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第2節 

1 自然公園

(1) 自然公園における自然保護
ア わが国の自然と自然公園
 日本列島は地質上いろいろの因子が組み合わされ、世界でもまれに見る変化に富んだ地形を呈しているが、さらに亜熱帯地方から亜寒帯地方に至る細長い国土は、季節風地帯に属するために気候は比較的暖かく、年間降雨量も大きい。その湿潤な気候は、6,000種にも及ぶ多様の植物の繁茂をもたらすのみならず、渓谷、湖水、および瀑布などに豊かな水を供給し、地形とあいまって、そこに繊細な美しさを持った多様な景観を形成している。
イ 自然保護のための行為規制
 自然公園はこれらのすぐれた自然の風景地を保護することを目的の一つとしている。このため、国立公園および国定公園については、特別地域および特別保護地区を指定し(第4-2-1表)、当該地区内において風致または景観を損なうおそれのある一定の行為は、環境庁長官または、都道府県知事の許可を受けなければしてはならないこととして自然の保護を図ってきたものである。
 以下、個別の行為の規制について説明することとする。
(ア) 道路建設
 自然公園内における道路新設による自然状態の改変は、道路の新設工事に伴う直接的な地形、植生にとどまらず、自動車利用の増大等により2次的な自然景観の破壊をもたらす。
 これらの原因としては、自然の改変の復元可能性についての事前調査あるいは、解析を行なわないまま、路線を選定し、あるいは工法、アフターケアー、修景、造園工事等に対して、配慮を欠いたことなどが考えられる。したがって道路の新設の取扱いについては、事前調査を十分に行ない、路線および工法の決定等にあたっては、自然破壊をもたらさないよう充分起業者を指導のうえ、新設の諾否を決定することが要請されている。
(イ) 原子力発電所、ダム建設
 一般的に原子力発電所、ダム(特に水力発電施設)の建設に際しては、自然環境の大規模な改変が行なわれることにより、しばしば地形、植生などすぐれた自然が破壊されることが多いため問題となっている。
 まず原子力発電については、立地条件として、安全性の観点からする集落地からの隔離、工作物の安全性から求められる確固たる地盤、多量の冷却水が得られる地域ないし用地取得の容易制が要求されることからおおむね海洋に面した比較的未開発の自然性の高い自然公園等の地域に予定される場合が多い。したがって、国立公園または国定公園内において設置申請がなされた場合には、事前に自然公園審議会の意見を求めるほか、植生調査などを行い、風致、景観に及ぼす影響等について慎重に取り扱っている。
 またダムによる自然環境への影響としては、ときに風致的にすぐれた渓谷(地形、植生などが構成する渓谷美)を永久に水没させることがあり、ダムサイトの地形、植生の変化をもたらし、ダム下流の渓流を涸濁化させることがある。また湛水面の上下動による汀線の移動によって植生に変化をもたらし風致に影響を与えることがある。
 したがって、自然公園内のダムの設置申請に対しては、自然公園審議会の意見を求めるほか、事前に学術調査を行ない、設置場所の適否等について慎重に検討するほか、許可する場合にあたっては風致景観に与える支障を軽減させるため、設計、施工方法、復元措置または観光放流等について条件を附する等の措置を講じている。
(ウ) 別荘分譲地造成
 都市人口の著しい増加によって、住居の集中化と高層化が進行し、日常生活において都市住民がいわゆる緑の環境に接する機会が少なくなってきたことに伴い、すぐれた自然状態を有している自然公園内に、第2の住居ともいうべき別荘を求める傾向が高まり、急激にその需要が増大してきている。
 別荘分譲地がこうした欲求に応え、かつ自然公園の風致景観に与える影響を少なくするためには、これが完成した後に周辺に十分自然の植生が残されていることが必要である。
 したがって、特別保護地区等極めて風致景観のすぐれた地域内においては別荘分譲地そのものを許容しないこととしているが、その他の地域で許容する場合であっても、当該地域の植生を一斉に剥ぐようなヒナ壇式造成ではなく、道路、給排水施設、配電施設等生活するうえで必要不可欠なものを地形に順応させて設ける場合に限り許容することとしている。
 また、分譲地造成後において、個々の建築物の新築等が改めて申請されることとなるが、そのための敷地の造成は建築に必要な最小限に止めるとともに建築物自体についても建ぺい率20%以下、高さ2階建て以下におさえるよう指導するなど、風致景観に与える影響を極力軽減させて許可することとしている。
(エ) 木竹の伐採
 森林は自然風景の構成要素の最も重要なものと考えられる。自然公園の植生としては、それぞれの公園に発達した天然の林型が望ましいが、人工林、薪炭林等の地域もそれなりに自然風景の要素として重要な役割を果たしている。したがって自然公園内においては林業経営に対し、できるだけ天然林の状態を維持することに努めるとともに、人工林などについても風致、景観を維持するため、その重要度に応じ、公園計画に基づいて禁伐、択伐など、伐採の方法を定めるとともに、森林施業の対象となる森林面積に対する伐採割合を定め、無秩序、無計画な伐採を規制している。
(オ) 土石の採取
