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第1節 

3 汚染物質別の大気汚染の状況

(1) いおう酸化物
 いおう酸化物は、その大部分が物の燃焼に伴って発生しており、とくに燃料としての重油の中に含まれるいおう分が燃焼に伴ってガス化することにより発生する。
 近年におけるわが国の石油系燃料消費量の増加にもかかわらず、いおう酸化物の濃度が昭和42年〜43年を境に漸減傾向あるいは横ばいを示している(第1-1-1表)が、これは、43年に制定された大気汚染防止法による規制および公害防止協定の締結の効果と相まって低いおう原重油の輸入の増大、重油排煙脱硫の実施等の総合的な低いおう化対策、高煙突化等の発生源の設備改善等が徐々に成果を示してきたことによるものである。
 昭和45年度におけるいおう酸化物の全国測定結果(測定時間6,000時間以上の測定局)は、参考資料第1表のとおりである。
ア 環境基準の適合状況
 地域内のすべての測定局がいおう酸化物に係る環境基準に適合している都市は、70都市で測定局のある都市(110都市)のうち64%をしめている。
 これらの環境基準適合都市のうち、前年度は環境基準不適合であったが、昭和45年度に新たに適合することとなった都市は10都市であり、過去に環境基準不適合であったが、45年度には適合している都市は、6都市となっている。
 なお、いおう酸化物に係る環境基準において、もっとも不適合率の高いのは「1日平均値が0.05ppmを超えない日が年間を通じて70%以上あること。」の項である。したがって、当該地域のすべての測定局において1日平均値0.05ppmを超えない日が年間を通じて90%以上を示すような都市は、比較的良好な環境下にあると一応いえよう。この条件を満たす都市は46都市、測定局137局(45%)である。
 次に、まだ環境基準を満たしていない測定局は86局あり、全測定局数306に対し28%を示している。地域内の全測定局のうち環境基準に適合していない測定局をもつ都市は40都市であり、全測定局所在都市の36%をしめる。そのうち、過去において環境基準に適合していたが、45年度に初めて環境基準不適合の測定局をもつこととなった都市は、4都市である。
イ 年平均値の推移
 昭和42年度に測定を開始して以来、測定場所を変更せず、毎年継続して測定を行なっている測定局は64局である。これらについて年度別年平均値の単純総平均をとると第1-1-2図のとおりであり、42年度は0.0398ppm、43年度は0.0376ppm、44年度は、0.0377ppm、45年度は0.0361ppmとなっている。
 また、43年度および44年度の両年度にわたって測定を行なっている117測定局について年度別の年平均値の単純総平均値をみると、43年度0.0371ppm、44年度0.0378ppmであり、44年度と45年度の両年度にわたって測定を行なっている。191測定局についてみると、44年度0.0380ppm、45年度0.0360ppmであって、低下の傾向がうかがわれる。
 また、45年度以前のデータと比較できる測定局にについて、年度別いおう酸化物の年平均値から各測定局の年平均値の傾向をみると、いおう酸化物が増加傾向にある測定局数は49局であり、減少傾向にある測定局数は92局、横ばいとみなされる測定局数は48局である。


(2) 浮遊ふんじん
ア 汚染状況の推移
 浮遊ふんじんとは、一般に、大気中に長期間存在する粒子状物質のことをいうが、このうち、粒径10ミクロン(μ)以下のものを浮遊粒子状物質ということとしており、原燃料等の物の燃焼、加熱あるいは物の破砕、選別、たい積等の過程によって発生する。
 現在、浮遊ふんじんの測定については、光散乱法による自動計測(デジタルふんじん計による計測)が一般的方法となってきたので、この方法による経年的な測定結果をみれば第1-1-2表のとおりである。これによれば昭和39〜42年までは大体横ばい、43年からは低下の傾向を示していることがうかがわれる。
 この理由としては、大気汚染防止法等によるいばいじんの排出規制と相まった石炭系燃料使用量の減少、電気集じん機等発生源における防除設備の性能の向上と設置の進展のほか、公害防止協定等による抑制等によるものと考えられる。
イ 汚染の現況
 デジタルふんじん計による昭和45年度における浮遊ふんじんの全国測定結果(測定時間6,000時間以上の測定局)は参考資料第2表のとおりであって、測定対象都市数41都市、測定局数は96局である。
 この測定値は、総浮遊ふんじんの量を一日平均値で示すものであるので、浮遊粒子状物質に係る環境基準(参考資料参照)とそのまま対比することはできないが、総浮遊ふんじん量の1日平均値が0.1mg/m第11表
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を1日も超過したことのない都市は、福井県敦賀市、島根県松江市、熊本県荒尾市の3都市であり、測定を行なっている都市の約7%にすぎない。したがって、測定局のある都市の大半が浮遊ふんじんによって、なおかなり汚染されている状態にあるということがいえる。
 また、測定対象都市のうち、年平均値で最も高濃度の浮遊ふんじんの測定された地域は、大阪市出来島小学校の0.273mg/m
3
であり、そのほか群馬県安中市、東京都、川崎市等で、0.15mg/m
3
を上まわった値が測定された。また、1時間値で高濃度の浮遊ふんじんが測定された都市は第1-1-3表のとおりである。


