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第2節 

4 通商産業省

 環境汚染を改善し、または、事前に防止するためには、公害防止技術の研究開発が不可欠の要件である。
 このため、通商産業省は、工業技術院において、大型プロジェクト制度による脱硫技術の研究開発を行なうほか、さん下11試験研究所において大気汚染防止技術、水質汚濁防止技術、騒音振動防止技術、プラスチック廃棄物処理技術等広範囲にわたる公害防止に関する研究開発を重点的に取り上げ、鋭意その推進を図っている。これらの研究を進めるにあたっては、OECDの環境関係の委員会や天然資源の開発利用に関する日米会議等に積極的に参加し、研究の国際的な連けいを図っている。
 なお、民間企業、公設試験研究機関における技術開発を促進するための補助金制度においても公害防止技術を重要研究課題として取り上げることとしている。
 また、測定・分析法の確立、機器の品質向上のため、標準化を進めることがきわめて需要であるという見地から、産業公害関係の日本工業規格(JIS)の制定等を重点項目としてその推進を図っている。
 このほか、45年7月資源技術試験所を「公害資源研究所」に発展的に改組し、公害防止技術研究部門を拡充して、各種手法を組合わせた総合化研究を行なうなど、工業技術院における公害防止技術研究の中核機関とするとともに、工業技術院さん下の試験研究所間の連絡調整を緊密に行なうため、45年4月に産業公害研究推進会議を設置し、各試験研究所の特性を生かしつつ、1つの研究所と同じような機能を持たせて、研究を総合的計画的に推進することとしている。
(1) 大気汚染防止技術の研究開発
 工業技術院において、大型プロジェクト制度により、重油直接脱硫技術の研究開発(排煙脱硫技術の研究開発については昭和44年度に終了)を進めるとともに、さん下試験研究所において、自動車排出ガス防止技術、自動車用燃料電池および新型蓄電池の開発、工場ばい煙の拡散研究、公害計測法(悪臭を含む)の研究を次のように行なった。
ア 脱硫技術(大型プロジェクト)
 脱硫技術には、重油燃焼後の排煙からいおう酸化物を除去する排煙脱硫技術と、あらかじめ重油に含まれるいおう分を除去する重油直接脱硫技術とがある。
 排煙脱硫は火力発電所等のように重油を大量に消費するところに適しているが、このための装置はかなり大がかりになるため、一般の工場および事業所等では、むしろ製油所で事前に脱硫された重油を使用する方が経済的に有利である。したがって、いおう酸化物による大気汚染を効果的に防止するためには、排煙および重油の両脱硫技術を開発確立する必要があり、このため工業技術院においては、大型プロジェクト制度により、大規模な試験プラントを設置してこれら両技術の研究開発を進めている。
 このうち排煙脱硫技術については、41年度から活性炭法および活性酸化マンガン法の2方法の研究開発に着手し、44年度をもって実装置の設計、製作、運転に必要な基礎データの取得という所期の成果をおさめて同制度による研究開発を終了した。電力業界等関連業界は、その後本研究開発の成果をもとに連続運転の信頼性の確認および運転の自動化等のための追加研究を実施していたが、45年中に終了し、47年には実用規模に近い設備を稼動すべく建設に着手している。
 重油直接脱硫技術は、42年度から研究開発に着手し、44年度までその第1段階である触媒の研究開発を行なって計画どおり性能の優れた触媒の製法を確立した。また44年度には、その第2段階であるエンジニアリングの研究開発に移行し、このため500バーレル/日のテストプラントの建設を45年秋に完了し、46年末まで運転研究を行なって実装置の設計製作、運転に必要な基礎データを得ることとしている。
イ 自動車排出ガス防止技術
 自動車排出ガス中の有害成分を防止するための研究開発については、機械試験所、公害資源研究所、大阪工業技術試験所の開発研究部門において、長期的な規制計画に対処するよう研究目標を定め研究を行なっている。
