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第2節 

2 野生鳥獣の保護

(1) わが国の野生鳥獣の現状
 わが国は温暖帯に属し、南北に細長く、地形、気象が変化に富み、また、大陸と大洋の中間に位置し渡り鳥の主要な渡りの経路にあたっているため、野生鳥獣の種類は豊富であり、その生息が確認されているものは、鳥類424種、獣類87種(ネズミ、モグラ類等を含む。)にのぼっている。鳥類のうち、キジ、ヤマドリ等国内に常時生息している鳥類はわずかに2割程度であり、6割がガン、ツバメ、シギなどの渡り鳥、残り2割がハクガン、ミカドガンなど稀に飛来する迷鳥となっている。このことから渡り鳥の保護が鳥類保護上大きな比重を占め今後の大きな課題となっている。わが国に渡来する渡り鳥の種類および移動図は次のとおりである(第4-2-8表)。
 これらの野生鳥獣は、自然環境の重要な要素であり、レクレーション等生活をより豊かにするうえからも大きな価値を有するものであるが、近年における急速度の国土開発に伴い、公害や自然破壊による生息環境の悪化、狩猟の普及等によって、その生息数が減少する傾向にある。ちなみに、渡り鳥であるガンについてみると第4-2-9表のとおりであり、また留鳥のなかには、タンチョウ、トキ、コウノトリ等にみられるように絶滅の危険にさらされているものも少なくない。


(2) 鳥獣保護対策
 野生鳥獣の保護については、「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」に基づき、狩猟鳥獣以外の鳥獣の捕獲を禁止するとともに、鳥獣保護区、休猟区、銃猟禁止区域等を設定し、これらの地域における狩猟を禁止するほか、都道府県において、総合的な鳥獣保護事業計画を策定し、計画的な鳥獣保護および狩猟の適正化を図ることとしている。
 狩猟鳥獣の指定、鳥獣保護区の設定等の状況は次のとおりである。
ア 狩猟鳥獣の指定等
 環境庁長官は、狩猟鳥獣を指定し、これ以外の鳥獣の捕獲は原則として禁止されている。鳥獣の保護をより積極的に進めるため、昭和46年6月関係省令を改正し、これまで指定されていた鳥獣55種のうち23種を狩猟鳥獣の指定から除いた。この結果、狩猟鳥獣として現在指定されているのは、わが国に生息している鳥類424種のうちキジ、ヤマドリ等32種、獣類87種のうちノウサギ、イノシシ等17種である。
 また狩猟鳥獣についてもその乱獲を防止し、保護の徹底を期するため、一日当たりの捕獲数が制限されているが、この面についても、昭和46年度に省令を改正し、カモ類については合計して10羽を8羽に、バンおよびオオバンについては5羽を3羽にする等の制限の強化を行なった。
 昭和45年度の狩猟による主な鳥獣の捕獲数は第4-2-10表のとおりである。
イ 鳥獣保護区等の設定
 鳥獣保護区は、鳥獣の保護繁殖を図るため、環境庁長官または都道府県知事が設定するものであり、その区域内では、鳥獣の捕獲を禁止するほか、鳥獣の保護繁殖に必要な給餌、給水施設の設置等の保護措置が講じられている。
 昭和45年度末現在鳥獣保護区は、国設および都道府県設あわせて2,218か所181万7,000ヘクタールとなっている(第4-2-11表)。最近においては、尾瀬国設鳥獣保護区等のように、保護区面積を大規模化するとともに、琵琶湖全域に鳥獣保護区をまた、広島県のように県内全域の水鳥につき捕獲禁止区域を設定するなど、水鳥の保護を図るための保護区を設定する傾向がみられる。
 また、鳥獣の保護繁殖を図るため特に必要があるときは、鳥獣保護区内に特別保護地区を指定し、区域内の水面埋立てもしくは干拓、立木竹の伐採または工作物の設置について規制している。昭和45年度末現在特別保護地区は、国設、都道府県設あわせて400カ所、11万4,000ヘクタール指定されている。(第4-2-11表)。
ウ 休猟区および銃猟禁止区域の設定
 休猟区は、鳥獣の増殖を図るため、3年以内の期間を定めて、また、銃猟禁止区域は、銃猟による危険の防止を図るために、各都道府県知事が設定するものであり、これらの設定状況は第4-2-11表のとおりである。
 さらに、狩猟鳥獣の減少に対処するため、都道府県において、キジ等の人工増殖を実施し、鳥獣保護区、休猟区等を中心に放鳥獣の事業が行なわれている。
エ 鳥獣の生息状況に関する調査
 鳥獣の生息状況等を的確に把握するため、鳥獣生息動向調査、渡り鳥の標識調査、ガン、カモ、ハクチョウ一斉調査等の各種調査を実施している。
オ 鳥獣保護思想の普及啓蒙
 鳥獣保護行政を推進するに当たっては、国民の理解と協力を得ることが最も肝要であるので、鳥獣保護思想の普及啓蒙事業として、毎年小中学校を対象として鳥獣保護実績発表全国大会を開催するとともに、愛鳥週間ポスターを募集し、これらにつき表彰を行なっている。また、都道府県においては、グループ活動を育成するため愛鳥モデル校の指定、野鳥愛護林の設定を行ない、その指導にあたっている。
カ 狩猟の適正化
 近年における所得水準の向上に伴い、狩猟免許件数は逐年増加の一途をたどっており、昭和45年度は、甲種(わな)8,115件、乙種(猟銃)497,597件、丙種(空気銃)26,553件、計532,265件である(第4-2-12表)。また、これに伴い狩猟事故も多発しており、その発生状況は第4-2-13表のとおりである。狩猟に伴う事故を防止し狩猟の適正化を図るため、昭和46年に政令および府令を改正し、乙種(猟銃)および丙種(空気銃)の狩猟免許に係わる初心者教習課程の受講者に新たに銃器の取扱いに関する実技の訓練を課することとし、これに必要な講習時間を延長したほか、あわせて4連発以上の散弾銃、おし、とりもち、弓矢を使用する方法等の狩猟を禁止し、狩猟の適正化を図った。
キ 管理体制
 鳥獣保護および狩猟の適正化を図るため、都道府県に特別司法警察員1,124人が配置されているほか、あわせて鳥獣保護のための指導を行なう職員として鳥獣保護員(非常勤職員)2,300人が配置されている。
 このほか、民有林を主体とする国設鳥獣保護区については、各保護区に1人の管理員を配置し、その管理を依嘱している。
ク 日米渡り鳥等保護条約の調印
 鳥獣の保護を積極的に進めていくために、国際協力体制を確立することが必要であることにかんがみ、昭和47年3月日米間において渡り鳥等の保護を図ることを内容とする条約が調印された。これはわが国の鳥獣保護行政上特筆すべきことである。日米間の渡り鳥条約の骨子は次のとおりである。
(ア) 渡り鳥を保護するため、学術研究等特定の目的のため、捕獲する場合、国内法で定められている狩猟期間中の狩猟等の場合を除き、渡り鳥の捕獲およびその卵の採取を禁止するとともに、違法捕獲物の販売等を禁止すること。
(イ) 絶滅のおそれのある鳥類の種を保存するために特別の保護が望ましいことに同意するとともに、その輸出入を規制すること。
(ウ) これらの鳥類の環境を保全し、かつ改善するため、適切な措置をとるよう努めること。
(エ) これら鳥類について共同研究計画を設定し資料等を交換すること。

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