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第2節 

1 概説

(1) モータリゼーションの進展
 近年、モータリゼーションの進展はめざましく、わが国の自動車保有台数は、過去10年間に4倍以上の伸びを示し、特に乗用車は10倍以上の増加となっており、昭和47年3月31日現在、2,122万台にも達している。このうち乗用車、トラック、バスの保有台数は米国に次ぐ世界第2位の台数であり、このような急激な保有台数増加の要因としては、道路への投資が急速かつ大量に行なわれ、その整備が進められたこと、自動車が廉価かつ大量に生産されるようになったこと等を背景として、わが国経済の高度成長による輸送需要の増大もさることながら、輸送の利便性、簡便性、機動性、適時性に対する強い要請に自動車が最も適していることによるといえよう。増加の特に著しい自家用乗用車については、国民所得の向上により国民の乗用車への購買意欲が高まったこと、余暇の増加に対応してマイカーによるレジャーが普及してきたこと等が考えられる。トラック台数の増大については産業構造の高度化による工業製品、特に重化学工業製品の著増と農林産品の相対的比重低下等輸送品目の変化、さらには産業立地の変化による地域間輸送のパターンの変化が生じたが、これらの変化はトラック輸送の特性を生かすことに有利であった。
 このような自動車の増加を反映して、貨物輸送についてみると、自動車による輸送量は昭和46年度においては全体の89.4%を占め、輸送トンキロでも全体の42.9%で、内航海運を抜いて第1位のシエアを占めるに至った。
 次に旅客輸送についてみると、46年度の自動車による輸送人員は、全体の60.3%で最も多く、輸送人キロでも、貨物輸送と同様、46年度において全体の50.6%を占め、鉄道を抜いて第1位のシエアとなった。
(2) 自動車公害の深刻化
 自動車は、以上に述べたように、わが国の経済および国民生活にきわめて重要な役割を果たしているが、このような自動車保有台数の増加は、一方において、交通事故、交通渋滞さらには自動車排出ガスによる大気汚染等の自動車公害をひきおこす結果となり、大きな社会問題となつている。
 この状況を、まず自動車排出ガスによる大気汚染についてみると、東京都内の3カ所(霞ヶ関、大原、板橋)に設けられている国設の自動車排出ガス測定所における一酸化炭素および窒素酸化物による大気汚染濃度は、44年まで増加してきたが、45年以降は減少または横ばいの傾向を示している(第2-2-1図)。環境基準の定められている一酸化炭素の汚染濃度についてみると、その不適合率はきわめて少なくなってきている(第1節2の(4)一酸化炭素の項を参照)。また、他の大都市の交通量の多い地点における一酸化炭素による大気汚染濃度も、ほぼ同様の傾向にある(第2-1-12表)。しかし、一方において、地方都市における一酸化炭素による大気汚染濃度をみると、データ不足のため経年変化をみることはできないが、第2-2-1表のとおり、かなり高くなっている。
 このような状況から、自動車排出ガスによる大気汚染は、自動車保有台数の増加にかかわらず、交通渋滞による交通量が頭打ちまたは減少傾向にある地域においては、自動車排出ガスの規制強化を反映して減少傾向がみられるが、いまだ道路容量に余裕があり、交通量が急増している地域においては、依然として進行しつつあることが推定される。
 また、最近においては、東京、大阪およびその周辺地域における光化学反応による大気汚染の多発化にみられるように、大都市における大気汚染は、工場等の固定発生源からの大気汚染物質との併存あるいは大気汚染物質の二次反応等によって、ますます複雑化、多様化する傾向を示している。
 なお、昭和47年8月に環境庁が大気汚染物質発生源別排出総量調査委員会を設けて、自動車排出ガス中の主要物質である一酸化炭素、炭化水素および窒素酸化物について、東京都、千葉県、神奈川県および埼玉県の1都3県における固定発生源を含めた年間の排出総量を試算したところによると、これらの自動車排出ガスの排出総量は、第2-2-2表のとおり年々増加傾向を示し、これを45年度における固定発生源を含めた排出総量に占める割合でみると、第2-2-2図に示すとおり、一酸化炭素93%、炭化水素57.3%、窒素酸化物39%で、一酸化炭素はそのほとんどが自動車排出ガス中のものであり、光化学反応による大気汚染の要因物質である炭化水素および窒素酸化物も、大きな割合を占めている。
 次に、自動車騒音についてみると、自動車交通量の増加、高速自動車道の建設等に伴って、住民の苦情、陳情はますます増加しており、自動車騒音による公害は後述するように国民の生活環境の保全の上から早急に解決を迫られている大きな課題となっている。

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