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第1節 

2 公害の動向

 わが国の公害の動向は、経済社会の急激な変貌を反映して複雑な様相を示しているが、これを公害の種類別に大観すると次の通りである。
(1) 大気汚染
 今日における大気汚染の最も重大な要因であるいおう酸化物については、45年2月における大気汚染防止法による排出基準の強化、重油の低いおう化の促進等によって、汚染の著しかった地域においては、汚染の平均濃度の低下傾向がみられるところが出てきたが、他方、高濃度の出現や、緊急時の措置を必要とする汚染の発生状況は、依然として、改善されないところも多い。また、京浜、阪神地域等においては汚染の広域化が問題となっている。
 なお、44年2月に決定されたいおう酸化物に係る環境基準に対する適合状況をみると、43年度全国172か所の測定所の測定実績では108か所が適合するが、川崎、大阪の一部等を含む残り64か所(約37%)は不適合となっている。
 降下ばいじんや浮遊ふんじんは、発生源における集じん施設の普及や燃料転換等に伴って全国的に減少傾向にあるが、北九州等の一部にふたたび漸増傾向に転じた地域があらわれはじめたことが注目される。
 また、自動車の急増に伴い、交通量の多い大都市の交差点等において排出ガス中の一酸化炭素による汚染が進み、工場等から排出されるものを含めて炭化水素、窒素酸化物の汚染、光化学スモッグの発生等も今後の問題として注目されている。特定有害物質では、アルミ精錬工場周辺における弗水水素等による農作物被害事件が発生し、地域的な問題となっている。
(2) 水質汚濁
 水質保全法等による指定水域等では、おおむね水質の汚濁の改善が見られる。都市内の河川では、隅田川のように、公共下水道の整備や浄化用水の導入等によって、相当の改善をみたものもあるが、一般的には、汚濁はまだ著しく、また、大都市圏の拡大に伴い汚濁の広域化もみられる。また、一般の河川では、汚濁源の増加に伴い、水質汚濁が大きな問題となっているものもある。湖沼では、汚濁が進み、燐、窒素等有機物の流入の増加に伴って生態系に変化を生ずる富栄養湖化の進行の傾向がみられるものもある。海域では、産業排水や都市下水により、内海や港湾の汚濁が急速に進んでおり、石油関連産業の急激な発達と海上交通量の急増に伴い、油による海水汚濁や水産物の被害が生じている。また、廃棄物やし尿等の海洋投棄による被害も多くなっている。
 さらに、水俣病やイタイイタイ病にみられるように、水銀やカドミウムなどの微量重金属による水質汚濁に起因して、人の健康が阻害されているケースもあるが、新たな被害の発生はみられていない。
(3) 騒音その他
 騒音については、43年12月の騒音規正法の施行に伴い、工場騒音や建設騒音に対する規制措置が進められたが、道路交通騒音、高速道路騒音や飛行場周辺の航空機騒音等の問題もあり、依然として騒音は公害に係る苦情・陳情の中で最多数を占めており、住民の日常生活に大きな影響を及ぼしていることがうかがわれる。また、飲食店、娯楽遊戯場等の深夜における騒音も地域の問題となっている。
 地盤沈下については、東京、大阪等の工業用水法、建築物用地下水の採取の規制に関する法律(ビル用水法)等による地下水くみ上げの規制地域では改善の傾向が示されたが、それら地域の一部や周辺地域において、地盤沈下が拡大する傾向がみられることが注目されている。
 悪臭については、パルプ工場や石油関連工場周辺における硫化水素、メルカプタン類による悪臭問題、養豚・養鶏場、へい獣処理場、魚腸骨処理場等の悪臭問題が依然として解消されていない。

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