前のページ 次のページ

第2節 

2 企業における公害防除の推移

 企業の公害防除の第一の側面は、公害防止投資の急増である。公害防止投資は、ここ数年急速に増加してきており、全体の設備投資に占める割合も高まってきている。
 通商産業省がこれまでに製造業、鉱業、電気およびガス供給業について行なった調査によれば、調査方法に変更があったため、正確な比較はできないが、公害防止投資は昭和40年の297億円(支払ペース以下同じ。)から昭和45年の1,637億円と5年間に5.5倍に達し、全体の設備投資に占める割合も、昭和40年の3.1%から、昭和45年には5.3%となっており、この比率は昭和46年度には9.1%に達する見込みである。
 このようにわが国の公害防止投資比率は、ここ数年急速に高くなってきており、国際的にみても一応のレベルに達しているものとみられる。公害防止投資の範囲等の相違もあり、厳密な国際比較は困難だが、マグロウヒル社の調査によればアメリカにおける45年の公害関連設備投資比率は、鉄鋼10.3%、紙・パルプ9.3%、石油精製6.0%となっており製造業全体では5.4%(わが国は5.3%)となっている。また、スウェーデン政府の調査によれば、スウェーデンにおいては、昭和45年には、鉄鋼、化学がともに6.3%、紙・パルプ5.1%、非鉄金属5.4%となっている。
 公害防除の第二の側面は、過密地域からの工場の移転である。
 全国を8つに分けたブロックごとの最近5ヵ年間の工場の立地動向を立地件数の全国に対する構成比によってみれば、最大の過密地帯を擁する関東甲信越地域が比率としてここ1〜2年減少傾向を示しており、他方、北海道、東北、四国、九州の各地域においては漸次その比率が上がっていることからみても、すう勢としては、工場の地方分散が徐々に進んでいるといえよう(第3-2-4図)。
 また、工場移転の理由を資本金1億円以上の東京、名古屋および大阪所在の会社について調査した結果は、第3-2-5図にみるごとく、公害問題を理由とするものがわずか1年の間に急速に増加している。
 第3の側面は、いろいろな形で地域社会との協調が進められていることである。
 その一つとして、公害防止協定の締結状況をみれば第3-2-6図にみるとおり、昭和43年ごろから急速に増加してきている。
 協定の内容としては、法に基づく排出基準以上の厳しい基準を遵守し、あるいは低いおう重油を確保するなど使用燃料のいおう分を一定比率以下に抑えることを約すなどの例が多くなってきている。また、最近になって亜硫酸ガスの排出総量を一定水準以下に抑えるなどの新しい内容をもりこんだものがみられることは注目される。
 さらに、企業同士が地域ぐるみで協同して公害防止努力をしている例も多くなってきているが、これも、地域社会との協調に活用しうる一つの方策として注目される。
 鹿島、千葉、川崎、横浜、四日市、境、泉北、水島、大竹、岩国、北九州、大分等のコンビナート地区では、それぞれの地区の企業がグループを構成し、公害防止対策の調査研究、緊急時対策の協議、国および地方公共団体との連絡等を行なっている。
 企業における公害防除の第4の側面は、公害防止のための企業内組織の充実である。
 通商産業省の調べによれば、昭和46年2月現在の資本金5千万円以上の企業の公害防止組織の設置状況は第3-2-7図のとおりである。すなわち環境問題が爆発的に問題になり始めたここ1〜2年の間に公害防止組織の整備は急速に進み、いわゆる公害型産業における公害防止組織の設置割合は非公害型産業に比べて明らかに高いことがうかがえる。しかしながら全産業ではまだ約40%ほどであり、中小企業も加えるとそれ以下になることが予想されたので、企業内の公害防止組織の整備を推進するとともに、その機能を強化するため、昭和46年6月に「特定工場における公害防止組織の整備に関する法律」が制定され、一定の規模以上の特定工場においては、特定の資格を有する公害防止管理者等を中心とする組織を整備しなければならないことになった。

前のページ 次のページ