 土石の採取については、その行為が、林業などと異なり、復元がきわめて困難であり、地形、植生に与える影響も大きいことから、近年とくに問題となっている。
 とくに河川砂利の減少に伴う山砂利への転換ということから、大規模な採石業が自然公園の区域内まで進出してきており、採石跡地の修景のための植栽の困難なことと相まって、大きな問題となっている。したがってその操業を認める場合には、風致上の支障をできるだけ軽減させる位置の選定や採石方法をとらせるなどの措置を講じている。
(カ) 海面の埋立て
 海上輸送力の増大と内陸部における用地確保の必要性から、わが国各地で海面の埋立てによる産業団地等の造成が見られるようになり、従来の自然の汀線に変化をきたし、一部の地域では、白砂青松という、わが国の海浜の代表的風景も見られなくなりつつある。
 さらに、埋立後において、大規模工場が集中することに伴い、第2次的自然破壊現象が生じているところも一部あるので、海面の埋立ての申請に対しては、かかる点も含め、その可否につき慎重に検討しており、許可する場合においても、自然の汀線との違和感を減少させるような区域の設定、護岸工法の決定など造成地への植栽等の風致的配慮に対する指導を行なっている。
ウ 自然公園内の車道の再検討
 すでに述べたように、国立公園および国定公園内の各地において車道の建設によりすぐれた自然が破壊されていることが問題となったことにかんがみ、環境庁としては、全国的に自然公園内の車道の実情を調査し、今後とるべき措置等について再検討を実施した。
 道路問題の発端となったものは、日光国立公園尾瀬地区(群馬県)で建設が進められていた車道であるが、この道路は、群馬県沼田市から福島県田島町を結ぶ主要地方道であり、かつ、公園計画で決定されたものであるが、道路建設によって自然が破壊された場合その復元はきわめて困難であり、また尾瀬は学術上も貴重な地域であることから、この道路計画の再検討を行なった。その結果、現在開削した区間(沼田市から岩清水まで)以上の延長工事を実施することは、尾瀬の貴重な自然保護を図るためには、好ましくないと判断し、これまでの方針を変更して46年12月、いまだ工事承認をしていない区間(三平口から沼山口まで)の公園計画を廃止し、その区間の道路を認めないこととする等により、尾瀬一帯の自然保護を強化する基本方針を明らかにした。
 ついで、八ヶ岳中信越高原国定公園のヴィーナスラインが問題となった。この道路は、すでに約50kmが開通しているが、さらに美ヶ原の中心部まで延長し、全線を開通させようとするものである。予定路線の一部である和田峠から扉峠、さらに美ヶ原までの間に自然保護上支障が認められたため計画を再検討し、路線を変更するよう長野県に対して指導を行なった。
 さらに、46年度に全国各地で新設を予定されていた車道についても再検討を実施し、?自然保護上、あるいはレクリエーション環境の保持上支障が認められたものについては承認しないこととし、?車道の建設が自然環境に及ぼす影響について調査不十分であり、さらに調査を要するものについては、承認を保留し、?また、予定路線のうちある程度の変更を加えるならば自然保護上とくに支障のないものについては、自然保護上重要な地域を迂回させる等、路線の部分変更をさせ、あるいは工法の再検討を指示したうえ、承認した。
 一方、すでに工事を完了している車道のうちにも、石鎚スカイライン(愛媛県)、富士スバルライン(山梨県)等、沿線の立木は枯死し、あるいは崩落した土石が渓谷や周辺の森林に流出し、沿線の自然が著しく破壊されてしまったものが認められたので、これらについては、関係県に対して緑化復元等の対策を講じるよう強く指導した。
エ 管理体制の充実等
 自然公園内における風致景観を保持するとともに、公園事業者に対する指導、公園利用者に対する自然解説等広範な業務にあたらせるため、阿寒、十和田八幡平、日光など主要な6国立公園には国立公園管理事務所を設置するとともに、国立公園管理員制度を設けている。これらの国立公園管理事務所および国立公園管理員は、23国立公園、196万ヘクタールに及ぶ広大な地域を対象としており、かつ、今後における産業開発や観光開発がさらに進展し、利用者も増加することを予想した場合、管理員の増加とあわせて、管理事務所の増設が望まれる。
 このほか、自然公園内の重要な景観要素である森林を病虫害から保護するため、総理府所管の国立公園集団施設地区のうち病虫害の発生地区においては、薬剤散布や被害木の伐倒処理等も行なっている。また、環境浄化対策としての美化清掃が管理員を中心としてかなりの実績を挙げているが、46年度からは、環境浄化対策費としての補助金制度が確立し、一層の効果を挙げることとなった。
オ 国立公園内の湖沼・湿原の指定
 昭和45年12月25日、自然公園法の一部改正が行なわれ、海中公園地区内において汚水または廃水を排水設備を設けて排出することおよび国立公園内もしくは国定公園内の特別地域、特別保護地区内にあって環境庁長官の指定する湖沼、湿原または、これらの周辺1キロメートル以内の、流水がこれらの湖沼、湿原へ流入する水域へ排水設備を設けて排水することが規制されることとなった。この法律改正に基づき、46年11月国立公園の特別保護地区の35の湖沼、湿原を指定(第4-2-2表)し、湖沼・湿原における水質汚濁の防止を図ることとした。さらに残された湖沼、湿原については、46年度から新たに所要の調査を行なうこととした。


