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第3節 

3 大規模工業開発が進行中で汚染が問題化しつつある地域

(1) 苫小牧
 道央新産業都市の中核として発展の途上にある苫小牧市は、市街地中央部にある製紙工場に加えて苫小牧港を中心とする臨海工業開発地域における企業進出にめざましいものがある。製紙工場の周辺地域に汚染の著しい地区がみられ北寄りの風のとき高濃度を示す。全市では非暖房期に低く暖房期に高い。なお、将来工場の進出に伴い汚染が著しくなる可能性をもっているので未然防止対策を講じている。
(2) 鹿島
 茨城県鹿島地区は、鹿島灘、利根川、北浦にはさまれた南東から北西へ約30kmにわたって細長く展開する広大な土地をもち、豊富な水と、東京から80kmという恵まれた立地条件のもとに、20万トン級タンカーの入港可能な日本最大の堀込港湾を中心とした工業都市開発が開始されている。「工業整備特別地域」に指定され、現在、鉄鋼、電力、石油精製、石油化学、化学等30企業の進出が決定しており、すでに一部操業を開始している。


 茨城県の開発計画は第2-1-30表に示すとおりである。
 他方、都市開発は、既存農耕地、山林、農業集落地帯に人口30万人の都市を建設することを目的として計画されているが、当地区が大規模装置工業を中心としたものであるため、大気汚染による被害が懸念された。このため、当地区は公害事前予防のモデルケースとして、厚生省、通商産業省、茨城県による数次の調査、企業指導が行なわれてきた。
 鹿島地区の風向について問題となるのは海上から内陸へ吹き込む場合であるが、当地区の風向を鹿島港湾調査事務所において観測した結果によれば、春は北北西から南東までの内陸に吹き込む風は60%程度、夏季は季節風が南南西で海へ抜ける風であるが、内陸へ吹き込む風もやや多く50%程度、秋には北東を中心とした風向が最も多い時期で、内陸へ吹き込む風は日中の海風を中心として40%あまりとなっている。静穏の出現は夏季、とりわけ夜間に集中して出現する。また、梅雨期から夏季にかけて、海霧性もしくは梅雨前線に伴う霧が鹿島灘沿岸から数kmの奥地まで侵入することがあるので、その場合の汚染に留意する必要がある。さらに大気拡散に大きな影響を及ぼす要素として、鹿島灘、霞ヶ浦の影響による上昇、下降気流が考えられ、42、43年の調査では、上空500〜700mから地上の間に速度毎秒2〜3mの上昇、下降気流があると観測されている。42年10月に実施された大気拡散実験によれば、エア・トレーサーの拡散パターンや気温鉛直分布のデータが、気層の非常な不安定さを示している。とりわけ北方起源の風は、海水面によって下から暖められ、気層が不安定となるため、年間最多風向である北北東および北東風による比較的近距離の汚染について注意する必要がある。
 当地域の大気汚染は、鹿島臨海工業地帯建設事務所における45年度のいおう酸化物年平均濃度0.02ppmとまだ進行していないが、今後立地企業の全面操業の開始をひかえており、52年におけるいおう酸化物の総排出量は、482,000トンにおよぶことが想定されているので、予防的見地から、監視体制の整備をも含め、強力な対策を進めることが必要であろう。


(3) 千葉・市原・君津
 千葉県の浦安から富津に至る京葉臨海工業地帯は、昭和25年に鉄鋼の大メーカーが立地して以来、逐次南部へと開発が進み、電力、石油、精製、石油化学等の重化学工業およびそれらの関連産業があいついで立地し、45年現在、五井、姉ヶ崎地区の海岸埋立による土地造成はほぼ完成し、進出企業の大部分はすでに操業を開始している。
 一方君津地区については、すでに鉄鋼一貫製鉄所が操業しており、引き続きコンビナート構想が検討されている。
 千葉県の工業統計調査によれば、県下の重化学工業の生産額は35年の1,120億円から40年には4,800億円と4.3倍に増大し、44年には1兆3,400億円へと増大した。さらに、50年には2兆3,800億円、60年には7兆円、全国シエアが5.4%の世界最大級の工業地帯となることが予想されている。
 現在、日本経済の年率10%をこえる高度成長の中で、当地区も当初の予想をこえたテンポで生産設備の建設が進んでおり、いおう酸化物総排出量は、44年8月のばい煙発生施設総点検時において1時間当たり最大1万6,000Nm
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を上回り、重油使用量は毎時最大約1,380klに達する。最近の調査によれば、当地区の重油使用量は48年に毎時約2,300kl、最終(50〜55年)に毎時約4,100klと予想されている。上述の総点検時における横浜・川崎地区の工場の重油使用量が、毎時最大約960kl、同じく北九州地区が約695klであることからみても千葉臨海工業地帯のスケールの大きさが想像できる。したがって大気汚染による公害を未然に防止するための立地指導、施設改善も再三行なわれており、燃料・原料の低いおう化、集合高煙突化、集じん装置・排煙脱硫装置の設置が進んでいる。
 当地区の主風向は夏には南西ないし南南西となり、千葉市方面へ線状的なコンビナートに沿って汚染質が運ばれ、重合汚染となる場合があり、また冬には、北西ないし北北西の風が臨海コンビナートからの汚染質を市原市や袖ヶ浦町内陸部へと運ぶ場合や静穏時の気温の逆転によって汚染される場合がある。
 当地区の大気汚染の状況を経年的にみると、まずいおう酸化物(二酸化鉛法)については第2-1-33表に示すようにほぼ横ばいないしは若干の増加傾向がみられるが、導電率法による環境基準の適合状況をみると、42年にはこの地域は7地点(指定地域全域では8地点)で環境基準に不適合であり、中でも川岸火の見のように全項目不適合の地点もあったが、国、県等の指導に基づく各企業の防止対策の強化に伴い改善され、43年には不適合2地点、44年には1地点と改善の方向にある。降下ばいじんは、ほぼ横ばいの状態にある(第2-1-34表参照)。さらに、この地域の浮遊ふんじんの状況を第2-1-35表に示すが、これによれば、市原市五井の2測定点におけるふんじんの濃度は、当地域の公害防止計画の目標値(昭和50年までに達成)である150μg/m3をこえている。
 なお、君津地区には、大規模な製鉄工場が進出しているが、現在のところいおう酸化物、降下ばいじんともに格別の汚染を示していない。今後、この地区の汚染状況の推移を見まもる必要があろう。


