2 高度かつ複雑な汚染が局地的に生じている地域

(1)　富士
　静岡県富士市吉原から蒲原町に至り、北は富士宮市に及ぶ駿河湾に面する富士東南山ろくと富士川の流域は、従来から紙・パルプ、アルミニウム製錬および機械等の産業が立地していたが、昭和38年に工業整備特別地域の指定を受け、田子の浦堀込港湾の建設と工業用水道132万トン/日の設置によって、50年には、紙・パルプ、化学および機械を中心に工業出荷額1兆2,000億円の工業地帯となることが計画されている。当地域はいわゆる太平洋ベルト地帯にあり、しかも東京―名古屋間の重要な位置にあって、既存企業の拡張や新規企業の立地があいつぎ、44年8月のばい煙発生施設総点検時における当地区のいおう酸化物総排出量は1時間当たり最大4,000Nm
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を上回り、重油使用量は1時間当たり最大約200klであった。今後の急速な工業開発に伴って、燃料使用量はさらに大幅に増加するものと予想されている(第2-1-17表参照)。当地区の主風向は、春から夏にかけて南および南西であり、秋から冬にかけては北および北東であるが、地形の特性に起因する気流の影響を受けることが多く、また冬期にも海陸風により昼間に内陸へ吹き込むことがある。さらに冬期における逆転層の出現によって、大気が汚染されることが多い。
　43年9月より開始された10測定点での自動測定の結果を第2-1-18表に示すが、44年度において最高0.075ppmの元吉原中学校をはじめ、環境基準である年平均0.05ppmをこえた測定点は4か所に達しており、環境基準の全条件を満たした測定点は4か所にすぎない。月別にみると5〜9月に最高を示す測定点が多く、南ないし南西風の影響を示している。
　当地区の大気汚染物質は、重油燃焼に伴ういおう酸化物のみならず、紙・パルプ工業の回収黒液大量燃焼(44年8月総点検時で、毎時最大約70kl)に伴ういおう酸化物ならびに芒硝ダストが大きな比重を占めており、とくに芒硝ダストについては、同じクラフト・パルプ工程から発生するメルカプタン類、硫化水素等いおうを含む化合物による悪臭とともに、生活障害、金属類の腐蝕等の苦情が多い。さらに、従来一般的に低かった煙突が高煙突化されるに従って一部汚染が改善されたところもあるが、全般に汚染の広域化がみられる。また蒲原町のアルミニウム製錬工場周辺は、ふっ化物等による農作物被害が長年の問題となっている。

(2)　名古屋南部・衣浦
　中京工業地帯のいっそうの発展として、愛知県では、知多半島の両側に名古屋港地区ならびに衣浦港地区の臨海工業地帯の開発が行なわれており、工業整備特別地域に指定されている東三河地区とともに二大工業基地を形成することが予想されている(第2-1-19表参照)。
　現在大気汚染防止法の指定地域には衣浦港地区は含まれていないが、44年8月のばい煙発生施設総点検時において、名古屋南部・衣浦地区の重油消費量は1時間当たり最大496kl、いおう酸化物総排出量1時間当たり最大1万3,000Nm
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をこえた。
　当地区の風向は、秋から冬にかけて北西であり、夏はあまり一定しない。西寄りの風が臨海部から汚染質を知多半島や内陸部に運ぶことが考えられるが、年間の風向ひん度は東寄りのものが少なく、北〜北西方向が最多であり、大気汚染上不利である。
　大気汚染物質からみると、当地区が鉄鋼・石油化学・電力等を中心とするコンビナートであることから、いおう酸化物以外に、各種金属も問題となろう。いおう酸化物濃度および浮遊ふんじん濃度でみた大気汚染の現状は、第2-1-20表、第2-1-21表および第2-1-22表のとおりである。全般的に工業化・都市化の進展とともに汚染の進行が顕著であり、44年度において港保健所のいおう酸化物濃度の年間平均値は0.056ppm、北保健所の日平均値が0.05ppm以下の日数の割合は63.0%(以上導電率法)と、いずれも環境基準に適合していない。当地区のいおう酸化物濃度を二酸化鉛法による測定値でみると、名古屋港奥の名古屋市南区(44年平均値4.05mg・SO3/100cm2/日)、同港区(同3.96mg・SO3/100cm2/日)、東海市上野町(同3.03mg・SO3/100cm2/日)が高濃度であり、かなり汚染されていることがわかる。また衣浦港の奥にあたる高浜町や刈谷市も44年平均値2mg・SO3/100cm2/日をこえており、既設の工場等による汚染と考えられる。