 機械試験所においては、公害防止のための新型内燃機関の開発のため、燃焼室の壁面温度、室内における渦流、燃料の多重噴射等による燃焼経過の制御方法についての研究を行なった。
 公害資源研究所においては、排出ガスのサンプリング法、低濃度の炭化水素・窒素酸化物等の分析方法、触媒式排気ガス浄化装置、燃料の無鉛化に伴う適正燃料組成の研究等を行なった。
 また、昨年度設置を完了したスモッグチャンバーにより炭化水素と窒素酸化物の混合ガスおよび自動車排気ガスによる光化学反応の研究を機械試験所、公害資源研究所の協力により行なった。
 大阪工業技術試験所においては、自動車排出ガスによる大気汚染防止の抜本的な対策である電気自動車の動力として使用する燃料電池および新型高性能蓄電池の開発を進めているが、燃料電池については、昨年度までに行なった出力500wの電池による運転研究の成果をもとに、出力1kwの電池を試作した。
ウ 風洞による工場ばい煙等の拡散研究
 公害資源研究所では、公害の未然防止のため、大気汚染を事前に予測する手法として、風洞を使用した現地模型による工場ばい煙の拡散の研究を行なうほか、現地における乱流構造の研究、シミュレーションモデルの開発等を行なっている。また、45年度においては産業公害総合事前調査の一環として8地区について実験を行ないその成果は通商産業省による民間企業に対する公害の未然防止のための行政指導に利用されている。
エ 公害計測法の研究
 公害資源研究所において、亜硫酸ガス、一酸化炭素、窒素酸化物、硫酸ミスト等の計測技術、ばいじんの物理・化学的性状計測技術、悪臭成分の計測技術、悪臭防止技術等の研究を進めている。
(2) 水質汚濁防止技術の研究
 水質汚濁防止技術については、石油・石油化学排水、パルプ排水、重金属含有排水および染色排水等をおもな対象として処理技術の研究開発を行なうとともにその適用範囲の拡大および処理の高度化を図るため、これらの処理技術の基礎となる微生物による処理技術、各種物理化学的処理技術、産業排水の自動管理技術のほか水質汚濁の未然防止の見地から工場排水の拡散等の研究をさらに推進した。
 微生物工業技術研究所においては、各種産業排水のメタン発酵法、活性汚泥法等の微生物による処理技術の研究を行なってきており、その成果は多くの工場等で実用に移されているが、さらに、処理技術の充実を図るための基礎研究を行なうとともに含油排水、石油化学排水、低濃度有機性排水の処理技術について研究を進めており公害資源研究所においては、染色排水、食品排水等多くの排水処理について技術指導を行なうとともに、微生物学的処理技術と物理化学的処理技術の組合せによる処理技術の総合化の研究、起泡分離法、電気透析法等の新しい物理化学的処理技術の研究、排水処理用の安価で高性能の活性炭の製造技術の研究、重金属含有排水処理の一環として、河川水中の重金属の測定技術の研究等を行なっている。また、北海道工業開発試験所においては、産業排水のオゾン処理技術の研究を行ない、染色排水処理に適用して良好な成果を得た。
 名古屋工業技術試験所では、各種産業排水の自動管理技術の研究を行なってきている。この結果、多くの水質自動分析機器の開発が行なわれ、多くの企業に利用されてきているほか、今年度は新たに石油コンビナート排水等の自動管理技術の研究に着手し、大阪工業技術試験所においては、浮上油分散油の処理技術の研究を行なってきたが、新たに乳化油処理技術の研究に着手した。
 また、東京工業試験所においては、水銀使用工場における水銀の挙動についての研究を行なうとともに、亜硫酸パルプ排液を濃縮燃焼して生ずる焼却滓を原料としてぼう硝を回収する技術の研究、逆しん透圧法の産業排水処理への適用について研究を行なったほか、四国工業技術試験所では、クラフトパルプ排水の微生物学的処理、凝集沈殿処理、吸着処理等の組合わせによる高度処理技術の研究を行なった。このほか九州工業技術試験所においては、鉱山、製錬所排水中の重金属の沈降処理およびフミン酸系吸着体による処理技術と処理工程管理用計測機器の開発について研究を進めるとともに公害資源研究所において、工場排水による港湾等の汚染を予測するための水理模型実験による実験手法の確立の研究を行なうとともに、現地における拡散の研究を行なっている。また45年度には、産業公害総合事前調査の一環として、水理模型実験および現地調査を行ないその成果は、通商産業省による民間企業に対する公害の未然防止のための行政指導に利用されている。
