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第2節 

2 自動車公害の防止対策

(1) 自動車公害の防止対策の概況
 自動車公害のこのような状況にかんがみ、これらの防止のための効果的な対策の推進が強い社会的要請となっている。
 自動車公害の防止対策には、大きく分けて発生源対策と自動車環境対策の二つがある。
 発生源対策とは1台あたりの自動車から大気中に排出される自動車排出ガスの量および1台あたりの自動車から出る騒音すなわち自動車騒音の大きさそのものを減少させる方法であり、自動車環境対策とは、交通規制とか道路の拡幅、植樹帯の設置等道路構造の改善や都市構造の改善によって、自動車交通量の削減、自動車の流れの円滑化を図って一定地域における自動車排出ガスの排出総量および自動車騒音の大きさを減少させる等の方法である。
 まず、発生源対策についてみると、後述するように、自動車排出ガスおよび自動車騒音の許容限度を定め、これに基づいて規制を行なっているが、今後さらに、自動車排出ガスについては、中央公害対策審議会の答申を受けて定められた50年度以降の規制方針(昭和47年10月5日環境庁告示第29号)にしたがい、抜本的に規制の強化を図ることとしており、さらに自動車排出ガス防止対策として、本来自動車排出ガスを排出しない電気自動車の開発が通商産業省工業技術院において大型プロジェクトとして46年度を初年度とする5カ年計画により進められており、電気自動車以外の無公害自動車の開発も鋭意推進されている。
 次に自動車環境対策については、光化学反応による大気汚染の多発化傾向にかんがみ、東京都をはじめとする大都市において、駐車規制、車庫規制等の交通規制対策の強化をはじめとし、バス専用(優先)レーンの設置、促進等による間接的な自動車交通量削減対策が推進されている。また、自動車排出ガスによる大気汚染や自動車騒音の著しい地域については、直接的な交通規制も逐次行なわれるようになっている。さらに、昨年6月の閣議了解に基づき、道路建設についても、環境破壊をもたらさないよういっそう留意すべきこととされた。また、既存の道路についても、しゃ音壁の設置等の対策が行なわれている。
(2) 発生源対策
ア 大気汚染防止法で規制される自動車排出ガス等の範囲
 大気汚染防止法の規定に基づき、自動車排出ガスとして定められている物質は、当初、大気の汚染の実態に着目して一酸化炭素のみが定められていた。しかし、光化学反応による大気汚染問題が発生し、今後も多発することが予測されていることから、要因物質である窒素酸化物および炭化水素が、また東京都の牛込柳町において自動車から排出される鉛化合物による大気汚染問題が、大きな社会問題となったことにかんがみ、昭和46年6月に、新たに炭化水素、窒素酸化物および鉛化合物が追加された。さらに、昭和47年1月に浮遊粒子状物質に係る環境基準が定められ、移動発生源である自動車を含めて、種々の防止対策を講じてその目標達成を図ることとなったことに伴い、昭和47年3月に粒子状物質が追加された。なお、規制対象となる「自動車」の範囲は、ガソリン、液化石油ガス(LPG)および軽油を燃料とする普通自動車、小型自動車(二輪自動車〔側車二輪自動車を含む。〕を除く。)および軽自動車(二輪自動車〔側車付二輪自動車を含む。〕を除く。)とされている。
イ 自動車排出ガスの量の許容限度
 許容限度は、新車時において自動車排出ガスの規制を行なうため定められる許容限度と使用過程車となった段階における自動車から排出される自動車排出ガスを規制するために定められる許容限度とに大別される。また後者には、使用過程車となった段階において、自動車排出ガスの排出量が新車時の排出量より増加することを極力抑制するために定められる許容限度と、使用過程車となった段階で新車時の規制よりさらに強化するために定められる許容限度がある。
 大気汚染防止法では特に規定を設け、自動車排出ガスの発生源対策および自動車環境対策に必要な措置を定めている。そのうちの発生源対策として、環境庁長官が、自動車排出ガスの量の許容限度を定め、運輸大臣は道路運送車両法に基づく命令で自動車排出ガスの排出に係る規制に関し必要な事項を定める場合には、許容限度が確保されるよう考慮するものとしたのである。現行の自動車排出ガスの量の許容限度は、昭和43年運輸省告示第378号によって設定され、大気汚染防止法の施行(昭和43年12月1日)と同日から適用されて以来、数次にわたる改正を経て今日に至っている(第2-2-3表)。