(3)　四日市
　四日市地域の大気汚染は、四日市市塩浜地区の石油化学コンビナートが本格的に稼動を開始した35年頃より、いわゆる「四日市ぜんそく」などの被害が訴えられるようになり、同市午起地区に第2コンビナートが稼動を開始した38年頃から被害はますます拡大し、大きな社会問題となった。
　当地域の大気汚染上問題となる気象条件は、冬季(11〜3月)の北から北西にかけての卓越風(おおむね60%以上)および夏季(5〜9月)の南から南東にかけての卓越風(おおむね30%前後)であり、概して冬季は同市磯津地区ならびに楠町の一部、夏季は内陸部の市内一円が汚染をうける。とくにいおう酸化物については、一部測定点ではかなりの改善がみられた。すなわち、従来最も高い汚染が出現した磯津の測定点においては、42年度の平均値が0.081ppmであったのが、44年度では0.051ppmとなり、高濃度の出現ひん度も大幅に改善されている。しかしながら、従来比較的低濃度であった地点の三浜小学校窯業試験所、南中学校の測定点の濃度が高まっており、高濃度の出現度数が多く(第2-1-23表参照)、汚染の広域化およびピーク汚染型から平均的に汚染が続く型へと汚染のパターンが変化する傾向がみられる。今後、霞ヶ浦で第3コンビナートの本格稼動による汚染負荷の増大も見込まれており、当地域の大気汚染はなお大幅に改善されなければならない状態にあるといえる。
　また、四日市の大気汚染は、重油燃焼に伴ういおう酸化物、石油精製、石油化学の操業による各種の炭化水素、メルカプタン、その他の悪臭刺激物質、さらに酸化チタン製造に伴う硫酸ミストなどによる複合汚染であることが1つの特色である。浮遊ふんじんについては、44年におけるハイボリウム・エアサンプラによる測定結果を第2-1-24表に示すとおりである。年平均値をみると南中学校は309μg/Nm3で最も高く、磯津246μg/Nm3、四日市保健所239μg/Nm3、三浜小学校220μg/Nm3の順となっている。

(4)　北九州・大牟田
　北九州市の降下ばいじん量は、35年ごろより年々減少の傾向を示し、41年ごろより横ばいの状況にあったが、最近ふたたび部分的に増加の兆候をみせはじめている。地域的には八幡、戸畑および若松地区に降下ばいじん量が多い。とくに工場地帯に囲まれた八幡の城山地区では44年に最高84.0トン、最低29.3トン、平均55.8トンの高い値を示した(第2-1-8図参照)。
　いおう酸化物の濃度は年々増加の傾向にあり、43年度にはとくに高濃度の出現が増加した。第2-1-25表に示すとおり、44年度には若松保健所が環境基準に適合しなかった。しかし44年度には高濃度汚染の出現ひん度は低下している(第2-1-9図参照)。
　大牟田市の降下ばいじん量は、平均して37、8年ごろの約30トンをピークとして44年には21.7トンに減少しているが、工業地域は32.7トンと依然として高い。また、いおう酸化物濃度については43年度に比較して全般的に汚染が進行しており、平均でみると44年度には、三池工高で0.057ppm、市役所で0.052ppm、三川支所で0.051ppmを示しいずれも環境基準に適合していない。44年11月における北九州および大牟田地域の浮遊ふんじんは第2-1-26表に示すとおりであるが、両地域とも銅、鉛、カドミウムなどの重金属が局地的に高濃度を示していることに注目しなければならない。
　なお、厚生省は大牟田地域を46年1月30日に「カドミウム環境汚染要観察地域」として、環境汚染対策、保健対策等を総合的に講ずることとした。