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第4節 

4 水道原水の汚濁

 昭和44年度末の水道統計によると、全国民約79%が水道を利用して生活しているが、その水道水の約70%は河川や湖沼の水に依存している。国民が生命を維持し、日常生活を営むうえに不可欠な水道水は、豊富、安価である必要があるが、何よりもまず、清澄で、衛生上の観点からみても安全な水でなければならない。
 したがって、水質については、水道法上もとくに厳重な規制が加えられており、また、水道水を水源から取水するにあたっては、水質が良好で安定しており、しかも汚染を受けるおそれのない地点が選ばれ、また、水道施設も原水の水質に応じた機能を備えるよう計画され、建設されている。
 しかし、水道水源となっている河川や湖沼の汚濁の進行は著しく、水質汚濁による水道の被害は年々増加している。水道の水質汚濁による被害は、2つに分類される。1つは、汚濁が除々に進行していく場合で、ある段階までは浄水技術の工夫や施設の改良により、住民にまで直接影響を及ぼすような事態は防げるものであり、もう1つは、汚濁・汚染物質が急激に増加した場合で、取水の停止を余儀なくされたり、汚染された水を直接給水するなど、住民に直接的な被害を与えるものである。
 前者のような場合は、いつから被害が起こったかが明らかでなく、緩速ろ過池を急速ろ過池に変更したり、取水地点を上流に移したり、最悪の場合は水源を放棄するという事例が多いにもかかわらず、それは水質汚濁による水道の被害としてとらえられない傾向がみられる。汚濁源が不特定な都市近郊の河川における水道では、とくにその傾向が強い。
 厚生省が行なっている「水質汚濁による水道の被害状況調査」においても、報告された被害の多くは、汚濁・汚染物質の一時的な増加による直接的な被害である。
 この調査によると、44年度に被害を受けた水道は、259件・39都道府県に及んでおり、徐々に進行する水質汚濁によるものも含めると、全国にまたがるものと推測される(第2-2-2図参照)。
 また、最近の傾向では、大都市や大工業地帯の近郊に集中していた被害が地方都市にまで広がっているが、施設の管理状態が十分でなく、水質技術者の不足するこれら中小都市の水道の被害は、深刻な問題になりつつある。
 報告された被害を原因別にみると、44年度においては鉱工業排水によるものが最も多く、次いで都市下水や家畜し尿等汚物、汚水によるもの、土木工事によるものの順になっている(第2-2-15表参照)。その他、砂利採取や砕石あるいは農薬による被害も報告されている。
 被害内容としては、ろ過池の閉そくがひんぱんになったり、あるいは浄水処理に要する薬品の量や種類が増加するなど単に浄水技術上の問題にとどまるものから、沈殿池やろ過池の構造あるいは取水口の位置や構造を変えるなど、施設変更に至るものまである(第2-2-16表参照)。
 また、有毒、有害物質や異臭味物質、着色物質等による突発的な汚染による被害では、取水の制限や停止にとどまらず、給水停止を行なったり、さらには対策がまにあわず異臭味水や着色水を給水するなど、水道を利用する住民が直接被害を受けたものもかなりの数にのぼっており、45年正月早々の東京都、埼玉県等の利根川から取水している水道で発生した「臭い水」事件は記憶に新しいところである。
 また、被害の原因物質別にみると、従来は伝染病の集団発生の要因となる病原菌汚染や、急性毒物による汚染等が注目されていたが、さらに最近では異臭味物質や着色物質等による被害も激増している。浄水処理によっては、これら物質の除去が期待できないこと、また、科学技術の均衡のとれた進歩が図られない場合は、様々の過程でこの種の新しい汚染物質が生み出されるおそれがあることなどを考えると、今後、新しい合成物質による汚染やそれによる被害が大きな問題になっていくことが予想される。
 このように年々悪化する水道原水の汚濁・汚染に対処するため、利根川、淀川、阿武隈川等の水系においては、原水水質の監視のために関係水道で連絡協議会を設けて、相互通報体制を整備している。

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