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第1節 

1 概説

 わが国の経済社会は、いま、いつそうの繁栄を目ざしてあらゆる分野において急激な変貌を遂げつつある。われわれの生活を取り巻く環境上の諸条件も、産業の発展、都市の膨張、運輸交通手段の高度化等に代表されるこれらの変貌の流れの中で大きな影響を受けている。きれいな空気、清らかな水、静ないこいの場所等人間の生活に不可欠な環境条件が公害によって脅かされ、すでに幾つかの地域においては深刻な事態を招いている。
 かつて、大自然は、人間の活動に伴って排出されたばい煙や汚水を受容し、これを自ら浄化することによって、自然界の秩序を保ってきた。しかしながら、今日、人間の営む諸活動に伴う公害発生の要因が質量ともに飛躍的に拡大、集積、あるいは複合されてきた結果、自然の自浄作用の限界をこえる汚染地域が出現するに至った。
 わが国の産業経済活動は、久しきにわたって世界にもまれな成長発展を持続し、なおいっそう拡大するすう勢にある。昭和43年度における国民総生産は、35年度の3.3倍にあたる52兆7,803億円に達し、西ドイツを追い抜き、自由主義諸国中アメリカに次ぐ地位を占めるに至り、35年から43年までの間に、鉱工業生産は2.7倍、重油消費量は4.6倍と大幅な伸びを示した。また、43年度末の自動車保有台数は35年度末に比べて3.9倍に達した。わが国社会の高密化傾向に拍車をかける都市化現象も急テンポで進み、市部人口の総人口に占める比率は、40年において68.1%にまで達している。このような動きに伴い、ばい煙や汚水等わが国土に排出される各種の汚染物質の総量はきわめて膨大な量にのぼり、また、騒音等の問題も広く国民生活を阻害する要因として登場するに至った。
 一方、わが国は、国土面積37万km
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の狭小な島国であって、利用可能な面積はさらに限定されており、このように制約されたスペースの中で1億の人口が生活し、巨大な生産活動をその他種々の活動が、公害防止への十分な配慮を欠き、しかも、土地利用の合理化や社会資本の整備等に対する十分な配慮なしに活発に続けられていることが、わが国の公害問題発生の大きな背景をなしている。とくに、人口および産業が集中し、旺盛な経済社会活動が行なわれる地域は、大平洋臨海地帯等に集まっており、そこに多量の汚染物質が排出されることから、大気汚染の進行もとくにこれらの地域において顕著になっている。京浜、阪神地域等すでに人口,産業の集中が極度に進行した地域においては、新規の工業立地等の余地はきわめて限られており、新しい適地を求めて工業開発が進められているのが現状である。さらに、拠点開発的な国土の利用開発から全国的なネットワークの形成による全国土の整備開発へと重点が移行しており、公害問題地域が拡大する傾向にある。

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