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第2節 

1 企業の意識の変化

 環境保全対策を有効に実施していくためには、国および地方公共団体が進める各種の規制、取締り、整備事業その他の多角的な施策展開だけでなく発生源自体が、単に規制の対象としてその強制に従うという受動的な立場にとどまらないで、自ら積極的に公害防除努力に乗り出し、より実効のある防除方法へとたゆみなく前進する姿勢をもっているかどうかに負うところが大である。
 まず、企業の意識はどう変ってきただろうか。環境問題が顕在化する以前においては、企業にとってその責務とされるのは、消費者の要求にいかにこたえるかということでしかなかった。
 つまり、市場における商品の取引という場においてその商品に対する量的充足、低廉化、良質化といった要請ににこたえることがその内容であった。
 そのような時期においては、その生産活動の“場”である地域社会との関係は、地域社会側にとって企業は雇用機会の提供者であり、また地方税を通じて地方財政の収入源でもあり、したがって、企業は地域社会にとり心強い地域経済の牽引車という存在でっあった。このような段階では、企業は地域社会との関係において企業責任を問われることなく、企業の眼はもっぱら市場にむけられていればよかった。
 しかし、産業活動の量的質的な拡大とともに、そのもたらす環境汚染が甚大な被害をもたらすに至ったとき、地域社会にとって企業は一転して加害者の立場にたつこととなった。企業は商品取引のみならず、自らの活動の場において環境汚染の防止に努めることが企業責任として要求されるようになった。
 このような客観的な情勢の変化に対して企業の意識の転換が急速に進んできたのは、比較的最近のことであるといわざるを得ない。すなわち、昭和40年前後における企業の公害に対する考え方は、公害対策基本法の制定にあたって、産業界が「公害についての充分な科学的解明が行なわれておらず、基本的な考え方も確立されていない現状では、公害対策基本法の制定は時期尚早」と主張していたことにもみられるように、一般的には消極的であった。
 しかし、公害問題の深刻化に伴い、住民運動の活発化による立地難や、地方公共団体からの厳しい公害防止努力の要求などがみられるようになり、環境問題に対する企業意識は根本的に切り換えざるを得なくなってきた。最近における企業意識を端的に示すものは、第3-2-1図に示した意識調査の結果である。
 これによると、自主的に公害防除対策を講じようとしている企業は全体の75%に達しており、今日では、一般的には企業の公害防止意識はかなり改善されてきたといえよう。
 しかし、現実には、まだ公害問題に対する対応の仕方には、十分といえない企業もあり、たとえば、公害の発生源を有する中小企業の状況をみると、第3-2-2-図にみられるように、対策を講じ効果をあげているものが増加しているものの、公害問題の表面化比率は高まってきており、その中でまだ対策を講じていないものが、昭和45年から昭和46年の1年間に2%から14%と大きく増加している結果も報告されている。

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