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第2節 

2 海(港湾を除く)

 近年、海域、とくに内湾や港湾周辺海域等では、工場排水、都市下水、流入河川、船舶から排出される油等によって汚濁が進行している。これらの海水の汚濁は、潮の干満、潮流等によって希釈、拡散されるほかに、海水が本来もっている自浄作用によって一般に浄化されるが、とくに汚濁物質が多量に排出される水域や水の移動が少ない閉じられた海域においては、海水の自浄作用をそこない、汚濁が進行し、水産業被害はもとより、日常の生活環境に悪影響を及ぼすほどに至っている。
(1) 内湾等
 内湾については、一般的には、いまだ、それほど汚濁されていないが、水産業等の被害についての汚濁事件としては握されているものがある。
 海上保安庁が通報等により具体的には握した海洋汚染の発生件数は、第2-2-7表のとおり、45年には440件で、44年の308件に比べ132件・43%と大幅な増加を示している。
 これを原因別にみると、油によるものが349件・79%と大半を占め、地域別では、鉄鋼、石油等の基幹産業が発達し、経済活動の中心となっている東京湾、伊勢湾、大阪湾、瀬戸内海で255件・58%に達しており、この海域に集中しているのが注目される。
 また、特殊な水質汚濁現象として「赤潮」の発生がある。赤潮は、プランクトンが急激に発生して海水を変色させる現象をいうが、これによって、魚介類の大量へい死等をもたらす場合がある。近年の特色として、赤潮がひとたび発生すると、それが相当長期間にわたること、発生海域が広域にわたることがあげられている。
 なお、赤潮発生のメカニズムは、いまだ完全には究明されていないが、海水中の窒素、燐等の栄養塩類濃度、自然条件の諸要因が相互に関連して発生すると考えられている。現実には、東京湾、三河湾、伊勢湾、瀬戸内海等の停滞性水域において多発する傾向があり、?豪雨長雨等により、陸上から多量の水が注ぎ、海水中の栄養塩類濃度が高くなる ?水温が上昇し、生物の新陳代謝が促進される ?無風状態が続き、海水のじょう乱が起こらないというような現象が生じた場合に赤潮が発生している。また、徳山湾をモデル水域とした「内海水域の赤潮に関する総合研究」の報告によれば、湾奥に向う弱い風で水が押し込められ、水温の異なる水の層ができ、上下の混合が悪い状態であって、20〜30mm程度の降雨があり、そのため塩分低下と栄養塩類(主として窒素および燐の塩類)の供給があったときに、赤潮原因生物は停滞水域でまず発生し、急激に増殖しながら沖合に進む。また、赤潮原因生物の1つであるオリソディスカスの場合は、1ml中15,000個程度になると赤潮状態を起こす模様であり、この状態が発生したときの海水中の窒素と燐の濃度比は10〜15:1となっている。
 なお、海水浴場は、その利用の態様からとくに清浄な沿岸海域に開設することが要求されるのであるが、最近、大都市近郊等における海水汚濁の進行に伴い、一部においては、海水浴場としての用途を廃したりあるいは、塩素滅菌、オイルフェンスの設置等の応急措置をとることによって、海水浴場としての機能をようやく保持するところもでてきている。
 昭和45年夏期に、利用者5万人以上の海水浴場265か所について水質の調査を行なった結果は、第2-2-8表のとおりであり、これによれば、CODおよび大腸菌群数に関するかぎり、約3/4の海水浴場が水質汚濁に係る環境基準のうちの海水浴場に関する基準(COD2ppm以下、大腸菌群数1,000MPN/100ml以下)に適合していたこととなる。


(2) その他
 わが国経済の飛躍的発展、国民生活の向上に伴って産業および人の日常生活から生ずる廃棄物は年々増加している。
 従来の海洋汚染は、工場からの排水を除いてほとんどが船舶からの油の排出によるものであったため、船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律により規制を行なってきたが、最近では、産業廃棄物、汚でい、し尿等が年間約1,000万トンも海洋に投棄されているといわれており、これら廃棄物による海洋汚染が新たに深刻な問題となりつつある。

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