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第2節 

2 厚生省

ア 調査研究の推進
 厚生省においては、各種の行政調査費や公害調査研究委託費をもって、地方公共団体、試験研究機関、大学その他の専門団体等に委託して、大気汚染、水質汚濁、重金属汚染等の原因、その健康や生活環境に及ぼす影響、汚染の集積効果の軽減方策等の問題を中心に公害対策の効果的な推進を図るため、科学的な調査研究を推進し、所要の解明を図ってきている。このうち行政調査費で行なう調査は、厚生省が直接、その調査方法等の企画および実施の指導ならびに調査結果の解析評価にあたっている。
 45年度の公害調査研究予算は第3-15-6表のとおりである。大気汚染防止法に基づく規制地域等の視程を検討するため必要な調査として、地域指定基礎調査(埼玉県草加、蕨地区、香川県坂出地区等の5地域)および特定有害物質発生源調査(アクリルニトリル、ベリリュウム等の5物質)を引き続き実施した。また、同法の特別排出基準の適用対象となる地域についての特別区域指定基礎調査は、福岡県大牟田地区および静岡県富士地区の2地区において実施し、健康被害救済法に基づく、救済の対象となる指定地域の指定等を行なうための健康被害救済地域指定等基礎調査は、尼崎市について実施した。
 大気汚染の人体に及ぼす影響等に関する疫学的な調査は、44年度で完了した学童を対象とした調査研究に引き続き大阪府東大阪市・富田林市、福岡県福岡市・大牟田市、千葉県市原市・佐倉市の6地区において、30才以上の一般市民を対象(各地区500人)にして実施された。
 以上のほか、公害対策基本法に基づく公害防止計画の基本方針の策定に資するため、鹿島、名古屋、尼崎、北九州および大分の5地域における地域概況等調査と環境汚染等調査を実施し、また、既設の国設大気汚染測定網(11か所)および国立衛生試験所直轄大気汚染測定所(3か所)において測定した結果を解析、評価している。
 公害調査研究委託費による調査研究は、当面、緊急に解明を必要とする公害問題について、自然科学・社会科学の分野から行なわれている。
 45年度の調査研究の課題は、合計40課題で、そのおもなものは、「大気汚染による人肺汚染の病理組織学的研究」、「大気汚染管理計画(広域)に関する研究」、「窒素酸化物、炭化水素、オキシダントの測定及び人体影響に関する研究」、「環境汚染と生態系に関する研究」、「特殊騒音の測定方法並びに人体影響に関する研究」、「悪臭公害に関する研究」、「微量重金属(水銀およびカドミウム)による影響に関する研究」等である。
 なお、水銀およびカドミウムによる環境汚染問題の重要性にかんがみ、45年度には、とくに公害調査研究委託費によりこれらの有害金属の発生源の周辺の環境汚染について緊急総点検を実施した。このうちカドミウム関係では、全国55の鉱山・製錬所周辺の環境調査を実施したほか、カドミウム汚染の要観察地域7か所(宮城県鉛川・二迫川流域、群馬県碓氷川・柳瀬川流域、長崎県佐須川・椎根川流域、大分県奥獄川流域、富山県黒部地域、福島県磐梯地域、福岡県大牟田地域)について住民の健康調査および保有米の汚染調査を実施した。
 水銀関係については、水銀(化合物)を使用または生産する工場、鉱山および事業所を対象にその排水およびその周辺水域の水質および泥質中の水銀含有量の調査並びに各地の水域(海域)の水銀濃度を調査した。
 また、水俣病、イタイイタイ病およびいわゆる四日市ぜん息については、これらの治療方法等の研究について、関係県市に公害医療研究補助金により助成を行なった。
 国立公衆衛生院においては、「土壌吸着法による悪臭防止に関する研究」、「騒音の人体影響に関する研究」、「光化学スモッグの発生機構の解明に関する研究」等の研究を実施し、また国立衛生試験所において「オキシダント用小型計測装置の試作開発に関する研究」等を行なった。


イ 公害衛生研究所設置の検討
 厚生省における従来の研究体制としては、附属試験研究機関、大学等のそれぞれの機能の一部を動員することにより対処してきたところであるが、昨今の公害問題の急速な拡大に対し積極的に対策を講ずるうえで、質的にも量的にも高度化、増大化しつつある研究開発の要請に応えてゆくためには、公害問題に焦点をおく高度の研究機関が不可欠なものとなるに至った。このため、厚生省に国立公害衛生研究所(仮称)設立準備委員会を設置し、国立公害衛生研究所設立に際して考慮すべき基本的な事項について検討を行なった。同委員会には、医学、理化学および工学部門の専門家よりなる運営部会を付置し、研究所の性格、組織、機能、研究施設等について調査研究を行なった。同運営部会のこれまでの検討によれば、本研究所は、基礎医学、疫学等の人体影響の解明等を担当する環境医学部門、環境汚染物質の測定方法や技術の開発研究等を担当する環境理化学部門、環境汚染制御システムの開発研究と廃棄物の処理技術の開発研究等を担当する環境制御部門および研究所内外の情報の管理等を担当する管理部門の4部門を研究機能の骨格としている。

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