前のページ 次のページ

第3節 

3 レジャー活動による環境破壊

 余暇時間の増大と所得の上昇を背景に、国民のレジャー活動は飛躍的に増大している。家計支出のうち旅行費、運動用品、カメラ等の教養娯楽用品費、外食費等のレジャー関連支出の割合は40年19.2%、45年22.7%と高まってきている。
 また、所得階層別にみると所得水準が高い程、余暇活動は多様化しその内容も「ごろ寝などの休息」といった消極的な余暇活動が減少して、「旅行、スポーツ」等の積極的な余暇活動を行なう傾向がある。
 とくに近時の旅行者の増加はいちじるしい。日本観光協会の調査によれば、45年には18歳以上の者のうち54%が旅行しており、とくに学生は74%に達している。その内容をみても、?自動車を使うものがふえていること、?「自然風景をみる」、「名所・旧跡をたずねる」ものがふえてきている。
 このように、国民は次第に美しい自然の鑑賞、レクリエーションの場をもとめて、よりひんぱんにより広範に自然の中に入り込もうとしている。しかし、こうした観光客の増加に伴い、観光開発の激化もあって、その自然環境が損われるという事態が急激に発生してきている。
 その第1は、景勝地の湖では観光客の受入施設の増大等により湖水の汚濁、透明度の低下等の汚染が進行していることである。たとえば、箱根の芦の湖の透明度の変化をみると、昭和の初めには13mもあったものが最近では5m前後に低下している。
 第2は、自動車道路の建設およびその上を走行する自動車の排出ガスの影響である。レジャー活動の活発化に伴い、観光道路が各地に建設されてきており、容易に自然の中に入り込むことができるようになったが、一方では自動車道路の建設が自然のバランスをくずし、排出ガス等が樹木の生育を阻害する例もみられる。たとえば、富士のスバルラインでは、それまで密生林を形成していた沿道のオオシラビソ、コメツガなどが大量に枯死しており、石鎚などでも沿道の植生が破壊されている。
 また、46年7月の長野県の上高地のTホテル前で行なわれた大気汚染状況の調査によれば、自動車の排出ガスから主として排出される一酸化炭素の濃度は2.8ppmを示しており、観光地でも自動車排出ガスによる汚染が進行していることを物語っている。
 第3は、観光客自身のてによる自然の破壊である。採取を禁止されている貴重な高山植物の盗採は以前から非難をあびてきた。さらに最近では森林レクリエーションの増加に伴って林木の損傷等の事故がいちじるしく増加している。林野庁の調査によれば、国有林野では46年には植物、岩石の盗採、盗掘約2万件をはじめとして、林木の損傷(4,900件)などの事故が生じている。これには林道網の整備によって、自動車による入込みが容易になったことも影響している。
 また、観光客が廃棄するごみによっても自然環境の破壊はもたらされている。ちなみに、富士山に登山者が落したごみは、36年から46年の10年間に853トン(山小屋近辺のものを除く。)にのぼり、山小屋業者が処理するものを含めれば、年間1,000万円もの費用がごみ処理のために使われているものと推測される。
 今後、自然を求める国民の欲求は、ますます増大するものとみられるが、その充足と、環境破壊の防止との調整がさらにむずかしい問題となってくるとともに、健全な森林の育成等による良好な自然環境の形成の必要性が高まってこよう。

前のページ 次のページ