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第1節 

2 盛り上がる住民意識

 こうした急激に進行する環境汚染の脅威に対して住民の反応も爆発的になってきている。
 住民から地方公共団体に寄せられた公害に係る苦情、陳情の件数の推移を都道府県ごとにみてみると第1-1-6図のように、41年度と45年度を比べてみると、全体的にその件数が増加してきており、総件数ではこの間に約2万件から約6万3千件へと3倍強の増加になっていることがわかる。また、都道府県別にみても、45年度にはほぼ全国にわたって、100件以上の苦情を受けるようになっており、1,000件以上の苦情を受け付けた都道府県も41年度には5県しかなかったものが、45年度には15県にふえている。住民が公害によって迷惑を受けていると感じている度合いが急速に高まっていることがうかがわれよう。
 環境によって迷惑を被っていても、積極的に苦情という形で行動を起こさなかった人もまた数多い。たとえば第1-1-1表は、経済企画庁が昭和46年8〜9月東京、静岡、四日市、山形(余目町)の住民を対象として実施した世論調査の結果である。
 この表で東京は工場事業場や自動車の影響がいちじるしい代表的な公害発生地域、静岡は平均的な地域、四日市は工場の影響が中心で公害が発生している地域、山形県は余目町は公害がいちじるしくない地域という一応の基準に従って選定されたものである。この結果をみると、まず第1の特徴として、これらの地域を通じて、公害によって迷惑を受けた人が全くないという地域はないということがあげられる。東京や四日市においては、公害で迷惑を受けている度合いがかなり高いということは、世論調査の結果をまつまでもなく予想されるところであるが、静かな農村地帯であるはずの山形県余目町においてすら、何らかの形で迷惑を受けている者が半数以上もいるということは、環境汚染に対する認識がいかに広範に及んでいるかを示すものであろう。
 第2の特色は、地域別に、公害の種類によって迷惑を受けている度合いが違うことである。騒音についてはいずれの地域でもかなり多くの人が迷惑を受けているが、大気汚染については東京や四日市において迷惑を受ける人が多くなっている。
 第3の特徴は、住民の周辺の自然環境が悪化していると答えた者がいずれの地域でもかなり多数にのぼっていることである。東京や四日市においては、7割近くが悪化していると感じており、自然がまだ豊富に残っていると予想される山形県においても3割以上の人が住居の周辺の自然環境の悪化がみられるとしている。
 こうした結果、最近では住民組織を作って積極的にこれに対処しようという動きも全国的に目立ってきている。自治省の調べでは、昭和45年7月現在で全国で292団体が報告されているが、46年10月には、それが673団体へと急増している。
 以上のような住民意識の盛り上がりは、一般住民の身近に環境汚染の影響が生ずるようになったうえに、地域社会の環境を良好なものにしていくためには、自主的な行動が必要であるという意識が高まったことの反映とみることができよう。

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