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第2節 

1 環境基準の設定

(1) 環境基準の意義
 わが国における「環境基準」とは、公害対策基本法第9条に定められているとおり、大気、水質、土壌の汚染および騒音に係る環境上の条件について、それぞれ人の健康を保護し、および生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準である。環境基準は、個別の排出規制のみによっては進行する環境汚染に十分に対処しえなくなった公害の状況にかんがみ、個々の汚染が集積した全体としての環境を改善するために、個別の排出規制その他の大気汚染防止上の諸施策を合理的に実施してゆくことを趣旨として定められた ものである。
 したがって環境基準は、公害防止計画の策定、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、騒音規制法等、個別公害規制法に基づく法的規制の実施、土地利用の適正化、施設の整備等の公害対策の根拠もしくは目標となるべきものである。
 このように環境基準は「維持されることが望ましい基準」であり、最大許容濃度あるいは受忍限度といったものとも概念上異なるものである。
 なお、科学技術の進歩に伴って、人の健康および生活環境への影響に関する新たなデータの入手、新しい汚染物質の出現に応じ、環境基準について常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定がなされなければならないとされている。
(2) 大気汚染に係る環境基準の設定状況
ア 現在までに設定された環境基準
 公害対策基本法第9条の規定に基づく、大気汚染に係る環境上の条件のうち、昭和47年3月現在、人の健康に関するいおう酸化物、一酸化炭素および浮遊粒子状物質に係る環境基準が設定されている。
イ 浮遊粒子状物質に係る環境基準
(ア) 環境基準設定の背景
 浮遊粒子状物質は古くからわが国における大気汚染の原因として、いおう酸化物とならんで最も代表的な汚染物質の一つであり、また、いおう酸化物質、その他の有害な物質と共存することによって、その影響を強めることが知られている。
 これによる大気汚染の影響は、青空を汚染させ視程障害による地域社会の不健康感や不快感の増加、動植物への影響、器物や建造物等の物質財産等の損傷、さらには人の健康への影響があげられる。
 したがって浮遊粒子状物質による大気汚染防止に関する施策の目標としての環境基準の設定は緊急の課題であった。
(イ) 環境基準設定の経緯
 浮遊粒子状物質に係る環境基準については、45年12月25日に生活環境審議会公害部会の浮遊粉じん環境基準専門委員会から「浮遊粒子状物質による環境汚染の環境基準に関する専門委員会報告」として報告書が提出された。環境庁の発足に伴い同審議会から審議を引継いだ中央公害対策審議会は、46年12月22日に本環境基準の設定についての答申を行なった。これを受けて環境庁長官は、47年1月11日の閣議に報告したうえで、同日告示した。
(ウ) 環境基準の概要
 人の健康に関する浮遊粒子状物質に係る環境基準は、次のいずれかをも満たすものとされている。
? 連続する24時間における1時間値の平均が大気1m
3
につき、0.10mg以下であること。
?1時間値が、大気1m
3
につき、0.20mg以下であること。
 なお、この環境基準においては、大気中に浮遊する粒子状物質のうち、その物理的性状に着目して、人体影響の観点から、粒径10ミクロン(μ)以下のものを「浮遊粒子状物質」と定義しており、また、この環境基準は、工業専用地域については適用しないものとしている。
ウ 現在設定作業をすすめている環境基準
 目下中央公害対策審議会においては、鉛および窒素酸化物等に係る環境基準の設定について審議がすすめられている。
(ア) 鉛に係る環境基準
a 環境基準設定の背景
 種々の原因による人の鉛中毒は古くから知られていたが、近年自動車燃料としての加鉛ガソリンの使用に伴う環境大気中の鉛汚染の問題が提起された。鉛(化合物)は経口的および経気道的に人体内に摂取されるが、体内に大量に蓄積されると造血作用に対する影響など種々の影響を及ぼすことが知られており、環境大気中の鉛の汚染度の低減が大きな問題となっている。
b 環境基準設定の審議経遇
 鉛に係る環境基準については、生活環境審議会公害部会の鉛に係る環境基準専門委員会において45年9月以来検討が行なわれてきたが、環境庁の発足に伴い、中央公害対策審議会に審議が引き継がれ、現在同審議会大気部会の鉛に係る環境基準専門委員会において検討が続けられている。
(イ) 窒素酸化物等に係る環境基準
a 環境基準設定の背景
 大気汚染物質としての窒素酸化物が広範な関心を集めるようになったのは比較的最近のことであるが、燃焼等高温反応過程で必ず発生するといってよく、きえあめて普遍的な汚染物質である。窒素酸化物の影響としては、粘膜刺激性が少ないので直接呼吸器の深部に到達し、呼吸器への影響を起こすことが知られている。相当低濃度であっても慢性の影響が実験的にも疫学的にも認められたという報告がある。今後燃料使用量の増大に伴って汚染負荷がますます増加することが推定され、また光化学スモッグの原因物質の一つとして重要な役割を果たしていると考えられるので、窒素酸化物による大気汚染防止対策は当面する最も重要な課題の一つとなっている。 
b 環境基準設定に関する審議過程
 窒素酸化物等に係る環境基準については、生活環境審議会公害部会の窒素酸化物に係る環境基準専門委員会において45年10月以来検討を行なってきたが、環境庁の発足に伴い、中央公害対策審議会に審議が引き継がれ、現在同審議会大気部会の窒素酸化物等に係る環境基準専門委員会において、窒素酸化物およびオキシダントに係る環境基準の設定について検討が続けられている。

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