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第1節 

4 鉱山廃水による鉱害の防止

 鉱山および製錬所から排出される坑廃水による鉱害については、坑廃水処理技術の進歩等に伴って、往時のような広域かつ激甚な被害はみられなくなっている。
 しかしながら、近年、カドミウム、水銀等の微量重金属による人の生命、健康に対する被害が一般的に明らかにされ、きわめて重大な問題を提起するに至っていることにかんがみ、被害の未然防止に万全を期する意味において、ここ数年とくに人の健康に係る微量重金属を重点として、坑廃水による流入水域、環境の汚染防止の監督指導のいっそうの強化が図られており、その結果排水の水質はいっそう改善されている。
 また、若干の地域において、浮遊物質、酸性水およびたい積物の流出による汚濁問題が発生したが、実害の発生したものに関しては補償、復旧工事の実施等により解決が図られている。
(1) 監督指導の強化
 金属鉱山の坑水または廃水は、金属、いおう化合物等の各種汚濁成分を含んでおり、これらによる被害の対象としては、農水産物、ダムなどの公共用施設等のほか、近時においては神通川流域におけるイタイイタイ病の例にみられるように、微量重金属による人の生命、健康に対する深刻な問題も提起されている。
 このような事態に対処するため、通商産業省では、鉱山保安法に基づき鉱山保安監督局(部)において行なってきた鉱害防止のための監督検査をさらに拡充強化することとし、分析機器の整備を図るとともに、従来、巡回監督検査の中に含めて実施していた鉱害検査を鉱害検査として分離し、定期的な検査を行なってきた。また、従来から行なってきた坑廃水検査を拡充し鉱廃水広域精密検査として坑廃水処理方法、坑廃水、河川水等の水質および汚濁物質負荷量等に関する詳細な検査を実施し、さらに、ひ素・水銀等特定物質については有害物質鉱山調査を実施して、坑廃水および流入河川の汚染の実態を解明するとともに、これらの結果に基づいて坑廃水の処理および管理についての具体的な監督指導を実施してきた。
 45年度においては、とくにカドミウム関連鉱山に対する監督検査を強化した。
 なお、現在、鉱山保安法に基づき定めている排出基準は、次のとおりである。
 なお、鉱山保安監督局(部)長が水質汚濁に係る環境基準を達成するためとくに必要と認め上記項目についてよりきびしい値を定めた場合はその値とする。


(2) カドミウム関連鉱山に対する監督検査の強化
 カドミウムは、亜鉛鉱石に伴って産出される。そこでカドミウムによる環境汚染防止対策を強化するため亜鉛鉱を産出する鉱山、亜鉛精鉱を処理する製錬所を中心として鉱害防止に関する監督検査を強化することとし、44年度に引き続いて原子吸光分析等による精密な水質調査を実施するとともに、利水地点におけるカドミウム濃度が0.01ppm以下となるよう鉱山に関する具体的指示を行ない、これを実施させてきている。なお、45年度においては、全国の銅、鉛および亜鉛を生産する鉱山および製錬所について精ちな一斉点検を実施した。
(3) 休廃止鉱山鉱害対策
 鉱山においては、事業を休廃止した後においても、継続流出する坑内水およびたい積物の崩かい流出等によって、鉱害問題を引き起こすおそれがある。
 このため、鉱山保安法に基づいて、従来から、休廃止鉱山に対しても検査を実施し、所要の改善策を講じさせてきたところであるが、最近の微量重金属による鉱害問題の深刻化にかんがみ、休廃止鉱山における微量重金属による環境汚染防止に重点をおいた再点検を実施することとし、45年度を初年度として全国的な休廃止鉱山の検査を開始した。
(4) その他
 岩手県松尾鉱山(いおう)は、44年11月経営不振から、採掘規模を縮小し、坑内掘りを放棄したが、これにより、坑内から流出する強酸性廃水を十分に中和処理する経営余力を失ない下流北上川一帯に農漁業被害を生ずるおそれのある事態が生じた。
 このため45年8月仙台鉱山保安監督部は行政代執行により、強酸性廃水が流出する坑口の閉そく工事に着手45年12月末完成した。

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