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第1節 

3 国際的動向

 公害はひとりわが国だけの問題ではなく、いまや急速に世界的な規模で問題化しつつある。
 1968年12月3日国連総会は、人間環境に関する国連会議を1972年に開催することを骨子とする決議を採択し、翌69年5月には人間を取り巻く環境が都市化、工業化の進展に伴って危機に陥りつつあることを警告し、全世界に対策の実施を呼びかける事務総長の報告が行なわれている。さらに、現在は1972年の国連会議の準備、手続が進められているなど公害問題を巡る国際的な動きが国際連合を中心として急速に活発化してきた。
 米国のニクソン大統領は、1970年1月22日の一般教書で公害問題に対する積極的な決意を表明し、続いて2月10日には水銀汚濁、自動車排出ガス、廃棄物等の対策に関する特別教書を議会に送り、37項目にわたる具体的な防止対策を明らかにするなど公害問題に取り組む米国の強い姿勢を明らかにした。
 一方、ヨーロッパにおいても公害問題を巡る動きは活発となり、1970年2月、フランスのストラスブールで人間と自然を公害から守るための国際会議が20か国以上からの参加のもとに開催され、世界人権宣言に快適な自然環境を享受する権利を盛りこませる提案等を含む欧州自然保護宣言が行われた。また、OECD(経済協力開発機構)においても、経済開発における環境汚染問題、とくに水質汚濁、大気汚染、騒音、都市交通等の重要性に着目して、その対策に取り組みはじめた。
 なお、本年2月には、東京において公害問題を巡る国際シンポジウムが開催され、、13か国の社会科学者が討論に参加し、東京決議を行った。
 国連を中心とするこのような欧米諸国の動きの底流には、人の健康や生命に係る重大な公害事件を経験したわが国の公害問題のとらえ方に比べ、直接的な被害の防止対策という色彩よりも、むしろ、人類がこれまでその中において生存し、将来もその中においてしか生存できない自然環境そのものの保全という考え方が強く流れていることは、見落せないところであろう。

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