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第2節 

3 自動車排出ガスの規制強化

 自動車から排出される自動車排出ガスを減少させるためには、エンジン構造の改良とか各種の自動車排出ガス減少装置を自動車に装着させる必要があるが、これらの対策は新たに生産される自動車について行なうのが最も容易であり、かつ、これらの対策に伴う運転性能や安全性などに対するデメリットについても事前に十分対処し得ることから、新車時の自動車排出ガス規制の強化を行ない、この新車時の規制による自動車排出ガスの排出量が使用過程車となった段階においてもできるかぎり増大しないように抑制するため使用過程車となった段階においても規制を行なうことが適切な発生源対策である。これに対し、新車時の規制よりも使用過程車となった段階で規制を強化するためには使用過程車のエンジンの改良とか自動車排出ガス減少装置を装着させることが必要であり、これには技術的に困難が伴うほか、安全性などに問題が生ずるおそれがある。
 このような観点から、今後における許容限度の強化は、基本的には、新車に対する許容限度およびこの許容限度に基づく規制による自動車排出ガスの量を使用過程車となった段階においても極力増加させないようにするための使用過程車に対する許容限度について行なうこととしている。
(1) 新車に対する許容限度の強化
 昭和48年4月1日以降に生産される自動車の新車時における自動車排出ガスの規制を行なうための許容限度は、基本的には、昭和45年7月22日付運輸技術審議会中間答申「自動車排出ガス対策基本計画」(以下「基本計画」という)の線にそって、
ア 一酸化炭素について許容限度の強化を図るとともに、これまで許容限度が未設定となっていた排気管から排出される炭化水素および窒素酸化物について新たに許容限度を定める。
イ 許容限度の設定値は、基本計画の許容限度設定目標値にかかわらず、現在の自動車排出ガス防止技術で可能なかぎり、さらに強化することとし、この場合、特に最近における光化学反応による大気汚染の多発化傾向に対処して、炭化水素および窒素酸化物の低減に重点を置く。
ウ 許容限度は、乗車定員または車両総重量ならびに内燃機関および燃料の種類に応じて設定し、原則として重量規制方式をとるが、車両総重量が2,500kgをこえるトラックなどについては従来どおり濃度規制方式とする。なお、ジーゼル車については、測定方法など実施上の諸問題が残っているので、早急に検討を行ない、昭和49年度から規制することを目途とする。
エ 測定モードは、最近における自動車の都市内走行の実態に即応して10モードに改め、CVS測定法とする。ただし、車両総重量が2,500kgをこえるトラックなどについては、6モードによる計算法とする。
 などの方針でその強化を図ることとし、47年12月7日付けの環境庁告示第115号をもって定め、従来の告示は廃止された。
 今回の許容限度の強化は、第2-2-4表に示すように一酸化炭素の許容限度の強化と同時に、従来未規制であった排気管から排出される炭化水素および窒素酸化物について、自動車排出ガス対策「基本計画」の低減目標値より相当きびしい許容限度を定め、昭和48年度からこれらの自動車排出ガスの規制を行なうべきであるとした点で、大きな意義があると考える。
 運輸省においては、この許容限度の強化に対応して、その確保を図るため、昭和47年12月12日付けをもって、運輸省令第62号により道路運送車両の保安基準を改正し、新型車については、昭和48年4月1日から、継続生産車については、昭和48年12月1日からそれぞれこの許容限度どおりの規制を行なうこととした。


(2) 使用過程車対策の推進
 使用過程車(中古車)となった段階において、当該自動車の新車時の自動車排出ガスの規制の強化を行なう場合には、使用過程車のエンジンの改良とか、自動車排出ガス減少装置を装置させることが必要であり、これは技術的な困難が伴うほか、安全性などに問題を生ずるおそれがある。このような事情から自動車排出ガスの規制強化は、主として新車に対して行なってきたところである。
 しかし、最近における大都市およびその周辺における光化学反応による大気の汚染の多発化傾向にかんがみ、自動車の代替をまって新車時の規制効果が現れるのを持つことは許されない状況にある。
 このような観点から、従来排気管から排出される炭化水素および窒素酸化物についての規制の行なわれていなかった自動車に対しても、昭和48年度からその規制を行ない、光化学反応による大気の汚染の原因物質である炭化水素および窒素酸化物の排出量の削減を図ることとし、この場合における実用可能な減少装置の性能、技術上の問題等について運輸技術審議会に諮問を行なっていたところであるが、昭和47年11月に答申が行なわれた。
 この答申に基づいて、昭和48年1月8日付け運輸省令第1号をもって、道路運送車両の保安基準の改正を行ない、使用過程車に対し、次のような規制を行なうこととした。
ア ガソリンまたは液化石油ガスを燃料とする自動車には、点火時期制御方式又は触媒反応方式の自動車排出ガス減少装置であって、運輸大臣が指定したものを備えなければならないこととする。
イ アの規定は、道路運送車両の保安基準の一部を改正する省令(昭和47年運輸省令第62号)により規制を受ける自動車およびその排気管から排出される炭化水素などの量がこれらの規定に適合すると認めて運輸大臣がその型式を設定した自動車については、適用しないものとする。
ウ 昭和42年12月31日以前に最初の新規登録を受けた自動車および軽自動車についても、アの規定にかかわらず、運輸大臣が指示するところにより、昭和48年4月30日までに点火装置を調整すればよいこととなる。
エ アの自動車排出ガス減少装置の装着は、第2-2-5表の区分により、同表の装着期日までに行なうこととし、昭和48年4月30日までに当該装着の装着を要しない自動車は、昭和48年4月30日までに運輸大臣の指示するところにより点火装置の調整を行なわなければならないこととする。
オ 上記の対策を実施した自動車には、その対策内容に応じて一定の表示(ステッカーによる表示)をしなければならないものとする。


