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第3節 

2 規制措置の強化

(1) 大気汚染防止法の規制の仕組み
 工場、事業場の事業活動による大気汚染の防止対策は、昭和43年に制定された大気汚染防止法を中心にして、各種施策が講ぜられている。
 この大気汚染防止法は、工場事業場から生ずる大気汚染物質を、ばい煙、粉じんおよび特定物質に分け、それぞれについて、規制措置を定めている。
 ばい煙の規制措置は規制基準を定め、これを遵守させることが中心となつている。すなわち排出基準に適合しないばい煙の排出を禁止し、これに違反すると直ちに罰則を科することとするほか、排出基準違反等を未然に防止するために、都道府県知事等の計画変更命令および改善命令・一時使用停止命令の措置を定めている。
 このほか、ばい煙中のいおう酸化物対策として、一部の都市について排出基準による規制のほかに燃料使用規制の措置を定めており、また、以上の通常時の規制措置のほかに、ばい煙に関しては、気象条件等により大気汚染が著しくなる場合に、ばい煙排出者に対しばい煙排出量の減少等を求める緊急時の措置を定めている。
 物の破砕、選別、堆積等に伴い発生し、飛散する粉じんについては、粉じん発生施設設置者に対し構造等に関する基準の遵守義務を課し、この遵守義務の履行の担保措置として、都道府県知事等の基準適合命令を定めている。
(2) 規制基準の改定強化等
 現在の各種のばい煙の排出基準(いおう酸化物、ばいじんおよび有害物質)およびいおう酸化物対策の燃料使用に関する基準ならびに粉じんの構造等に関する基準は、45年12月に改正された大気汚染防止法が施行された46年6月24日から、改正強化され、または新たに設定されたものである。その後は、いおう酸化物対策を強化するために、46年12月にいおう酸化物に係る排出基準を改定し、47年11月には燃料使用規制措置を拡充強化した。
 なお、PCB対策については、現在、その回収、保管、処理技術の開発等がすすめられているが、これを焼却する場合には、可能な限り分解消滅させ、PCBによる大気汚染をきたすことがないようにするため、47年12月に大気保全局長通知により、都道府県知事に対し、PCB等を焼却処分する場合における排ガス中のPCBの暫定排出許容限界を示した。
ア いおう酸化物の排出基準の強化
 いおう酸化物の排出基準は、政令で定める地域ごとに設定されるKの値を一定の式すなわちq=K×10
-3
He
2
(Heは煙突の高さ+煙の上昇高さ)に代入して、各ばい煙発生施設ごとに算定される1時間あたりのいおう酸化物の排出量(q=単位Nm
3
/h)で示される。Kの値は、地域ごとに定められるが、この値が小さいほど、当該地域のいおう酸化物の排出基準は厳しいことを意味し、K値規制と呼ばれている。
 46年12月のいおう酸化物に係る排出基準の改定は、48年には原則として44年に設定された環境基準を達成することを目標として行なった。
 この改正に際しては、大気汚染防止法第3条第1項基づき全国的に適用される一般排出基準と同条第2項に基づき汚染の著しい特定の地域の新設施設に限って適用される特別排出基準を改定強化し、47年1月5日から施行したものであるが、このうち、一般排出基準については、70の政令特掲地域のうち、42の特掲地域に関しては、48年1月1日より、さらに若干の基準強化を図り、現在、いおう酸化物の排出基準(Kの値)は、全国を6.42から22.2までの8ランクKに分けて定めている(第2-3-1表を参照)。
イ 燃料使用規制の強化
 大気汚染防止法第15条に規定する燃料使用規制については、47年11月に燃料使用規制地域を追加拡大するとともに、燃料使用に関する基準を強化した。
 燃料規制地域としては、それまで札幌市、仙台市、東京都、横浜市、川崎市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市および尼崎市の10都市の中心部を指定していたが、新たに千葉市および福岡市の中心地域を指定するとともに、仙台市、東京都、京都市および大阪市についてその範囲を拡大指定した。
 燃料使用基準は、都道府県知事が、環境庁長官が定める燃料使用に関する基準にしたがって、燃料規制地域ごとに定めることになっている。これまで、環境庁長官の定める燃料使用に関する基準は石油系燃料の燃料中のいおう含有率が1.0%以上1.5%以下の範囲で定めていたが、これを改め、いおう含有率0.5%以上1.2%以下であることに強化したものである。
ウ 条例による上のせ排出基準の設定
 ばい煙のうち、ばいじんおよび有害物質については、都道府県は、大気汚染防止法第4条により条例で、国の排出基準に代えて適用するより厳しい排出基準を定めることができることになっている。この規定に基づき、条例で上のせ排出基準を設定し、地域の排出基準の強化を図っている都道府県は、48年3月末現在で16である。
 物質別にみると、ばいじんについて上のせ排出基準を定めている都道府県は5、有害物質について定めているのが13であり、このうちばいじんと有害物質の両方に上のせ排出基準を定めているのが2である。有害物質の上のせ排出基準の中では、弗素、弗化水素、および弗化珪素について定めているのが13で一番多く、次いで、塩化水素10、塩素9、鉛及びその化合物、カドミウム及びその化合物がそれぞれ5となっている。


