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第2節 都市河川の汚濁の状況

 全国河川の水質汚濁による被害の範囲は、いわゆる都市公害の問題とともに水産業、農業関係ならびに上水道、工業用水等の各部門に広がってきている。なかでも都市周辺の河川は、最近の急激な都市人口の増加と産業の飛躍的な発展に伴って家庭排水ならびに産業排水の増大をきたし、これらが不十分な処理のまま放流される場合が多いため、水質の汚濁が進展している
 水質の悪化は、水資源としての価値を低め、浄水コストを高めているのみならず、特に上水道においてはフエノール類等の有害物質の混入などの事故を起こしている例もみられている
 さらに汚濁が進行している大都市圏の隅田川多摩川下流、淀川(大阪市内河川)等の河川では、水資源として利用することはきわめて困難となっており、さらに悪臭、腐蝕などの生活環境の面への悪影響が生じている現状であり、水質汚濁の進行によって流水の正常な機能が著しく阻害されつつあることは重大な問題である
 都市の急激な膨張とともに、ア、近年、化学肥料の普及によってし尿の農地還元が減少していること、イ、都市の急激な膨張に伴って大都市周辺では農地、工場、住宅地が入り混じり無秩序な発展が生じて、いわゆるスプロール現象をみせていることは、計画的な公共施設の整備を困難にしているとともに、下水道についても整備を著しく立ちおくらせている原因となっていると考えられる
 都市河川へ排出される産業排水の水質は一般的に業種が多様化し、かつ大小さまざまな規模の企業が混在しているため、多種の含有物を有しており、排水の処理方法とともに、その規制についても技術的、行政的に多くの解決されるべき問題を包含している
 以上のごとく都市河川の汚濁問題は、その他河川に比べて複雑な要素を多く含んでいる。また下流部干潮地域においては、隅田川にみられるように満潮時には河口周辺の汚濁が混合してそ上するなどの現象が起こり、また都市内の内水河川についてみれば自己流量が少ないため流入する汚濁水を希釈し、かつ浄化する機能も多くは期待できないため、隅田川、寝屋川のごとく他河川より浄化用水の導入を行うことや下水処理技術の高度開発等抜本的な汚濁対策を講ずる必要があるものもある
 元来河川は清流として人間生活に貢献してきたもので、農業用水、上水道、工業用水の水源として利用されており、特に地域開発の原動力として水資源の価値は重視されているところである。また、欧米における都市河川の水質汚濁問題が都市生活の環境として良好な状態を維持することに大きな配慮が払われてわれているが、わが国においても最近都市周辺の用地が不足し、自然の景観も失われつつあることなどから、遊歩、釣りならびに公園工場等レクリエーションとしての河川の機能が再び見直されている。多摩川のごとく積極的に都市河川星美を行なって高水敷を利用しているのもその一例である。
 都市周辺は、将来とも水需要が増大するため、その供給とともにその排水量も増大するものと考えられるので、現状のままで放置されるならば、河川水質は悪化の一途をたどることは明白である。この対策として河川の正常な機能を維持するため必要な河川水質を目標として将来の汚濁負荷量の推定に基づき、強力な排出水の水質規制ならびに下水道の整備の推進を図らなければならないが、特に現在すでに汚濁の著しい河川流域においては、公害対策の抜本的強化の見地から、汚濁負荷量の大きな工場の新規立地を規制することも十分検討しなければならない。
 また、水質規制措置の実地に当たって従来特に問題となっていることは、ア、産業排水の処理技術の開発、イ、零細企業における処理設備の具体化であってこれらがあい路となって水質保全の措置を強力に推進することが防げられる場合いが多いので、今後はこれらの抜本的な解決がなされることが望まれる。 
 都市河川の水質は上水道等でその影響するところが多く有害物の混入等異常な河川の水質を早期に発見し、その対策を講ずる必要がある。このために河川水質の監視体制を確立していくことは、今後の重要な課題の一つである。
 一般に都市河川の生物化学的酸素要求量(BOD)の目標は5ppm以下〜10ppm以下とされているが、東京城南水域(古川、目黒川等の市内河川)をはじめ、寝屋川、神埼川等の汚濁は特に著しい。荒川(甲)水域(隅田川、新河岸川)については、汚濁対策事業として、利根川から浄化水を導入したこと、公共下水道の整備が進んできたことなどにより、昭和43年7月以降は、10ppm以下の状態が増加しつつあって、都市河川の浄化に対する手段としてきわめて有効であることを物語っている。
 河川の状況、企業立地等の条件にもよるが、このような環境を保っていくためには、汚濁防止に対する地域住民の協力がきわめて有効であることを物語っている(第2-2-2表参照)。
 (注)BODについては、次のような水域の水質目標値が参考とされている。
 3ppm以下:上水道の原水およびサケ、マスなどの生息の許容目標値
 5ppm以下:こい、ふななど川魚の生息許容目標値
 10ppm以下:環境衛生上悪臭などで人の健康に支障を及ぼさない目標値

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