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第1節 

3 水質保全法の施行状況

(1) 調査基本計画
 水質基準を設定するためには、水域における流水の水質、工場排水等の水質および両者の因果関係等について詳細な科学的調査が必要であり、水質保全第4条において、水質基準の設定等の措置の円滑な実施に資するため、経済企画長長官は水質審議会の議を経て「公共用水域の水質の調査に関する基本計画」を定めるべきことを規定している。
 これに基づき、昭和36年7月7日経済企画庁告示第3号として告示されたが、その後の水質汚濁調査の緊要性にかんがみ、新5か年計画として41年4月25日経済企画庁告示第5号により全面的に改正された。その骨子は、次のとおりである。
ア 調査対象水域
 すでに、水質調査を実施した51水域を除く既計画水域の70水域、および緊急に調査の必要があると認められる新規水域(ほぼ60水域)とする。
イ 調査終了予定期限
 昭和45年度末とする。
ウ 水質調査法
 調査の種類は、水域の指定に関する調査、水質基準の設定に関する調査および特殊問題に関する調査等とする。
 調査の内容は、公共用水域の水質に関する調査工場または事業場等の排水に関する調査ならびに水質の汚濁の原因および影響等に関する調査等とする。
(2) 公共用水域の水質調査
 調査基本計画に基づく公共用水域の水質調査の実施状況は、第3-3-1表のとおりである。
 調査対象水域の決定は、水質審議会の議を経てなされるが、具体的な調査は、関係都道府県や地方通商産業局等に委託して実施されている。


(3) 指定水域の指定および水質基準の設定
ア 指定水域の指定および水質基準の設定は、水質保全行政の眼目であって、水質保全法第5条により水質調査を終わった公共用水域のうち、当該水域の水質の汚濁が原因となって関係産業に相当の損害が生じ、もしくは公衆衛生上看過しがたい影響が生じているもの、またはそれらのおそれがあるものを指定水域として指定し、その際指定水域に汚濁水を排出する工場、事業上、鉱山または下水道の排水口における排水の水質基準を定めることになっている。
イ 昭和44年3月までに指定水域の指定および水質基準の設定が行なわれた水域は前掲の第3-3-1表のとおりであり、メチル水銀規制水域29水域を含め59水域にのぼっている。
ウ また、すでに水質審議会において答申を得た近畿圏を流れる都市河川(寝屋川、神崎川、淀川下流および大阪市内河川)については、近く告示される運びとなっている。
エ なお、このほか木曽川下流、阿武隈川、大竹・岩国池先海域、五ヶ瀬川、網走川、十勝川、矢作川、狩野川、常盤池先海域、和歌川、高松市内河川およびパルプ、でんぷん、水銀等の特殊問題については、現在水質審議会(特別部会および総合部会)において審議中である。
(4) 都市河川方式による水質規制
ア 従来は、特定の産業と特定の産業(特に鉱工業と農漁業)との間の紛争の処理に重点が置かれていたため、被害の状況、汚水の処理の状況等について詳細な調査解析と行ない、これをもとに所要の水質規制の基準が定められていた。しかしながら、大都市部を流れる河川(都市河川)については、不特定多数の工場、事業場および家庭等からの排水により不特定多数の工場、事業場および家庭等からの排水により不特定多数の工場、事業場および住民等が被害をこうむっている状態であり、従来の方式によっては、水質基準の迅速かつ円滑な設定が困難な場合が多々生じてきた。このため、このような事態が顕著に現われる都市河川については、加害、被害の不特定性に着目して、従来の調査分析方式とは異なるいわゆる都市河川方式に基づき水質規制の基準を定め、最近の水質汚濁の事態に対処することとしている。
イ その方式は、新規立地の工場、事業場についてはすべてその排水の水質をきびしく規制するとともに、既存の工場、事業場については、暫定的に各河川の特殊事情を考慮しながら一般基準を定め、特別の事情のある工場、事業場については、特例基準を定めるものである。
ウ また都市河川方式は、公共下水道の完備を目標としており、公共下水道からの排水については、原則としてすべて高級処理とすべきことを定めるものである。
エ この都市河川方式によって水質規制を行なつた水域は、首都圏、近畿圏等の都市河川14水域にのぼっている(第3-3-1表参照)。
(5) 指定水域のアフターケア調査
 水質保全法に基づき指定水域の指定と水質基準の設定を行なつたあとは、工場排水法等を所掌する各関係省庁において工場、事業場等の水質基準の遵守に関し、所要の指導監督を行なっているところであるが、経済企画庁においても、指定水域の水質のその後の状況を監視し、排出規制の効果を総合的にチェックするとともに、問題があれば適切な措置を講ずるため、昭和38年度からは所要の予算を計上し、関係都道府県への委託による水質保全調査(アフターケア調査)を指定水域の指定後3年以上にわたり継続して行なっている。
(6) 和解の仲介
ア 和解の仲介制度は、工場、事業場から公共用水域に排水された水または工場、事業場から公共用水域に排水される水の処理に伴つて生じたもので、工場、事業場から公共用水域に廃棄されたものによって生じた水質汚濁による被害について民事上の紛争が生じたときに、当事者は都道府県知事に和解の仲介の申立てをするみちを開いたものであつて、申立てを受けた都道府県知事は、和解仲介員を指定して、その処理をすることになつている。
イ 現在水質保全法に基づく和解の仲介は、申立件数34件、うち解決33件となつている。仲介事案の概況は、第3-3-2表のとおりである。なお、本制度は、第61回国会に提出されている「公害紛争処理法案」に吸収される予定である。

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