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第1節 

2 最近における大気汚染の特徴とその要因

 最近におけるわが国の大気汚染は、前述のとおり、窒素酸化物などの一部の物質を除き、全国的に汚染の進行は鈍化し、あるいは改善の傾向がみえるが、地域によっては汚染の水準は依然として高い。
 大気汚染の状況をいおう酸化物を一つの指標として地域別にみると第1-1-1図のとおりであり、わが国の主要都市のほか、地方の中核都市にも大気の汚染が広がっていることがうかがえる。なお、いおう酸化物に係る環境基準に不適合の測定局を有する大気汚染都市は、40都市に達し、これは測定局を有する110都市の4割弱にあたる。このうち、大気汚染都市の多数位置する太平洋ベルト地帯が注目されるが、とくに京浜地域、富士地域、名古屋南部地域、大阪尼崎地域については、その汚染の程度等からみても今後格段の行政努力を続ける必要があると考えられる。
 このような、いおう酸化物等による汚染の状況に加えて、局地的には、弗化水素、塩素、塩化水素等の有害な物質による汚染問題の発生、さらには最近の大気汚染問題の中でとくに注目されている光化学反応によって生ずるオキシダントなどの二次汚染物質による大気汚染問題の発生など、最近における大気汚染は質的にも複雑な様相を呈している。
 このようなわが国の最近における大気汚染問題の要因としては、第一にエネルギー消費量の増加である。
 わが国における一次エネルギー供給の推移をみると、昭和29年から39年までの10年間にエネルギー総消費量はほぼ3倍に増加し、さらにその後の5年間で2倍弱の増加をみている。また、電力その他のエネルギー源の構成も水力などから大気汚染型燃料である石油、石炭に急激に傾斜し、45年度には石油が71%を占めるなど、石油と石炭の化石燃料だけで全エネルギーの約90%を占めるに至っている。
 とくにわが国においては原油のうちの圧倒的割合(45年度においては85%)をいおう含有率の多い中東産原油に依存しているという事情が、これに拍車をかけている。
 また、窒素酸化物は石油等の物の燃焼に伴って必然的に発生するものであるので、今後の燃料使用量の増加に伴って大気中の窒素酸化物濃度が増加することはさけられないため、今後、窒素酸化物による大気汚染が一層重要な問題になってこよう。
 第2に、基礎的生産財産業の生産の伸びが著しかったことである。わが国においては、30年代になって、第2次産業のなかでもとくに大気汚染に対する負荷率の高い鉄鋼、金属精錬、石油精製、石油化学等は、経済の急速な拡大に伴って生産規模を大幅に拡大し、わが国における広域的ないおう酸化物、窒素酸化物、浮遊粒子状物質による複合汚染問題の要因となるとともに、さらにその生産活動において、カドミウム、鉛、弗化物、硫化水素、塩素、その他の多数の有害な物質を発生させ、これらがばいじん、廃ガスあるいは漏出ガスとして局地的な大気汚染問題の原因となった。
 第3に、モータリゼーションの進行がある。わが国における自動車台数の伸びは目ざましいものがあり、40年に630万台であったものが、45年には、1,900万台と約3倍に急増している。これに伴い、自動車から排出される一酸化炭素、窒素酸化物、炭化水素等の自動車排出ガスの量は尨大なものとなっており、今日わが国の大都市における大気汚染の有力な原因となっている。
 その他の要因として、人口や産業の都市集中、わが国の国土面積の狭さなどもあげられるが、さらに、従来の大気汚染防止対策、土地利用対策の立遅れなど行政における環境問題への配慮が十分でなかったことも、今日における大気汚染の大きな原因となった。

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