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第1節 

3 海洋汚染防止法の制定

 本法(昭和45年法律第136号)は、第64回国会において、他の13の公害関係法とともに成立した公害対策の1の準拠法をなすものである。
(1) 制定の趣旨
 本法を制定するに至った第1の理由は、海洋の急速かつ広域的な汚染の進行が、国内的にも重大な問題となりつつあり、早急にその対策を講じなければ、現在および将来にわたる海洋の有効な利用を阻害するばかりでなく、海洋の自然環境の破壊を通じて、人間それ自体の生存環境そのものさえも脅かすおそれがあるためである。
 第2の理由としては、四面海に囲まれた海洋国家として海運、漁業、観光、海洋開発等において、海洋の利用とその恩恵を大いに享受しているわが国が内外に海洋環境の保全と海洋汚染の防止に対する姿勢を明らかにし、これに対する国際的責任を表明せんとするものである。
 第3のねらいとしては、次期通常国会において別途提出を予定している「1954年の油による海水の汚濁の防止のための国際条約を改正する1969年の改正条約」および「油濁事故に対する公海における措置に関する国際条約」の早期批准に備えるため、国内法制の整備を図っておくためである。
(2) 法律の概要
ア 目的
 この法律は、船舶および海洋施設から海洋に油および廃棄物を排出することを規制し、廃油の適正な処理を確保するとともに、海洋の汚染の防除のための措置を定めることにより海洋の汚染を防止し、もって海洋環境の保全に資することを目的としている。
イ 船舶からの油の排出の規制
 船舶からの油の排出に対する規制を改正条約の内容を盛り込んで現行の船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律よりも強化し、原則として、全海域における油の排出を禁止し、一定の条件に適合する場合以外は、いっさい油の排出を認めないこととしたこと、および現行法では、油と認められていなかった100ppm以下の油もこれを規制対象としたことさらに、通用船舶の範囲を従来タンカー150総トン以上、タンカー外500総トン以上であったものを、タンカーについては全船舶を対象とするとともにタンカー外についても総トン数300トン以上のものまで規制対象としたことなど一段ときびしい規制を課することとしている。
 また、油の排出を規制される船舶については、ビルジ排出防止装置を設置しおよび油記録簿を備え付けて、油の排出等に関し記録することを義務づけるほか、タンカーなど一定の船舶については、油の管理の適正化を図るため油濁防止管理者の選任その他油濁防止規程を定めることを新たに義務づけることとしている。
ウ 船舶からの廃棄物の排出の規制
 船舶からの廃棄物の排出を原則として禁止し、政令で定める廃棄物を政令で定める一定の基準に従って行なう排出について例外的に認めることとしている。
 この場合、適正な廃棄物の排出を行なわせるため、廃棄物の排出に常用される船舶については、これを登録制にかからしめ、登録済証の備え付け、登録番号の表示、廃棄物処理記録簿の備え付けなどを義務づけ、規制の実効性を確保することとしている。
エ 海洋施設からの油および廃棄物の排出の規制
 海洋施設についても、船舶と同様に、原則として油または廃棄物の排出を禁止し、政令で定める廃棄物を政令で定める一定の基準に従って行なう排出についてのみ、例外的にこれを認めることとし、その実態をは握する必要上、海洋施設を設置する際には、一定事項を海上保安庁長官に届出させることとしている。
オ 廃油処理事業等
 廃油処理事業等に関し船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律の内容をそのまま引き継いで、必要な監督を行なうとともに廃油処理施設の整備を促進するため、運輸大臣の港湾管理者に対する勧告および国の港湾管理者が行なう廃油処理施設の建設等に対する補助等を規定している。
カ 海洋の汚染の防除のための措置
 大量の油が排出された場合の関係者の通報義務および排出油の防除のため関係者が講じなければならない措置について所要の規定を整備するとともに、必要な場合には、海上保安庁長官がこれらの者に対し、一定の措置をとるべきことを命ずることができるものとしている。
 また、排出された廃棄物等により、海洋が著しく汚染され、海洋環境の保全上緊急に汚染を防止する必要がある場合についても、海上保安庁長官が必要な措置を命ずることができるものとし、これらの場合において、海上保安庁長官がみずから必要な措置をとった場合には、その要した費用の一定範囲のものについて関係者に負担させることができることとしている。
キ その他
 その他廃船に対する規制、海上保安庁長官の海洋汚染状況の監視、関係行政機関の協力、海洋汚染防止のための調査、研究の推進等海洋汚染防止策を総合的に推進するための所要の規定を整備しているほか、この法律の違反については、きびしい罰則規定を設けている。

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