(3) 大気汚染防止法の施行状況
ア ばい煙発生施設および粉じん発生施設の届出状況
 大気汚染防止法の適用が、指定地域内に限られていた46年6月23日現在のばい煙発生施設届出件数は37,943(これを設置する工場事業場数は22,391)であったが、大気汚染防止法が全国に適用された46年1月24日以降47年3月31日までの間の届出状況は法第6条に基づく設置届出が7,165、法第7条の使用届出が58,969、法第11条の使用廃止届出が1,610あり、この結果、47年3月末現在の届出ばい煙発生施設は、全国で102,467施設(55,253工場事業場)となっている。
 47年3月現在における届出ばい煙発生施設を、施設の種類別にみるとボイラーが最も多く67,729で全体の66.1%を占めている。次いで2,000以上届出されている施設を多い順にあげると、窯業用焼成炉・溶解炉7,308、金属加熱炉6,974、アルミ製錬用電解炉5,156、乾燥炉4,382、廃棄物焼却炉3,172、金属溶解炉2,431となっている。
 46年6月24日以降47年3月末までの間における粉じん発生施設の届出状況は、法第18条第1項の設置届出が1,506、法第18条の2第1項の使用届出が16,967、法18条の5の使用廃止届出が165であり、47年3月末における届出粉じん発生施設は全国で18,308施設(3,074工場事業場)となっている。そのうちわけを、施設の種類別にみると、コンベア11,210堆積場3,218、破砕機・摩砕機2,579、ふるい1,149、コークス炉152である。
イ ばい煙発生施設および粉じん発生施設の規制の実施状況
 46年度における都道府県および政令市によるばい煙発生施設(電気工作物またはガス工作物であるばい煙発生施設を含む)に対する立入検査、改善命令等の規制事務の実施状況は第2-3-2表のとおりである。
 これによると、46年度においては、改善命令等の行政処分は、全国で86件と少なく、また法第13条第1項違反(直罰)の告発件数も零となっており、逆に法の規定に基づかない行政指導件数は、5,809件と比較的多用されている。46年度において行政処分等の法の規定による規制措置の発動件数が少ないのは、46年6月24日から施行されたばい煙の各種排出基準については、既存のばい煙発生施設に関し、6か月ないし、1年(ばいじんについては最長3年)の経過的適用猶予措置が定められており、この適用を受ける施設が多かったことも影響していると思われる。
 46年度においては電気工作物、ガス工作物である粉じん発生施設も含め全国で延べ4,828の粉じん発生施設(673工場事業場)に対して立入り検査が行なわれ、法第18条の4の粉じん発生施設の構造、使用管理基準適合命令の措置を講じたのが8件であり、その他の行政指導件数が133件となっている。
ウ 緊急時の措置の発令状況
 都道府県知事および北九州市の長は、法第23条の規定により、いおう酸化物、浮遊粒子状物質、一酸化炭素、二酸化窒素およびオキシダントの5汚染物質に関し、一般への協力要請、ばい煙排出者へのばい煙量の減少措置の勧告・命令、都道府県公安委員会に対する道路交通法による措置実施の要請等の緊急時の措置を講ずることになっている。46年度においては、この緊急時の措置は、いおう酸化物とオキシダントに関して行なわれている。
 いおう酸化物に係る緊急時の措置は、千葉県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県、岡山県、広島県、山口県、福岡県、熊本県、宮崎県の12府県で発令されている。それぞれの緊急時の措置の月別発令状況は第2-3-3表のとおりである。
 オキシダントに関しては、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府および兵庫県の7都府県において発令されている。なお、オキシダントに係る緊急時の発令状況等については、後述3の光化学スモッグ対策の推進の項を参照されたい。

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