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第1節 水質汚濁の概況

 近年、わが国経済の高度成長、地域開発の進展に伴い、公共用水域(中:河川、湖沼、かんがい用水路、港湾、沿岸海域、その他公共の用に供される水域)の水質の汚濁が著しくなるとともに、メチル水銀等による水質の汚濁が国民の健康に重大な影響を及ぼすようになり、これら水質汚濁問題に対する国民の関心も深まりもあって、水質保全行政の強化が一段と必要になった
 経済企画庁は昭和33年に制定をみた水質保全法に基づいて調査基本計画をたて、水質汚濁の状況は握に必要な調査を34年以来、現在までに対象とした全国166水域のうち136水域について実施してきた。 
 これらの水域の汚濁の原因となっているものとしては、鉱山排水、各種工場排水、都市下水、船舶からの廃油および廃油処理施設からの排水のほか、し尿処理施設、へい獣処理施設、と畜場、砕石業に係る事業場および砂利採取業に係る事業場等からの排水、その他養豚場、養鶏場、クリーニング業、団地、病院、学校等からの排水をあげることができる
 一方、被害の対象としては、上水、工業用水、農業用水等の各種用水、水産業、船舶の外板や橋脚の腐蝕等のほか、都市における環境衛生上への影響から人体の健康に及ぼす影響にまで広がっている。特に人間健康の問題となった水俣病は工場排水中に含まれたメチル水銀化合物が魚介類を通じて人体に蓄積した結果であり、「イタイイタイ病」は鉱山排水中に含まれたカドミウムがおもな原因の一つになっている
 ここで水質汚濁の経緯をみると、一つには各種産業が今日の繁栄をわが国にもたらした蔭に、生産性の向上と、コストの低下のため設備拡張の際に廃水処理への配慮が十分なされなかったことと、一つには、人口の都市集中に伴う下水量の増加に対して、下水道事業などの進ちょくが追いついていない点に主たる要因がある。したがって各種産業と人口の密集する都市部の水域については、水質保全法による規制を実施し、あわせて下水道の整備等により逐次正常な機能を持つ水域へと回復させる必要があろう(第2-2-1表参照)
 また、近年、新産業都市建設促進法、工業整備特別地域整備促進法の施行等に伴い、工場建設の急なために、地元および下流域の農業、漁業などの一次産業との間に相互協和が行われがたい場合とか、排水処理の立ちおくれのために思わぬ障害が生ずるケースがある。企業の側が、これらの点で最大限の改善努力をなすべきであることは当然ながら、指導の側にある国や地方公共団体においても企業建設による水質汚濁についての今後の予測を見誤ることなく、必要な対策を立てる必要がある
 一方、都市用水、農業用水等の急速な需要増加に対処するため、大規模水資源開発の必要があるが、河川流域の開発が盛んなために、水源地域への汚染も漸次進む形勢にある。たとえば天竜川の水源である諏訪湖は近年汚濁が急激に進んでおり、琵琶湖南半分、霞ヶ浦、利根川上流、木曽川、長良川等は水資源開発用のうえからも積極的に水質汚濁防止を実施する必要が生じつつある
 水質汚濁の範囲は、水利用の実態に応じて、人間の健康に影響を与える状態にある水域から、用水源としての必要な水質を保つために、汚濁進行の恐れありとして防止策を講ずべき水域まで幅広く存在するので、汚濁の現状が一律に論ぜられないうらみはあるが、水資源の合理的利用を図りつつ、適切な汚濁対策を講ずべきであろう
 なお、在日米軍および自衛隊の使用している施設の周辺においては、演習などにより土砂が河川に流入するなど局部的な水質汚濁が発生している例がある。これらについては地元補償など適時適切な措置が講ぜられている

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