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第6節 

2 健康被害救済制度

ア 制度の概要
 ぜん息や水俣病などによって障害を受けた健康を回復するためには治療を受ける必要があるが、そのための費用は患者にとって大きな負担となっている。
 公害病患者の医療費は発生源がこれを負担するのが建前であるが、公害問題の特殊性から民事上の裁判で救済を求めようとしても発生源を特定し、因果関係や故意過失の有無を立証することはきわめて困難であり、しかも結論を得るまでには長期間を要し、緊急に救済を必要とする健康被害の救済に間に合わない場合が多い。このため昭和44年12月、公害対策基本法に基づき、公害に係る健康被害者を迅速かつ適正に救済することを目的とし、健康被害救済制度が設けられている。
 制度の内容は、救済の対象となる地域を指定するとともに、その地域に係る疾病を指定する。指定地域内で指定疾病にかかっている者の申請に基づいて管轄都道府県知事または市長は、公害被害者認定審査会の意見を聞いて認定を行なう。このように認定を受けた患者が指定疾病について医療機関の窓口で公害医療手帳を提示して医療を受けた場合に医療費を支給するほか、一定の要件を満たした者に医療手当や介護手当てを支給することとしている。認定患者本人、配偶者、扶養義務者の所得が一定額をこえる場合には支給されない。
 医療費や医療手当、介護手当ての支給に要する費用は、事業者側が2分の1、その残りを国、都道府県、市で負担することとしている。
 この制度に基づいて医療費や医療手当などを受ける資格を持つ認定患者は第3-5-1表のとおりである。


イ 制度改善の経緯
 健康被害救済制度は発足以来2年余りを経過し、その間、指定地域の追加、医療手当や介護手当の額の引上げ、支給要件の緩和所得制限の緩和、などが行われ、逐次、改善充実が図られてきた。これらの経過を示すと次のとおりとなっている。
(ア) 大気汚染の指定地域の追加拡大
 制度発足時の四日市地域等3地域に加えて、昭和45年12月には尼崎市東部、南部地域が、また昭和47年2月には鶴見臨海地域、川崎中央地域、富士中央地域を新たに追加指定した。
(イ) 手当額の引上げと支給要件の緩和
 入院の場合の医療手当の額は、制度発足当時1カ月に入院した日数が8日以上の場合月額4,000円、8日未満の場合2,000円であったものを、46年4月から15日以上入院の場合5,000円、8日以上15日未満の場合4,000円、8日未満の場合3,000円に改善した。
 また、通院の場合についても所要の改善を図っている。
 次に介護手当の額は、制度発足時においては月について300円に介護を受けた日数を乗じた額であったのを、45年4月からは、その月に介護を受けた日数が20日以上の場合月額10,000円、10日以上20日未満の場合7,500円、10日未満の場合5,000円とし、改善を図っている。
(ウ) 支給制限の緩和
 医療手当および介護手当は、認定患者は配偶者または扶養義務者が前年に一定額をこえる所得税額がある場合には支給されない。この制度は制度発足当初17,200円であったのを45年4月から29,200円に引き上げ、支給対象の範囲をひろげている。
(エ) 地方の健康被害救済制度
 地方公共団体における健康被害救済の措置は昭和33年11月の水俣病について熊本県で、40年5月に四日市ぜん息について四日市市で実施されて以来各地で行なわれているが、最近大気汚染系疾病について健康被害救済制度を設ける地方公共団体が急速にふえている。現在単独で救済制度を設け、医療費などを支給している地方公共団体は、新南陽市、東海市、名古屋市など10余にのぼっている。これら健康被害救済制度の内容をみると、医療費のみを支給しているところや、医療費のほかに医療手当や介護手当てを支給するとか、あるいは中には死亡見舞金などを支給しているところもみられる。

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