(2) 自然公園の指定・区域拡張
 わが国の自然公園体系は、昭和6年の国立公園法制定以来、昭和32年の自然公園法制定を経て現在23の国立公園(国土面積の5.3%)、44の国定公園(国土面積の2.7%)、279の都道府県立自然公園(国土面積の5.5%)の設定へと発展し、その総面積は国土の総面積の13.5%を占め、国土の自然保護と野外レクリエーションの場として重要な役割をはたしている(第4-2-1図第4-2-3表第4-2-4表)。
 しかし、最近における自然破壊や環境汚染の現象に対処し、次いで積極的に自然を利用しようとする機運が高まりつつあることから、わが国の自然公園の拡大と内容充実をはかる必要があるとして、昭和46年6月、自然公園審議会に対し、“国立公園の体系整備”および“国定公園候補地の選定について”の諮問が出された。この諮問を受けて自然公園審議会では、同年11月には“国立公園の体系整備について”つづいて同年12月“国定公園候補地の選定について”次表のような地域について、公園指定を考慮するよう答申が行なわれた。


イ 単独に国立公園候補地とすることを至当と認めるもの
ロ 既設の国立公園の区域を拡張するもの
ハ 単独に国定公園候補地とすることを適当と認めるもの
ニ 既設の国定公園を拡張するもの
 なお、47年5月、本土に復帰した沖縄において、復帰前、琉球政府立公園法により琉球政府立公園として指定された『沖縄海岸政府立公園および沖縄戦跡政府立公園』の2公園については、復帰の時点においてそれぞれ国定公園として引継ぐとともにさきに自然公園審議会の答申をえた沖縄西表地域(八重山海域を含む。)についても、47年4月18日に琉球政府により沖縄政府立公園に指定されたので、復帰の時点で国立公園として引継がれた。
 また自然公園審議会の答申のあった候補地について、現在、国立公園または国定公園指定のための諸手続が進められている。


(3) 海中公園の指定調査
 わが国には、昭和9年に指定された瀬戸内海国立公園をはじめとし、数多くの海面を含む自然公園が指定されているが、その規制は海中景観の保護という考え方にまで及ばなかった。
 昭和41年から始められた海中景観の調査が進むにつれて、わが国の周辺海域には、熱帯魚、さんご、海そう等の海中生物を主体とするすぐれた海中景観が存在することが明らかとなり、昭和45年5月、自然公園法の一部が改正され、海中公園制度が発足した。これによって環境庁長官は、海中の景観を維持するため、国立公園および国定公園の海面内に海中公園地区を指定し、規制が海面下に及ぶようにするとともに、その適正な利用を図ることとなった。昭和45年7月には吉野熊野国立公園串本海中公園地区等10ヶ所、46年1月には陸中海岸国立公園気仙沼海中公園地区等12ヵ所、合計22ヵ所が指定され、現在に至っている(第4-2-5表第4-2-2図)。
 昭和46年度においては、西海国立公園若松地区および福江地区、室戸阿南海岸国定公園阿南竹ヶ島地区、ニセコ積丹小樽海岸国定公園積丹半島地区および小樽海岸地区、大山隠岐国立公園島根半島地区を調査し、これらの6地区についてはいずれも海中公園の適地であると判明したので、その指定事務を定めている。


(4) 自然公園の施設整備
 国立・国定公園の利用者数は、昭和45年度において約5億人に達し、昭和40年度の利用者数約3億人と比較すると5ヵ年間で約1.7倍となり急激な増加を示している(第4-2-6表)。
 このような利用の増大は公園内の各所において利用の混乱をもたらし、さらにゴミの散乱等不衛生の現象すら見られるところがあり、また、植生が踏み荒らされ自然の破壊が認められる地区も一部にある。
 これらの状況に対処し、主として国や地方公共団体の直轄事業あるいは補助事業として、?利用の集中する地区の環境を整備し、植生の保護復元に役立つような園地・歩道の整備、?過剰利用や利用の混乱に対処する駐車場・園地の整備 ?人間(利用者)と自然とのコミュニケーションを促進するための自然教室、自然研究路等の自然解説施設の整備 ?海中公園地区の保全と適正な利用を図るための駐車場・園地・自然解説施設の整備?自然が豊かな地域における良質な公園利用を促進するための自然歩道等の施設の整備に重点をおいて公園利用の基盤となる公共施設の整備を実施した。
 さらに東海自然歩道については、東京・大阪間の計画全延長1,376.4kmのうち45、46の両年度において約650km全延長の約50%の歩道の整備が実施された(第4-2-7表)。
 また、利用施設のうち、ホテル、旅館等の宿舎、ロープウェイ、リフト等の運輸施設、スキー場、海水浴場等の運動施設は、主として民間または地方公共団体の事業として整備が進められている。

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