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第2節 

2 排出規制の強化

 昭和45年12月の第64回国会(いわゆる公害国会)において成立した大気汚染防止法の一部を改正する法律は、広域化、複雑化の様相を深める今日の大気汚染の急速な改善と将来にわたる大気汚染の防止の徹底を期するために行なわれた抜本的な法改正であった。すなわち、指定地域の廃止による全国への規制の拡大、有害物質のばい煙への追加等規制物質の拡大、都道府県の条例による上のせ排出基準の設定、燃料使用規制の導入、物の破砕・たい積等により生ずる粉じんの規制措置の新設、排出基準違反のばい煙の排出に対する直罰制の導入、緊急時の措置の強化等規制措置を制度的に格段に強化するものであった。
 この一部改正法は、関係政省令および告示の制定を経て46年6月24日から施行されたが、この政令、省令等の制定改正に際しては、法改正の趣旨にのっとり、厳しい排出基準を設定するなど、具体的な規制内容の大幅な強化を図った。
(1) いおう酸化物の排出基準の強化および燃料使用規制基準の設定
 
 いおう酸化物の排出基準は拡散方程式によって導かれた一定の式q=K×10
-3
He
2
(qはいおう酸化物の量(Nm
3
/h):Heは煙突の有効高さ(m))によって算出されるqの値である。Kの値は地域の区分ごとに定められており、この数値により基準値の厳しさの程度が決定される。いおう酸化物の排出基準には全国に適用される一般排出基準と、汚染が著しいかまた著しくなるおそれがある特定の地域に限り、かつ、新設される施設に限って適用される特別排出基準とがある。
 これらの基準は、いおう酸化物に係る環境基準を達成し、または維持することを目標に逐次強化改正されており、その状況を東京等の過密都市について示すと第1-2-1表のとおりである。
 また、改正法の施行以後における排出基準の改正のあらましは、次のとおりである(参考資料第8表参照)。
ア まず46年6月24日に、従来指定地域外であった地域は、原則としてナショナルミニマム的な性格を有する第8ランクのK値(26.3)を適用することとし、その中でとくに大規模な工業開発が進められつつある地域または汚染の進行しつつある地域(苫小牧、秋田、いわき等の地域)については第1ランク〜第5ランク(K値11.7〜17.5)の基準を適用することとした。また、特別排出基準(K値=5.26)の適用地域についても、従来の東京都特別区、横浜、川崎、大阪、尼崎、四日市の5地域に川口、千葉等11地域を追加し、16地域について規制することとした。
イ さらに同年12月には、いわゆる過密5地域を除く全地域については、48年に環境基準を維持、達成し、また、過密5地域についても環境基準を早期に達成することを目標に一般排出基準および特別排出基準の大幅な強化を図った。
 一般排出基準の強化の内容は、これまでの排出基準に比較し、全国平均で4割程度の基準強化となっており、最も厳しい第1ランクのK値は6.42(最大着地濃度0.011ppm)であり、従来の基準のほぼ倍の厳しさ(K値で45%削減)である。なお、4割以上の大幅強化になった地域については、低いおう重油の確保および規制の円滑な実施を図るなどの観点から、段階的な基準を適用することとした。
 特別排出基準の強化の内容は、従来一律の基準(K値=5.26)であったものを今回きめ細く3つのランクのK値に分け、基準の強化を図ったこと(K値=2.92(従来の2倍程度厳しい基準)3.50および5.26)および適用地域の追加拡大を行なったことである(参考資料第8表の?参照)。
 なお、第1ランク(K値=2.92)の基準が適用される地域に今後新しく工場を設置しようとする場合、たとえば60万KWの重油専焼火力発電所では200mという超高煙突を建てるとしても、燃料対策としていおう含有率が0.4〜0.5%程度の低いおう重油を使用しなければならないことになる。
ウ いおう酸化物の規制の一環として、以上の排出基準による規制のほかに、45年12月の法改正で導入された燃料使用規制がある。
 燃料使用規制は、季節により燃料使用量に著しい変動があるビル街等の都市中心部におけるいおう酸化物による大気汚染を、排出基準による規制とあいまって早急に解決するために新設されたものである。 
 改正法の施行に際しては、札幌、仙台、東京、横浜、川崎、名古屋、京都、大阪、神戸および尼崎の10都市の中心部等の地域を燃料規制地域として定め、当該地域に適用される燃料使用基準は重油その他石油系の燃料について、都道府県知事がいおう含有率を1.0〜1.5%の範囲内で定めることとした。


