2 重金属問題の特性
(1) 重金属による汚染のは握
重金属は通常比重4以上、人によっては5以上のものをいっている。4以上では約60元素、5以上では約45元素が存在するが、公害に関してよく問題となる重金属としては、水銀、セレン、鉛、カドミウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ビスマス、鉄等がある。亜金属であるヒ素やアンチモン、軽金属であるバナジウムやベリリウムは重金属ではないが、重金属と同様の対策が必要である。
ところで、金属はもともと地球上にあり、それを人々が堀り起こし、製錬し、加工して生活に活用しているものである。地球皮部の地殻を構成する元素の量を構成比率でみると、たとえば重金属としてよく問題となるものについては鉄4.7%(47,000ppm)、マンガン900ppm、クロム200ppm、亜鉛40ppm、鉛15ppm、ヒ素5ppm、カドミウム0.5ppmあるいは水銀0.2ppmとなっている(理科年表によるクラーク数)。もちろん重金属の分布には濃淡があるが、一般土壌および岩石についての測定値は、おおむねこの比率を示している。したがって、重金属による環境汚染問題が生じた場合どこまでが自然界に存在する重金属によるものであり、どこからが汚染かという問題が生ずる。たとえば金属鉱床のある地域は一般に重金属汚染が問題となっている例が多い。こうした地域では鉱山等の人為的な活動の有無によらず、その地域周辺の動植物の体内に含まれる金属の量が高まる傾向にある。動植物の汚染問題に対処する場合には、重金属を取り扱う事業場からのばい煙や排水中の金属を規制することは当然であるが、そのような自然界に存在する重金属による汚染という要因も考慮して対策を講じなければならない。
(2) 重金属と生物汚染
重金属の中には生物にとって生理上必要不可欠の金属のあることが明らかにされている。たとえば、人にはマンガン、鉄、コバルト、銅、亜鉛等が必要であり、植物にはその他ニッケル、モリブデンなどが必要であるといわれている。つまり、これらの金属は食物や地中や水中に含まれていなければ困るものである。また水銀やヒ素などのように生物にとって不要とされているものもある。いずれにせよ、重金属は多量に摂取されればすべて人体に影響を与えるものである。したがって、健康被害を防止するという見地からは、その重金属が、人体にとって必要であるかどうかという問題とはかかわりなく、まずその量がどの程度であるかというは握が必要である。しかし、一方ある種の生物に重金属が検出されたからといって直ちに人為的な汚染であるとはいえない場合もある。一般に汚染とはある基準となる常態値を著しくこえる場合をいうが、その常態値は生物の種類によって大きく異なっている。たとえば、昆布がヨウ素を濃縮し、ホヤおよびナマコがコバルトおよびバナジウムを濃縮するように、生物の種類による常態値が著しく違う。したがって、重金属による生物の人為的汚染の問題を考える場合には、ある種の生物がある濃度をこえているからといって、その環境にせい息するすべての生物が汚染されているとはいえない。
また、重金属の常態値は、人為的な汚染のないケース、特殊地質地帯でない所での広範な調査に基づき、求められなければならないことになる。