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第6節 

3 公害保健に関する調査、指導の推進

(1) ばい煙等影響調査
 ばい煙等による環境汚染の人体影響を症学的に調査し、汚染の態様と人体影響との関連性の把握、汚染の態様に即応した地域的健康管理体制の確立ならびに今後予測される汚染物質による影響の資料収集など公害防止行政を推進するための資料を得る目的で、昭和45年度を初年度とする5ヶ年計画による経時的な調査研究を進めている。
 比較的大気汚染が生じていると思われる地区および比較的大気汚染の生じていないと思われる地区を選び、職業上の影響を受けていない家庭の主婦などを中心に千葉県、大阪府および福岡県の6地区を選び、質問調査、呼吸機能検査、胸部X線検査、尿検査などの医学的調査と汚染物質の測定、気象の測定、地域保健衛生の動向などの環境調査によって長期にわたって追跡観察することとしている。
(2) 水銀汚染の健康調査等
 水俣病は魚介類に蓄積された有機水銀を経口摂取することにより起こった公害病で、生物汚染による人体影響は微生物あるいはプランクトン等生物連鎖によって二次的な生物汚染の招来が人間の食生活に関連して起ってくる。
 水銀については、昭和43年8月広範な調査研究の成果に基づいて定められた「水銀による環境汚染暫定対策要領」に従って所要の一般魚介類調査を実施し、少しでも疑わしい地域が認められたときは早急かつ詳細な調査を進め、所要の対策を行なうなどの重点的な努力を続けている。
 魚貝類の水銀による汚染調査はすでに約100水域で行なっているが、現在までの調査結果では水俣病発生に心配はないが、比較的水銀濃度が高く検出されたのは山形県赤川、徳山水域、阿賀野川の3水域があり、いずれもこれら水域での魚介類の連日大量の摂食習慣をやめるよう警告するとともに、なお引き続き調査を進めている。
 一方、現在水俣病の全貌を明らかにし水俣病対策の推進を図り、住民の不安を解消するため、熊本県、鹿児島県、新潟県等の関係行政機関、研究機関等の協力のもとに広範囲にわたる住民の一斉健康調査を実施している。
 すなわち、水俣湾沿岸については、熊本、鹿児島両県の水俣湾周辺において、対象者約11万余人に第一次調査(アンケート)を行ない、そのうち約万8千人が第二次検診の対象者となり、さらに、この検診結果に基づいて第3次検診を行なうよう準備を進めている段階である。また阿賀野川流域についても同様の健康調査を行ない、現在、第1次、第2次の検診を終わり、第3次検診を準備中である。
(3) カドミウム汚染の健康調査等
 カドミウム汚染については、昭和40年以来広範な調査研究を進め、これらの成果に基づき、昭和44年12月に「カドミウム環境汚染暫定対策要領」を示し、この要領に沿った米、農作物、魚介類、土壌等の調査結果等に基づき、つぎの七つの要観察地域を定めて、地域住民の健康調査、環境汚染調査等を行なっている。
 宮城県鉛川、二迫川流域
 群馬県碓氷川、柳瀬川流域
 長崎県佐須川、椎根川流域
 大分県奥岳川流域
 富山県黒部市三日市製錬所周辺
 福島県磐梯町会津製錬所周辺
 福岡県大牟田地域
 昭和45〜46年度までの要観察地域住民健康調査の結果、引き続き追跡調査を必要と判定された24名(富山県5名、宮城県2名、福岡県4名、群馬県12名、大分県1名)は、その後の検査結果をイタイイタイ病およびカドミウム中毒症鑑別診断班が検討したところ、これらの要観察者はイタイイタイ病はもとよりカドミウム中毒症状もみられないという結論が得られている。
 なお、これらのものについて、尿中カドミウム排泄量の比較的高い一部の例については、引き続きカドミウム排泄量の変動を追跡し、研究することとした。
(4) その他
 水銀、カドミウムによる汚染問題のほかに、宮崎県土呂久休止鉱山におけるヒ素問題、新潟県直江津地区等の工場から排出される弗化物問題など近年各地区等の工場から排出される弗化物問題など近年各地で環境汚染物質による健康被害を複える事件が多発している。このような事態に対処して、国は諸関係都道府県及市町村などと密接な連絡をとり、都道府県等が、実施する各種の調査に対して適切な指導を援助を行なうなど実態の早期把握と解明を図り、住民の不安解消に努めている。

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