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第2節 

2 内湾

 瀬戸内海、伊勢湾、東京湾等の内湾における水質汚濁は、近年における臨海工業地帯の活発な産業活動とこれに伴う都市への人口集中に伴い急速に進んでおり、臨海工業地帯地先海域における水質汚濁問題の深刻化と相まって、最近では、その汚濁が相当広範囲にわたって進行しており、汚濁が広域化する傾向にある。
 これらの内湾は、いずれも閉鎖的かつ停滞性であることから、数多くの汚濁源からの排出水が内湾に停滞し、かつその汚水の流入が相互に影響を及ぼし合い、きわめて複雑な汚濁のパターンを示すばかりでなく、その汚濁は必然的に内海全面に及び広域化することになる。したがって、このような汚濁の状況に対しては、個々の汚濁源に着目し、局地的な汚濁問題として取扱っていたのでは水質汚濁問題の解決が図られず、それら内湾全体の水質汚濁を広域的な観点から把握し、問題の処理にあたらなければならなくなってきている。現在これら内湾の広域汚濁問題が深刻化しているところとしては、瀬戸内海のほか、東京湾、伊勢湾等があげられる。
(1) 瀬戸内海の水質汚濁状況
 瀬戸内海では水質汚濁の深刻化、広域化が進み、最近では、内海の多くの場所で赤潮が頻発している。このことは、内海が急速に富栄養化している証左である。
 瀬戸内海の臨海工業地帯地先で、とくに水質汚濁問題が深刻化しているところとしては、大阪湾、大竹・岩国、伊予三島・川之江、三田尻湾等があげられる(第2-2-2表)。大竹・岩国地区には汚濁源としてはパルプ工場等が立地し、これら工場等からの排出水が沿岸海域に流入し、その汚濁が広範囲に及んでいる。現在、汚濁範囲は、排出規制等の実施によりかなり縮小したものの、その水質はCOD2.4〜16ppmと高い。また伊予三島・川之江にも汚濁源としてはパルプ工場が立地している。この地先海域の汚濁は、COD3.1〜16ppmと著しく、この汚濁も広範囲に及んでいる。三田尻湾は発酵工場が立地し、湾内の汚濁はCOD3.5〜78ppmと著しく、水産業に深刻な影響をあたえている。
 瀬戸内海においては、工場排水による水質汚濁問題ばかりでなく、航行船舶から排出される油および廃棄物による水質汚濁も無視し難い。さらに、産業廃棄物および一般廃棄物の投棄の問題があるが、ビニール等の廃棄物は、魚場価値の低下および船舶機関冷却水の吸水口を閉そくする等の被害をもたらし、また、し尿の海上投棄は内海赤潮発生の一要因と考えられ懸念されている。


(2) 東京湾の水質汚濁状況
 東京湾の水質汚濁は、近年における都市化の一層の進展と京浜工業地帯等の高密度の工業発展により、年々深刻化の一途をたどっている。汚濁源が集中しているのは、これら京浜、京葉等の工業地帯および荒川、隅田川、多摩川等の都市河川流域である。これら地域の汚濁負荷量は、東京湾に流入する総負荷量の約90%を占め、またこのうち河川から流入する負荷量は55%と高い。したがって、東京湾の水質は、荒川河口から千葉市にかけての地先海域が最も汚濁しており、CODの年平均値は4ppmを越えている(第2-2-2図)。これらの地先海域においては、流入河口からの汚濁負荷が高いことのほかに、潮流によってこの付近に潮目が形成され、汚水が停滞することがもう一つの汚濁原因としてあげられる。
 これら沿岸部を除く内湾部では、湾奥でCOD平均3〜4ppm、汚濁源の少ない南部では、2〜3ppmとなっており、富津岬と観音崎を結ぶ線以南では2ppmとなってる。


(3) 伊勢湾の水質汚濁状況
 伊勢湾の水質汚濁は比較的局部的な範囲にとどまっており、その汚濁は、名古屋港を中心とする地先海域および四日市港を中心とする地先海域において深刻化している。これらの地先海域では、石油化学、鉄鋼、機械等の産業が臨海部に立地し、これらの工場および事業場からの排水と都市下水により地先海域の水質汚濁が進行している。名古屋港附近の地先海域は、名古屋港がきわめて閉鎖的であることから、その汚水は湾内に停滞する傾向にあり港内の水質はCOD2〜23ppmと高い。
 これら名古屋港および四日市港を除いた湾内の中央部では、平均COD2ppm、知多半島以南はCOD2ppm以下である。
 伊勢湾の水質汚濁は、今までの調査結果では、このように局部的な汚濁にとどまっているが、しかし赤潮の発生が次第に大規模化し、湾内に拡大する傾向がみられる。
(4) その他の内湾等の水質汚濁状況
 その他の内湾等において深刻な水質汚濁問題をもたらしている水域としては、田子の浦港、洞海湾等をあげることができる。
 田子の浦港においては、富士市に立地するパルプ工場の排水および廃液により生じたヘドロによって、港の機能が低下するという深刻な事態に陥っている。このヘドロの除去対策については、現在、静岡県において準備中であるが、堆積量120万m
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のうちとりあえず30万m
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のヘドロをしゅせつし、富士川河川敷において脱水処理したのち、田子の浦港周辺の堤防背後地等に埋立てることにしている。また、本事業については、公害防止事業費事業者負担法が全国で最初に適用され、事業費の82%を同港に工場排水を排出している企業で負担することとなった。
 次に洞海湾の水質汚濁問題であるが、一昨年湾内においてシアン、ヒ素、カドミウム等の有害物質が水質環境基準を著しく越えて検出された。このため、直ちに排出規制等の対策が講じられた結果、水質は著しく改善の方向をたどり、最近では、十数年ぶりに魚の遊泳がみられるようになった。

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