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第3節 低いおう化対策の推進

 昭和44年2月、いおう酸化物に係る環境基準が設定され、いおう酸化物発生の大きな原因となっている燃料について、その低いおう化を急速かつ計画的に推進することが必要となった。このため、通商産業大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会は低いおう化対策部会を設け、燃料の低いおう化対策について審議を行ない、44年12月に報告書をとりまとめた。その概要は以下に述べるとおりであるが、今後はこのような低いおう化対策を強力に推進していく必要がある。まず、環境基準を達成維持するという見地から、低いおう化の目標が設定されている(第3-4-3表参照)。これをみると、過密地域(過度の人口集中または無秩序な工業立地等によって、現在、大気の汚染度が著しく環境基準をこえている地域)および既汚染地域(過密地域以外の地域であって、かつ、現在大気の汚染度がすでに環境基準をこえている地域)においては、燃料需要量の増大と汚染度の引き下げという要因によって、燃料の急速な低いおう化が図られねばならない。また、事前予防地域(燃料の低いおう化が行なわれないとすれば、将来、汚染度が環境基準をこえるおそれがあるので事前予防を必要とする地域)にはいる地域は逐次増加するものとみられている。この結果、要対策地域(以上の3類型の地域全体)では、燃料の需要量が、42年度の3,600万klから、48年度には9,360万klに、そして53年度には15,500万klに増加すると推定されるので、その燃料の平均いおう含有率を、42年度の2.45%から、48年度および53年度にはそれぞれ、1.25%、0.8%に引き下げねばならない。このような燃料を確実に供給するためには、要対策地域以外の地域を含めた鉱工業、民生その他部門向けの燃料の平均いおう含有率を、42年度の2.5%から、48年度には1.55%に、53年度には1.15%に引き下げる必要がある。
 以上のような燃料の低いおう化を実現する手段としては、原油の低いおう化、重油脱硫、原油生だき、排煙脱硫等があるが、それぞれの手段の経済性と実現可能性とを考慮しつつ、その推進を図る必要がある。
 第1の手段は原油の低いおう化である。これは、経済的にもすぐれており、副産物問題も生じないので最も望ましい手段である。輸入原油の平均いおう含有率は、40年度の2.04%から43年度には1.82%になっており、これまでも低いおう化がおこなわれているが、今後は原油の低いおう化、ことに低いおう原油の輸入増大を図る必要がある。このためには、東南アジアおよび中東地域からの低いおう原油の輸入を増大するほか、西アフリカ原油などの輸入に努めるべきである。しかし、これら低いおう原油の輸入量には限度があり、現状では、原油の平均いおう含有率を、48年度に1.5%程度まで引き下げうるものとみられる。
 第2は原油脱硫である。脱硫コストが高いのが難点であり、副産物の処理にも問題がある。しかし、原油の低いおう化や原油の生だきにはそれぞれ限界があり、乾式法の排煙脱硫も今すぐ実用化はできないので、重油脱硫は外国からの技術導入により、重要な低いおう化手段としてその推進が図られている。
 すなわち、43年度末における脱硫装置の能力は、10万5,000バーレル/日であったが、44年度には8基の脱硫装置が稼動にはいった。現在建設中および建設計画中のものを含めると、46年度末における脱硫装置の能力は44万バーレル/日になると見込まれるが、48年度の低いおう化目標を達成するためには、さらに約20万バーレル/日の脱硫装置を建設する必要がある。
 なお現在の重油脱硫方法には前述のような問題があるので、国の大型プロジェクト制度により懸だく床式重油直接脱硫技術の研究開発が進められている。
 第3は原油生だきの実施である。原油生だきは経済性があり、また有効な公害対策の手段でもあるので、電力産業の大気汚染防止対策の進展によって増加しており、44年度には約400万klになっている。従来原油生だきはC重油輸入予定量の範囲内にとどめることとされているが、当面、この方針は継続されることとなった。これは、その範囲をこえて原油生だきを実施すると、重油の分解を行なって精製パターンを変更するか、あるいは重油需要にあわせて石油製品のバランスをとり、国産ナフサの供給を減少せざるを得なくなるためである。
 当面、原油生だきの実施は、精製用低いおう原油の輸入および低いおう重油の輸入と密接な関係があるので、これら輸入見込量の推移をみつつ電力産業が大気汚染防止のために必要な低いおう燃料を確保できるよううそれぞれの時点で決定することとなっている。
 第4は排煙脱硫である。乾式法の排煙脱硫装置は国の大型プロジェクト制度による研究開発を44年度に終了しており、電力産業では、この研究成果をもとにさらに追加研究を行ない、45年度から実用規模に近い装置の建設に着手することとなっている。また、新増設の火力発電所には必要に応じて排煙脱硫のための用地を確保することとしている。排煙脱硫は、各種脱硫のうちでは経済性が高いと考えられるが、今後はその運転状況を早急に検討し技術の一層の効率化に努めつつ引き続き排煙脱硫装置の建設に努力を払っていく必要がある。湿式法の排煙脱硫は、技術的にはほぼ確立しているので、廃液の処理に十分留意しつつ、適当な規模の工場に装置を設置していく必要がある。しかし、これから装置を建設していくため、全体の重油需要量からみれば、48年度では、低いおう化手段として重要な位置を占めるには至らないとみられる。
 第5は低いおう重油の輸入である。近年のC重油輸入状況をみると低いおう重油の割合が増加し、平均いおう含有率は、41年度の1.82%から43年度には1.3%まで低下した。低いおう重油の輸入量には限度があるとみられるが、今後もさらに低いおう重油の輸入割合を高めていく必要がある。
 そのほかの手段としては、LNG(液化天然ガス)の導入と都市ガス等による地域冷暖房の実施とがある。
 LNGはいおう分を含まず、効果的な手段であるが、経済性に若干問題があり、計画の実現に長時間を要するという難点もある。このため、当面LNGの輸入が大規模になるとは想定しがたいが、将来における利用はしだいに増大するものと予想される。また、都市ガス等による地域冷暖房の実施は、ビル暖房等による市街地汚染の防止に有効であるので、その推進を図る必要がある。
 上記のような諸手段を実施することにより、48年度における低いおう化の目標は達成可能であるが、53年度における低いおう化の目標を達成する手段については、未確定な要因が多いため今後の推移をみて適切な組合せを決定すべきであろう。
 なお、燃料の低いおう化を実現していくことは燃料供給者および需要者の任務であるが、政府としても、その推進を図っていく必要がある。ことに、燃料の急速な低いおう化は、燃料の供給者および需要者にかなりの負担を与えるものであるので、それぞれの負担の公平化を期するとともに、財政、金融、税制上の援助措置を講ずることにより、その負担を軽減して燃料の低いおう化を推進する必要がある。

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