前のページ 次のページ

第3節 無過失損害賠償責任制度の確立

 公害により被害を受けた人々に対しては、行政的な救済措置として、すでに「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法」に基づき、医療費、介護手当および医療手当の支給がなされているが、公害事案については、私法的な面においても、事業者の責任を強化して、被害者の一層円滑な救済ができるような措置、すなわち事業者の無過失損害賠償責任制度を創設すべきであるということが強く要請されてきていた。
 この問題については、昭和42年8月公害対策基本法が制定された当時からとりあげられていたが、昭和45年9月佐藤総理が宇都宮における1日内閣での所信表明演説で「企業の無過失責任を早急に検討する」旨約束してから具体化することとなった。すなわちこれを受けて、政府においては公害対策本部を中心に立法作業の検討を開始し、昨年7月環境庁が発足してからは、環境庁がこれを受けつぐこととなった。
 環境庁においては、無過失責任は、民法の過失責任の原則の例外となるものであり、わが国の私法の法体系全体にかかわる問題であることから、これについて慎重な検討を重ねたが、このたびようやく成案を得ることができ、去る3月22日には「大気汚染防止法及び水質汚濁防止法の一部を改正する法律」として国会に提出した。
 本法案の主な内容は次のとおりである。
 第1は、工場または事業場における事業活動に伴って人の健康に有害な一定の物質が大気中に、または水域等に排出されたことにより、人の生命または身体を害したときは、当該排出に係る事業者は、故意または過失がない場合であっても、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずることとしたことである。
 この場合の有害な物質とは、大気汚染防止法および水質汚濁防止法において人の健康に被害が生ずるおそれがある物質として規制の対象とされているもので、いおう酸化物等複合汚染を常態とする物質をも含めることとしている。
 第2は、損害が二以上の事業者の共同不法行為によって生じた場合において、その損害の原因となった程度が著しく小さい事業者があるときは、裁判所は、その者の損害賠償の額を定めるについて、その事情をしんしやすくすることができる途を開いたことである。
 第3は、無過失責任は、この法律の施行の日以後における有害な物質の排出による損害について適用することとし、遡及はさせないこととしたことである。

前のページ 次のページ