(3) 今後における新車に対する許容限度の強化方針
 光化学反応による大気汚染に代表されるような最近における大気汚染問題の深刻化、複雑化にかんがみ、その対策の一環として、長期的展望に立って、排出ガスの抜本的な規制強化を図るため、昭和46年9月に、環境庁長官から許容限度の長期的設定方策について中央公害対策審議会に諮問が行なわれれた。
 この諮問は、昭和46年10月に中央公害対策審議会の大気部会に設けられた自動車公害専門委員会において検討され、その結論に基づいて、昭和47年10月に答申された。
 答申の概要は次のとおりである。
ア まず、諮問が許容限度の長期的設定方策を問うているため、今後10カ年程度の期間における許容限度の設定方策について検討したが、そのためには防止技術開発の長期予測、都市交通体系に関する総合的な対策の確立などが必要で、結論までに相当な時間を要することとなるので、自動車排出ガス対策の緊急性にかんがみ、早急に結論を得ることができ、かつ防止技術の開発と生産体制の整備に必要なリードタイムを与えることのできる昭和50年度ないし、51年度を規制の目途とした許容限度の設定目標値について検討したこと。
イ 許容限度の設定目標値は、自動車排出ガスの各大気汚染物質について環境基準が定められ、この環境基準を維持するために必要な自動車1台当たりの自動車排出ガスの排出量を算出するという方式で決めるのが最も望ましい。しかし、現段階においては目標となる環境基準の定められていないものが多いこと、さらに自動車排出ガスの拡散に関する科学的知識が不十分であることから困難であるため、国民の健康保護および生活環境の保全を図ることが何よりも大切であるとの観点から、可能なかぎりの自動車排出ガスの低減を図ることとしたこと。
ウ その結果、世界で最もきびしい米国の1970年大気清浄法改正法(マスキー法)の予定している自動車排出ガス規制(1975型式年以後に製造される軽量車両および軽量エンジンからの一酸化炭素及び炭化水素の排出量は、1970型式年に製造された軽量車両の排出量の少なくとも1/10以下に低減させ、1976型式年以後に製造される軽量車両及び軽量エンジンからの窒素酸化物の排出量は、未規制の1971型式年に製造された軽量車両の実測によって得られる平均排出量の少くとも1/10以下に低減させる。この平均排出量の決定は、環境保護庁長官が自ら行なう測定結果に基づく同長官は、メーカーの申請に基づき規制の1年延期を決定することができる。)を遵守し得る防止技術は現在米国はもちろんわが国においてもいまだ開発されておらず、規制時点までに実用可能な開発はきわめて困難であるとの意見もあったが実用化を含めて、その開発は不可能でないとの判断から、わが国においてもマスキー法と同程度の規制を行なうべきであるとの結論に達したこと。
エ 許容限度の設定値は、ガソリンおよび液化石油ガスを燃料とする乗用車について次のとおりとすること。
(ア) 昭和50年4月1日以降の生産車の新車時の平均排出量の値が次に掲げる値以下であること。
a 一酸化炭素排出量1km走行当たり2.1g
b 炭化水素排出量(蒸発ガスおよびブローバイ・ガスとして排出されるものを除く)1km走行当たり0.25g
c 窒素酸化物排出量1km走行当たり1.2g
(イ) 昭和51年4月1日以降の生産車の新車時の平均排出量の値が次に掲げる値以下であること。
a 一酸化炭素排出量1km走行当たり2.1g
b 炭化水素排出量(蒸発ガスおよびブローバイ・ガスとして排出されるものを除く)1km走行当たり0.25g
c 窒素酸化物排出量1km走行当たり0.25g

オ 許容限度の設定に当っては、防止技術の開発状況を勘案して行なうべきであり、その場合においても、許容限度の設定年次をいたずらに遅らせることは厳に避けるとともに、技術的に可能なかぎり最もきびしい許容限度の設定を行なうこと。
カ この許容限度の設定目標値を満たす自動車は運転性能が低下するとともに、価格および燃料費整備費などの維持費が増大するため、在来の使用過程車が減少しない事態が予測されるので、使用過程車からこの目標値を満たす自動車への移行を円滑に促進するよう税制面において配慮すること。
 環境庁としては、光化学反応による大気汚染に代表されるように、大都市周辺における大気汚染の深刻化、複雑化の傾向のみられる今日、時宣を得た適切な答申であると考えられるので即日この答申に示された許容限度の設定目標値どおりの許容限度を設定する旨の基本方針を決め、これを広く国民に周知徹底させるため、昭和47年10月5日付けをもって告示するとともに、その具体化に必要な測定モードについては、前述した昭和48年4月1日以降の生産車の新車時の許容限度の強化の際採用した10モードを基本として早急に決定することとした。
 一方、前述の環境庁告示で明らかにした許容限度設定方針どおり自動車排出ガス規制を実施するためには、自動車排出ガス防止技術の開発とその実用化や量産体制の整備など各種の対策をいっそう強力に推進する必要があるので、これに必要な自動車排出ガス対策をいっそう強化するとともに関係業界に対する指導をさらに徹底させることとした。
 なお、米国においては1975型式年に製造される軽量車両及び軽量エンジンに適用されることとなっていた規制は、防止対策としての触媒方式による自動車排出ガス減少装置の耐久性、生産体制等になお問題点が残されていること等から、この新技術を1年のうちにすべての対象自動車等に採用させようとすれば、社会的な混乱が起る可能性があることを主たる理由として、自動車メーカーの1年間の実施延期申請が認められ、1975型式年に製造される軽量車両及び軽量エンジンには暫定的な基準による規制が行なわれることとなった。

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