(3) 窒素酸化物
 窒素酸化物は、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)などの総称であって、物の燃焼に伴って必然的に発生するものであり、燃焼条件によってその発生量は大きく変化するが、50〜2,000ppmの発生はさけられない。
 したがって、有効な窒素酸化物の防除技術が開発されていない現状では、燃料消費量の増加に伴って、窒素酸化物による大気汚染は進行する傾向にあるものと考えられる。
 これを経年的には握することは、常時監視測定局がまだ十分整備されていない現状においては困難であるが、第1-1-4表に示すとおり、二酸化窒素の経年変化をみても全国的な傾向としては増加していることがうかがわれる。
 昭和45年度における窒素酸化物による汚染については、測定例数が少ないので全般的評価はできないが、いおう酸化物濃度の高いところは必ず二酸化窒素濃度も高いという相関関係は認め難く、また、いおう酸化物濃度は工場の少ない都市においては極端に小さい値となるが、二酸化窒素の濃度は総じて0.02ppm以上である。これは、いおう酸化物の発生源が主として重油を使用する工場であるのに対し、窒素酸化物は、工場、事業場、自動車、家庭等その発生源がきわめて多様なことによるものと考えられる。
 また、45年度の測定結果(参考資料第3表参照)によれば、二酸化窒素の年平均値が0.05ppmを超える高濃度汚染のみられる地域としては、道路際測定点のデータを除き、東京板橋測定局0.059ppm、国設川崎測定局0.053ppm、八戸県税事務所測定局0.051ppmなどがある。
 しかしながら、全測定局についてみても、大気汚染防止法に基づく二酸化窒素の緊急時の措置の対象となる濃度である1時間値0.5ppmを記録した例はまだない。
 なお、窒素酸化物の環境基準は、47年前半までに設定する予定であるが、窒素酸化物対策は、見通しの立ったいおう酸化物対策に代って今後の大気汚染問題においてもっとも重要なものとなっている。


(4) 一酸化炭素
 一酸化炭素による大気汚染の主たる発生源は、自動車の排出ガスである。したがって、その汚染の程度、あるいは自動車に対し汚染防止のため行なわれる規制の効果をは握するには、交通量のはげしい道路際において一酸化炭素濃度を測定し、その経過観察を行なうことが必要である。45年度に測定された一酸化炭素濃度は参考資料第4表のとおりである。
 一酸化炭素濃度の経年変化は、第1-1-5表および第1-1-6表のとおりである。
 すなわち、測定点がきわめて少数であるため全般的な傾向を概観することはできないが、都内3か所の道路際測定点における一酸化炭素濃度は39年以来漸増したが、45年度には初めて減少した。
 なお、国設大気測定局(非道路際)の一酸化炭素の濃度も44年度に引き続いて減少している。
 これらのデータと、45年度に名古屋、大阪、姫路、北九州の各市の交通のはげしい道路際で測定された一酸化炭素濃度の測定値も異常な数値を示していないことと合わせて考えると、自動車排出ガスに対する規制の効果が現われはじめてきているのではないかとうかがわれる。
 次に45年度における一酸化炭素による大気汚染について、一酸化炭素の環境基準の適合状況をみると道路際測定点のデータをもって当該地域全体の汚染を判断するのは必ずしも適切ではないが、都内3ヵ所の道路際の測定点においては、まだ環境基準に不適合となっている。なお、非道路際の測定点については不適合のところはない。


(5) オキシダントおよび炭化水素
 オキシダントは、光化学による大気汚染の1指標として重要なものであり、長期間の低濃度のオキシダントの慢性的影響もさることながら、現在では、1時間なり数時間の高濃度のオキシダントの急性的な影響が問題となっているものである。
 炭化水素は、光化学による大気汚染の起因物質の一つとして重要な物質であり、最近においてその測定が始められたところである。
 昭和45年度におけるオキシダントおよび炭化水素の測定結果は参考資料第5表および第6表のとおりである。これらの物質の経年変化はいずれも測定点が少なく、オキシダント測定機の多くは45年度から設置されたことから全般的な傾向を概観することはできないが、参考までに示すと第1-1-7表のとおりである。

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