(2) ばいじん排出基準の強化
 ばいじんの排出基準は、従来「すすその他の粉じん」の排出基準として設定され、東京、横浜、大阪、京都等29の指定地域について適用されていた。法改正の施行に伴い全国が一律の基準で規制されることとなったが、同時に排出基準についても、従来の基準値の1/3〜1/10という厳しい基準に強化した(参考資料第8表の?参照)。
 ばいじんの排出基準の内容はばいじんの排出実態等に応じ、施設ごと規模ごとに定められている。たとえば、重油燃焼の大規模ボイラーの排出基準は、0.10g/Nm
3
で、対策としては電気集じん機の設置等が必要であり、中規模のボイラーの排出基準は、0.20g/Nm
3
で、対策としてはマルチサイクロンの程度の集じん機の設置が必要である。
 また、一般排出基準のほぼ倍の厳しさの特別排出基準を東京、横浜、川崎、名古屋、四日市、大阪、尼崎等9地域に新たに設定した(参考資料第8表の?参照)。この地域に新たに施設を設置する場合は、たとえば、排出ガス量の大きい施設に対しては0.05g/Nm3の基準が適用されるので、最新の高性能電気集じん機の設置が、小規模な施設に対しても、 0.20g/Nm3の基準が適用されるので、マルチサイクロン程度の集じん機の設置が必要である。
 なお、大気汚染防止法第4条の規定により、都道府県は、地域の実情に応じ、条例でばいじんの一般排出基準に代えて適用される、より厳しい排出基準(いわゆる上のせ排出基準) を定めることができることになっている。47年3月現在、ばいじんの上のせ排出基準を設置している都道府県は4である。
(3) 有害物質の排出基準の設定
 有害物質の排出基準は改正法の施行に伴い?カドミウムおよびその化合物、?塩素、?塩化水素、?弗素、弗化水素及び弗化珪素、?鉛及びその化合物について、新たに全国一律の排出基準として定めた(参考資料第8表の?参照)。
 この結果、カドミウムおよび鉛を排出する施設は、電気集じん機またはバッグフィルターの設置、塩素、弗素関係を排出する施設はアルカリ洗浄施設等の除去施設の設置が必要である。
 なお、有害物質の排出基準については、ばいじんと同様に、都道府県は、条例により、より厳しい排出基準を設定することができるが、昭和47年3月末現在、このいわゆる上のせ排出基準を定めている都道府県は11である。
(4) 粉じんの規制基準の設定
 これまでは、物の燃焼・加熱の過程において発生する粒子状物質についてのみ規制措置が講じられていたが、総合的に粒子状物質対策を行なうことが必要であるかことから、改正法により、破砕、選別、たい積等の過程において発生、飛散する物質についても「粉じん」として規制措置が講ぜられることとなった。
 これに伴い、新たに粉じんに関する基準を、構造・使用・管理に関する基準として設定し、これによって規制を行なうこととした。この基準の内容は、粉じん発生施設であるコークス炉、鉱物または土石のたい積場、コンベヤ、破砕機および摩砕機、ふるいの5施設について、集じん機、防じんフード、散水施設等の設置等を義務づけているものである。
(5) 緊急時の措置の強化
 個々のばい煙排出者が所定の排出基準を遵守している場合であっても、逆転現象等の特殊な気象条件下においては、大気汚染が著しくなる場合がある。このような場合には直ちにばい煙排出者等に、ばい煙排出量の一層の減少等緊急措置を求め、あるいは自動車運転者等に対する協力を求めるなどにより、急激な大気汚染の悪化による被害を未然に防止しなければならない。
 改正法の施行に伴い、この緊急時の措置の発令基準を、いおう酸化物、浮遊粒子状物質、一酸化炭素、二酸化炭素およびオキシダントの5汚染物質について、第1-2-2表のような大気汚染の状態が気象条件からみて継続すると認められるときと定め、急激な大気汚染の悪化による人の健康、生活環境に係る被害の防止を期することとした。


(6) ばい煙発生施設および粉じん発生施設の届出状況
ア ばい煙発生施設
 ばい煙発生施設の届出数は、改正法による指定地域制の廃止およびばい煙発生施設の範囲の拡大に伴い大幅に増加し、昭和46年10月1日現在、全国で85,487施設、これを設置する工場・事業場数は45,606となっている(参考資料第7表?、?参照)。
 なお、改正法の施行に伴い新たに届け出られた施設数は、全国で49,717であり、全体の約58%にあたる。
 これを、ばい煙発生施設の種類別にみると最も多いのは、ボイラーの55,405であり、全体の約65%をしめている。このほか全国で、1,000以上届出されているばい煙発生施設は、溶解炉2,052、金属加熱炉6,083、石油加熱炉1,118、窯業用焼成炉・溶解炉6,438、乾燥炉3,386、焼却炉2,478、アルミ精錬用電解炉4,984である。
 都道府県別にみると、東京が12,090(工場事業場数は8,111)で最も多く、次いで愛知8,077(2,917)、神奈川6,313(2,544)、大阪6,067(3,184)、兵庫4,368(1,786)、北海道4,131(3,286)となっている。
イ 粉じん発生施設
 粉じん発生施設は、改正法の施行により新たに規制対象となったものであるが、全国の粉じん発生施設の届出数は、46年10月1日現在で13,998施設(工場事業場数は2,531)となっており、種類別には、コークス炉139、たい積場2,487、ベルトコンベア・バケットコンベア8,123、破砕機・摩砕機2,164、ふるい1,085となっている(参考資料第7表?参照)。
 都道府県別の粉じん発生施設数、およびこれを設置する工場、事業場数は参考資料第7表?のとおりである。

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