前のページ 次のページ

第4節 

2 農林被害

 大気汚染による農作物および森林等の被害は、近年における産業活動の著しい進展に伴い工場の近傍等において発生している。
 農作物等に被害を及ぼす大気中の有害物質としては、二酸化いおう、ふっ化水素およびふんじん等があり、これらが農作物等に対して生育障害、収量の低減、品質低下等の影響を与えている。
 これら有害物質の農作物等に対する被害の態様は、有害物質の種類・濃度および曝露時間、気象条件、作物の種類および生育時期、栽培条件等により一様ではないが、二酸化いおう、ふっ化水素および塩素ガスの場合は主として作物体内に吸収され、葉組織の破壊、生理代謝のかく乱等を起こすのに対し、ばいじん、ふんじんの場合は主として葉面に付着して気孔あるいは水孔を閉鎖し、作物の呼吸作用、同化作用等を阻害する傾向がある。
 また、これら有害物質に対する農作物等の抵抗力については、農作物等の種類、品種、生育時期および栽培条件等により著しく異なる。
 これら有害物質による主たる農作物被害の事例としては次のようなものがある。
(ア) 二酸化いおう
 静岡県富士市、富山県富山市および和歌山県和歌山市において水稲被害が、昭和44年には福島県福島市における桑葉汚染による蚕の中毒死、45年には熊本県水俣市における温州みかんの葉の枯死および落葉等の被害がみられた。
 なお、二酸化いおうによる被害といわれているもののなかには単に二酸化いおうのみでなく、ばいじん、ふんじんあるいはそのほかのガスとの相乗作用による被害が多い。
(イ) ふっ化水素ガス
 福島県喜多方市、長野県大町市のほか愛媛県西条市および新居浜市において水稲被害が、静岡県富士川町、蒲原町および由比町におけるみかんおよび野菜の落葉、生育停止、枯死、41年以来の滋賀県高月町における桑葉汚染による蚕の中毒死等の被害がみられた。
(ウ) 塩素ガス
 福島県いわき市および富山県富山市における水稲被害、44年群馬県渋川市における桑葉の汚染、萎縮、40年以来、宮崎県延岡市における露地野菜の変色、萎縮等の被害がある。
(エ) ばいじん
 44年の和歌山県有田市における果皮の汚染によるみかんの品質低下、山梨県櫛形町における桑の発芽、発育不良等、41年以来問題となっている熊本県田浦町における甘夏柑の果皮の汚染等の被害がある。
(オ) ふんじん、砂じん等
 29年以来の大分県津久見市におけるセメントふんじんによる柑きつの樹木衰弱、静岡県引佐町における29年以来のセメントふんじん、42年以来の砕石ふんじんによるみかん、野菜および花木の生育不良、品質低下、44年の愛知県名古屋市南部臨海工業団地近接地におけるふんじんによる温室、ビニールハウス栽培の野菜の生育不良、露地野菜の商品価値の著しい低下、44年の長野県東村における道路砂じんによる桑葉汚染、繭の小型化等の被害等がある。

前のページ 次のページ