(3) 自動車環境対策
 自動車排出ガスによる大気の汚染の防止は、基本的には、発生源対策によって行なうべきであるが、自動車排出ガスの防止技術、さらには道路事情、交通事情などから、この発生源対策のみではすべての地域において大気の汚染の防止を図ることが困難な場合が考えられる。
ア 交通規制対策
 大気汚染防止法は、このような観点から発生源対策を補完する自動車環境対策として、都道府県知事が交差点やその周辺の地域など自動車排出ガスによる大気の汚染の著しい区域においてその環境濃度の測定を行ない、濃度が一定の限度をこえる場合に、都道府県公安委員会に対し交通規制の要請を行なうとともに、必要に応じて道路管理者や関係行政機関に対し、自動車排出ガスの環境濃度を減少させるために必要な措置などについて意見を述べることができる旨を明らかにしたものである。なお、このうちの交通規制の要請に関する規定は、第64回国会(いわゆる公害国会)における本法の改正によって追加されたもので、この要請基準のうち、恒常的に汚染の著しい地域に係るものは大気汚染防止法第21条第1項の規定に基づく自動車排出ガスによる大気の汚染の限度を定める命令(昭和46年総理府・厚生省令第2号)により、「一酸化炭素の大気中における含有率の1時間値の月間平均値百万分の十」と定められている。さらに、気象状況の影響により、自動車排出ガスによる大気汚染が急激に著しくなり、人の健康または生活環境に重大な被害を生ずる場合のいわゆる緊急事態においては都道府県知事が、都道府県公安委員会に要請するものとすることになっている。
 また、道路交通法の規定による交通規制についてみると、従来、道路交通の安全と円滑を図ることを目的とし、そのために必要な交通規制などを行なってきた。しかし、近年、自動車交通量の急激な増加に伴い、道路交通に起因する障害、すなわち自動車排出ガスによる大気の汚染や自動車騒音などの交通公害が深刻な社会問題となってきた。これらのいわゆる交通公害の防止は、発生源である自動車に対する規制強化によって行なうのが基本的な考え方であることはいうまでもないが、当面の補完的対策として都道府県公安委員会が、交通公害の防止を図るため、自動車の通行禁止、制限等の交通規制を行なうことができるよう第64回国会において道路交通法の一部改正が行なわれた。とくに、光化学スモツグ対策としては、都市における交通の安全と円滑化を図り、交通公害の防止に資するため、駐車禁止規制、路線バス等優先(専用)通行帯の設置、通学通園路、買物道路、遊戯道路等の生活道路における車両の通行禁止等の恒常的な交通規制がさらに積極的に推進されている。また自動車保管場所の確保の強化、自家用車に対する経済的な規制が検討されている。
イ 道路整備等環境対策
 自動車環境対策として交通規制を実施しても、自動車排出ガスによる大気汚染を防止するうえで限界があるため、長期的に道路整備、都市再開発等の自動車をとりまく環境を整備する必要がある。このため、都市部への自動車乗入れを削減するため、副都心の整備、流通施設の都市周辺部への分散等により、都市構造を一点集中型から多核分散型に改善する施策が検討されている。
 また、都心部における道路交通の円滑化を図り、アイドリング等による大気汚染を防止するため、既存道路について交差点の立体化を含む改良、狭隘部の拡幅等が行なわれている。
 さらに、既成市街地への自動車の乗入れを減少させ、大量輸送機関の利用促進を図るため、郊外駅周辺の駐車場の整備を図り、加えて、交通規制対策により規制された輸送需要を公共交通機関において吸収するとともに公共交通機関の利用を促進することにより交通公害の防止に資するため、地下鉄等の輸送力の充実を図る一方、バス路線の再編成、バス車両、乗継施設その他の輸送施設の改善等の施策が積極的に推進されているほか、新交通システムの開発研究、導入推進等が行なわれている。

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