(3) プラスチック廃棄物処理技術の研究
 機械試験所、公害資源研究所、東京工業試験所の協力により研究を行なっており、機械試験所においては、切断、破砕技術の研究、公害資源研究所においては、焼却技術および資源として有効利用するための熱分解技術の研究、東京工業試験所においては熱分解、焼却の際に発生する有害ガスの簡易分析技術の研究をそれぞれ進めた。
(4) 騒音・振動防止技術の研究
 機械試験所において、自動車騒音について吸排気軽減のための基礎研究、騒音が少なく出力効率の高いファンの研究、道路騒音の伝播機構の研究、木工機械について木工かんな盤の騒音軽減の研究を行なった。振動については、地面振動の測定法確立のための研究を行なった。
(5) その他の研究
 科学技術庁特別研究促進調整費により、公害資源研究所において光化学スモッグの測定技術および気相廃棄物の海上移動態様の研究、北海道工業開発試験所においてオゾン処理とその他の処理方法の組合わせによる悪臭防止技術の研究を進めた。
(6) 研究開発のための予算措置
 45年度における大型プロジェクト(脱硫技術)開発費、工業技術院試験研究所における公害防止関連特別研究費は第3-15-7表のとおりである。


(7) 研究開発に対する補助金
 工業技術院の重要技術研究開発費補助金では、「重要技術試験研究課題」として「生活環境向上および保安の確保のための技術」の中に「公害防止技術」を掲げ、補助金額8,700万円の交付を行なった。
 また、中小企業庁の技術改善費補助金については、その交付に当たって「公害防止関連技術の開発」を重点的に取り上げ、補助額1,300万円の交付を行なった。
 また、中小企業に必要でありながら中小企業者自身では開発が困難な技術開発については、都道府県(市)の公設試験研究機関が技術開発事業として、酸性産業排水の処理、有機窒素化合物臭気のオゾン酸化法等の公害防止関連技術の開発を行なっており、45年度は、補助額1,300万円の交付を行なった。
(8) 日本工業規格(JIS)の制定等
 産業公害の防止については、工業標準化の面においてもこれを重点項目として取り上げ、JIS規格の制定、改正とこれに必要な調査研究を積極的に進めている。その結果、すでに各種公害の測定方法、測定機器等について約40のJISが制定され、各種取締法規にも引用されている。
(ア) JIS規格の制定
 45年度中に公害防止の見地から制定された規格は次のとおりである。
 D8004 ディーゼル自動車排気煙濃度測定用反射式スモークメータ
 K0098 排ガス中の一酸化炭素分析方法
 K0502 一酸化炭素(自動車排ガス測定のための校正用ガス)
 K0503 二酸化炭素(自動車排ガス測定のための校正用ガス)
(イ) JIS規格の改正
 45年度中に公害防止の見地から改正された規格は次のとおりである。
 K0103 燃焼排ガス中の全いおう酸化物分析方法
 K2202 自動車ガソリン〔加鉛量の減少〕
 Z8808 煙道排ガス中のばいじん量測定方法
(ウ) 工業標準化調査研究委託
 工業標準原案を作成するにあたっては、科学的基礎データをは握するため、広範な調査研究を行なうことが必要である。
 そのため、45年度においては、44年度に引き続き、公害防止の促進を図る見地から、大気汚染防止のための集じん装置の性能試験方法確立のための委託調査研究を行なった。
 なお、44年度には遠心力と洗浄集じん装置、45年度にはろ過集じん装置と電気集じん装置について調査研究を実施した。
(9) 共同研究、技術指導等
 工業技術院試験研究所においては、試験研究所における特別研究等のほか、民間企業との共同研究、民間企業等に対する技術相談および技術指導を積極的に行なっている。

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