届出者の大部分は小中学生であり、その症状は眼の刺激、のどの痛み等の軽度の訴えが大部分であった。しかし、なかには、東京都の石神井南中学校においては、手足のしびれ等の重篤な症状を訴える被害届が連続し、一時臨時休校する事例が発生し、いわゆる光化学スモツグは重大な社会問題となった。


(2) 光化学反応による大気汚染対策
 光化学反応による大気汚染対策の重要性と緊急性にかんがみ環境庁は47年6月、大気保全局長通知をもって都道府県知事に対し、予報体制の整備、工場等からの関連物質の排出低減の協力要請、不要不急の自動車の運行の自粛の指導、自動排出ガス減少装置の取付け等の勧奨等について暫定措置の実施方を通達したがさらに、政府全体として対策を総合的、効果的に実施するため、関係省庁から構成される光化学スモッグ対策推進会議を設置し、同年7月47年度夏期に実施する暫定対策および今後長期的に実施する基本対策を決定した。各省庁においては、この決定の線に沿って次のような対策を推進した。
ア 環境基準設定のための検討
 光化学反応による大気汚染の主要な要因物質としての窒素酸化物、炭化水素および二次生成物である光化学オキシダントの環境基準については第2章第3節で述べたとおり検討が進められた。
イ 固定発生源対策
 工場、事業場等の固定発生源は光化学反応による大気汚染の要因物質である窒素酸化物、炭化水素の主要な発生源であり、これに対する各種の規制措置を実施することが、光化学反応による大気汚染を防止するうえで極めて有効であるので、規制を実施するための検討を行なった。すなわち、窒素酸化物については排出規制を実施するため排出基準について検討した。炭化水素については有機溶剤等の排出実態の把握に努めるとともに、48年度になんらかの規制を実施することを目標として準備を開始した。
ウ 自動車対策
 自動車対策については第2章第2節で述べたとおり所要の対策を推進した。
エ 予報および監視体制の整備
 光化学反応による大気汚染の発生を予報する体制の強化を図るため、すでに設置されている東京、大阪の両大気汚染気象センターに加え新たに名古屋地方気象台に大気汚染気象センターを設置した。また、光化学反応による大気汚染の発生を監視し、発生した場合には所要の措置をとるためおよび光化学反応による大気汚染に関連する汚染物質の状況を的確に把握するため、国および地方公共団体の常時監視体制の強化を図つた。
 さらに、光化学反応による大気汚染に関連する汚染物質の測定データの相互比較等が確実に行ないうるよう、これらの測定方法および自動計測機器の性能について標準化を図るため検討を開始するとともに、排ガス中の窒素酸化物測定法(JISKO 104)について審議した。
オ 保健対策
 光化学反応による大気汚染の健康への影響については未解明の分野が多く残されているので、その事態の把握に努め、調査研究を推進するとともに診断治療法の確立に資するため総合的な臨床医学的調査を行なうことが必要であるので、そのために公害検診車を製作した。また、光化学反応による大気汚染に係る保健対策の円滑な推進を図るためには、医療機関等の協力を得ることが肝要であるので、都道府県知事に対して、医療機関、保健所、救急機関等の連絡協力体制を図るとともに、一般住民に対しては光化学反応による大気汚染に関する知識の普及注意報発令時の措置、健康被害の実態把握等保健対策について通達した。
カ 調査研究の実施
 光化学反応による大気汚染はその発生機構、影響等に関し未だ解明されていない問題も多く残されているので、国の試験研究機関を中心に45年度より総合的な研究を開始し、47年度においては測定技術、生物への影響等について研究を行なった。
 また、光化学反応による大気汚染の実態把握のため環境庁においては、46年度より実態調査を開始し、47年度には東京湾地域を対象として関係地方公共団体と共同で総合的な調査を実施した(参考参照)。
 (参考)
? 昭和47年度夏期における光化学反応による大気汚染調査結果の要点
 47年7月18日から8月18日の1か月間東京湾地域で実施した本調査によると、オキシダントは埼玉県、千葉県、東京都および神奈川県にまたがり広域的に発生する場合が多く海陸風、逆転層等の気象要素と大きな関係があることが認められた。
 また、窒素酸化物および炭化水素濃度が高い場合紫外線の照射により発生するオキシダントの濃度が高くなる傾向が環境大気の野外調査および人工的紫外線照射による光化学反応調査においても認められ、窒素酸化物および炭化水素がオキシダント生成の主要な原因物質であることが確認された。
? 局地気流による汚染物質の移流に関する調査結果の要点
 47年8月16日から8月18日の3日間東京都練馬区石神井南中学校周辺で行なった本調査によると、調査期間においてはこの地域では特異な局地気流は観測されず、車道附近を除いた地域での局地的な高濃度汚染も認められなかった。
 また、当該調査地域を含む約5km
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の地域内で自動車交通削減を実施したが、この程度の局地的な交通量削減では、車道附近を除いて汚染物質濃度の変化に実質的な影響を与えないことが認められた。

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