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第2節 

2 下水道整備の促進

(1) 河川の水質汚濁と下水道
ア 下水道の役割
 河川の水質が汚濁するおもなる原因は、その河川流域内の市街地および市街地近郊の不特定多数の工場、事業場、家庭等から発生する汚水がほとんど未処理のまま河川に放流されていることによる。
 一方、日本の都市周辺の河川は、洪水時をのぞき、流量は非常に少ないため自浄能力が少なく、汚濁の進行が容易な状態にある。
 この事態に対処するためには、汚水を、完全に処理し、浄化した状態にしてから河海に放流する以外に解決の道はない。
 この意味で公共下水道は、市街地から発生する汚水を、集約し、終末処理場で処理を行ない、安全無害に浄化して河海に放流する施設であって、水質汚濁の防止に抜本的な役割を果たす都市の基幹施設であるといえよう。 
イ 流域下水道
 近年の都市圏は、行政区画をこえた各地域ごとに形成されているが、このような都市部を流れる河川の水質汚濁の防止を図るためには、従来の行政区単位にとらわれず、地形に従って汚水を集めることが最も能率的であり、またそれに対応した適正な規模で処理場を集約化できれば、より経済的でしかも維持管理しやすく、広域的な水質汚濁対策が可能となる。
 たとえば、各市長村単位で計画される公共下水道の整備に関し、河川流域内の各都市間の財政状態、執行体制のアンバランスによって、下流の都市では公共下水道は整備されたが、上流の都市では依然として汚水を未処理のまま放流しているという事態も生じ、河川の統一的な水質汚濁防止事業を達成するためには各都市を包括した総合的計画によらなければならない
 なお、この事業は、都道府県が、国の高率の財政援助を受けて処理場と幹線下水路を築造し、各都市は、その行政区域内の下水をその幹線に流入させる公共下水道を整備することとされている。
ウ 特別都市下水路
 現在の下水道排水に当たっての最も高級な処理法である活性汚泥法は、家庭下水を主たる対象にして発達してきたものであるが、工場排水を混入しても同方法で処理できるまで技術が向上している。一方、工場、事業場においても、単独で工場排水を処理することが技術的にも、また経済的にも困難である場合が多い。そのため工場排水については、公共下水道の施設に被害を及ぼさないように、各工場で前処理したうえ、家庭下水と混合して処理を行うことが、最も経済的でかつ安全な処理法である。
 なお、悪質な工場排水については、下水道使用料の微収に当たって、その排水の質と量に応じた処理の困難度によって負担させることが合理的な解決方法であろう。さらに、大規模な工業化が進められる工業団地、零細な企業が密集している地域では、各工場に前処理施設を設けることが不経済になったり、資金的に到底不可能となる場合が生ずる。この場合、地方公共団体が企業側に費用の一部を負担してもらい下水道により工場排水の処理を行ない、その処理程度が河海に放流可能であればそのまま放流し、危険であれば公共下水道で再処理して河海に放流することが、きわめて効果的である。特別都市下水路事業は、このような期待にこたえて実施されているものであるが、この場合における資金負担の割合は、原則として国、府県、市および企業がそれぞれ4分の1ずつとされている。
 たとえば、東京都における浮間処理場においては、隅田川の支川である新河岸川流域の工場排水(金属化学薬品、メッキ、色素、染料、顔料、食品、紙パルプ等730余の工場排水)を対象として一次処理を行ないさらに新河岸処理場において家庭下水と混合して高度の処理を行なうよう計画されたものである。
(2) 下水道の整備計画
 わが国の下水道事業は、生活環境施設整備緊急措置法(昭和38年12月24日法律第183号)の規定により、初めて計画的投資を行なうようになり、それ以来事業量は急速に増加してきている。その後、政府による中期経済計画の改訂、経済社会発展計画の策定に伴い、下水道事業はさらに多くの投資が必要であるとされたため、政府は、下水道整備緊急措置法(昭和42年6月21日法律第41号)を制定し、下水道整備第2次5か年計画を現在推進している。この計画の事業費および事業量は、44年2月21日に閣議決定されたが、その内容は第3-3-4表および第3-3-5表のとおりである。
 この計画の実施に当たっては、公共下水道および流域下水道については、まず公共用水域の水質汚濁を防止するため、緊急に実施する必要のあるものに重点を置いて整備することとし、特別都市下水路については、工場排水等によって公共用水域が汚濁され、都市環境が著しく悪化しているため、特に緊急に実施する必要のある地域について整備することとしている。
 このように、下水道整備第2次5か年計画は、水質汚濁防止に重点を置き整備することを明らかにしており、これに対応する事業費の面においても十分な配慮が払われている。


(3) 昭和43年度における下水道事業
 43年度は、5か年計画の弟2年度にあたり、全国で約1,387億円(国費約312億円)の下水道事業を行なった。このうち河川汚濁防止対策事業ともいえる公共下水道、流域下水道、特別都市下水路の合計は約1,314億円である。
 このうち、約1,236億円を投じて公共下水道を建設したが、その都市数は210に及び、人口10万人以上の都市はほとんど含まれている。また、特に河川の汚濁が著しい東京、大阪、名古屋、福岡等の弟3-3-6表に示す水系については、重点的に投資を行なった。その総額は約653億円である。


 流域下水道は、約62億円で第3-3-7表の個所の事業を実施した。これらはいずれも水質保全法により水質基準が設定され、または近く設定される見込みの水域であり、下水道事業の整備が急務となっていたものである。
 なお、新規事業として、発展する首都圏内における貴重な水資源とされている千葉県の印旛沼および東京都の多摩川の2か所で流域下水道の敷設工事に着手した。また、特別都市下水路は、約17億円で、第3-3-8表の個所の事業を実施した。

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