(4) 水島
 瀬戸内海のほぼ中央に位置する岡山県倉敷市の水島臨海工業地帯は、輸送の便に恵まれ、また高梁川の豊富な水という有利な条件のもとで、昭和28年以降開発が進められており、現在、鉄鋼、石油化学、電力、機械等の大規模工業が立地している(第2-1-36表参照)。44年8月のばい煙発生施設総点検時において、当地区のいおう酸化物排出量は、1時間当たり最大6,000Nm3をこえた。
 水島地区の風向をみると、冬期を除いて、南〜南西の海風と北〜北東の陸風とが卓越しており、このうち大気汚染上からは南〜南西の海風が問題となり、とくに5、6、7月には海陸風に伴う高濃度の汚染状態となることが多い。
 水島地区のいおう酸化物濃度を第2-1-37表に示した。一部の測定点では高濃度(0.2ppm以上)となる時間が42年をピークとして漸減しているが、全般的にみると工業開発の進展とともに、汚染の進行がみられる。44年度における10か所の測定点についてみると最高が宇野津および塩生の0.051ppmであり、次いで水島港湾局0.050ppm、第三福田小学校0.046ppm、第二福田小学校0.035ppmとなっており、これら5測定点は、環境基準のいずれかの項目に不適合となっている。しかし、45年度においては、1測定点において1項目がわずかに適合値を下まわったのみで大いに改善されるにいたった。これは、高煙突、低いおう化対策等の進展によるものと思われる。当地区は、なお大幅の生産拡大を予定しており、それに対する予防的対策が今後も重要であるといえよう。


(5) 大分
 別府湾に面し、大分川、大野川の豊富な水を得ることのできる当地区は、昭和31年以来企業誘致を行ない、現在までに鉄鋼、電力、石油精製、石油化学等主要企業で15社が立地し、水島と並ぶ新産業都市の代表選手となっている。臨海部の土地造成も44年3月末で約870haを完了し、最終規模で1〜8号地約2,200haを予定している。水島、千葉等に比べてスタートが遅れたが、後発の6〜8号埋立地には機械、石油化学等も計画されている(第2-1-38表参照)。
 当地域の風向は冬季は、北西系統の風が多く、夏季は、北東系統の風が多く、次いで北西系統の風が多い。
 昼間と夜間では、風向が異なり、夜間は南系統の風(陸風)が卓越し、昼間は北東系統の風(海風)が吹いている。これがこの地域の海陸風である。この海陸風の交替時期は、夏季は、午前6時ごろと午後7時ごろ、冬季は、午前9時ごろと午後5時〜6時ごろで、春秋は、中間となっている。
 海風は、午前中には、北〜北東風であるが、午後にはやや東に回わって北東〜東北東の風に変わり、海岸線にかなり平行に吹くことがある。冬季は北西風が多い(第2-1-14図参照)。
 風速については、海風は、約2〜5m/秒であり、陸風は約1〜3m/秒であるが、冬季の北西系統の風は平均5m/秒あり、10m/秒以上吹くことも多い。
 当地域のいおう酸化物は佐賀関地域を除いて環境基準に適合しておりいまだ汚染はあまり進行していないが今後の企業操業の本格的開始がひかえているので、予防的見地からの対策に力を注ぐことが必要であろう。
 第2-1-15図に示すように、降下ばいじんは、現況ではとくに問題はないが、今後大規模製鉄企業およびその関連企業の操業開始により多量のふんじん発生が予想されるので、その防止対策に万全の措置を講じている。

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